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    真似

    ささじま

    DOODLE単発です。幻想小説の真似ごとということで、深く考えないで読むことをお勧めします。2021/2/21しゃきん。
    意識がそこから始まった。
    目の前に天城燐音の顔が浮いている。いや浮いているのではなく、からだが大きな布で隠されているのだ。さながらてるてる坊主のように。しばらく惚けたように眺めて、それが鏡であることに気がついた。
    天城燐音は肘掛け椅子に座らされていた。見ていないが、焦茶色でつるりとした感触をしていることがわかる。鏡の中に映り込む背後は薄暗く、何か並んでいるようにも見えるが、輪郭がぼけていて判然としない。後ろの方に一つ、高いところに明かり取りの窓があって、その向こうは大通りに面しているのか、人が醸し出す賑やかな空気が伝わってきた。
    今は何時だろうと、鏡を覗き込む。鏡の中に時計はない。あったところで、あべこべの時間を示すだけだと気がついて、天城燐音はぼんやりと覗き込むのをやめて、深く椅子に座り直した。どうしてだか、ひどく億劫だった。
    しゃきん。
    金属が軽く擦れるような涼やかな音が響く。一拍遅れて、さっき聞いた音と同じ音だと気がついた。
    唐突に、目の前の鏡面の奥の暗がりで、銀色に煌めくものがあった。水面下で煌めく魚の鱗を咄嗟に連想する。それにしてはいやに小さく、鋭い。
    鋏だ。あれ 1674