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    調@大人向け他

    INFO3月16日東京開催のHARUCOMIC CITY 34にて、『その健やかなるときも』(小説合同誌)を頒布いたします。
    執筆者は以下、
    ORION 夜明さん
    BellaDonna Doll 高階さん
    くじら書房 えすさん
    白妙舎 調
    新婚をテーマに四季をそれぞれが担当し、それぞれの塚不二を綴っています。
    こちらは調担当の秋「I know」冒頭のサンプルです。
    『その健やかなるときも』「I know」より抜粋   一


     夜のふもとともまた違う、薄闇に手塚は立っていた。視界はうっすらすみ色で、その暗がりのどこかから、まっかだな、と歌声がした。誰のものともしれない声が繰り返す。まっかだな、まっかだな――……。
     小学校で、秋になるとよく歌わされた童謡だ。そうだ、俺にはこの歌がよく分からなかった――。手塚は今さらそんなことを思い出す。もう十何年、いや、何十年は前の話だ。
     幼い疑問が闇の中、無音で首をかしげている。あちこち真っ赤で、きみとぼくもほっぺたが赤くて、だからどうしたというのだろう。紅葉こうよう、夕日、秋なら当たり前のことだ。
     綺麗な秋をきみと過ごせてしあわせなのだと困ったように笑ったのは、何年生の教師だったか。音楽を習った教師は多くない。その内の誰かであるのだろうが、顔はそれこそ闇のようにぽっかりと暗い口を開けていた。ぎこちなく笑みを作った唇が、はくはく動いて手塚に言う。手塚くんには、むずかしいかな――?
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