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    hiko_kougyoku

    DONE若やまささ+雨緒紀……他
    「痛みと慈しみ」⑤(終)
    ※雨緒紀の物語・完結編
    ※やまささと言い張る。
    ※捏造あり。かなり自由に描きました。
    ※名前付きのモブ有。
    ※途中流血・暴力描写あり。
    痛みと慈しみ⑤(終)  6

     流魂街で刀傷沙汰は避けるべきか。憎々しげに細められた目を見据えながら、雨緒紀は考える。亀之助を人質に取っているせいか市六たちが行動を起こすことはなく、一定の距離を保ちながらこちらを睨みつけてくるのみ。だがその全身から染み出すように放たれる殺気は、男たちの裡で燻るじれったさの表れであり、ぴりとした緊迫感を肌で感じながら雨緒紀は神経を研ぎ澄ましていた。
     少しの間そうしていたが、やがて痺れを切らした四角顔が吠えた。
    「卑怯だぞ!」
     なんとも子どもじみた台詞を、雨緒紀は鼻で笑って跳ね除ける。
    「お前たちに言われたくはない。さあ、長次郎を連れてくるのか? それとも、ここで斬られるか?」
     言いながら更に刃を押し付けると、亀之助はか細い声をあげながら体をこわばらせた。自らの命の手綱が他人に握られているという、絶対的な状況に愕然とし、恐怖のあまり混乱しているのか、脳の指令とは無関係に体を小刻みに震わせている。ねじり上げた腕から伝わってくる震えを押し込めようと指先に力を込めた時だった。痛みに呻いた亀之助が泣き言とばかりに漏らした声を聞いたのは。
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    DONE若やまささ+雨緒紀……他
    「痛みと慈しみ」④
    ※雨緒紀の物語・完結編
    ※やまささと言い張る。
    ※捏造あり。かなり自由に描きました。
    ※名前付きのモブ有。
    ※途中流血・暴力描写あり。
    痛みと慈しみ④  5

     死者が何かを語ることはないものの、今はその墓に向かって問いかけたい心持ちだった――長次郎はどこに行った、と。
     北流魂街七十五区に再び足を踏み入れた雨緒紀は、長次郎の霊圧を追って昨日と同じく作兵衛の墓前へと訪れていた。目に映る景色も鼻腔をくすぐる枯れ葉の匂いも何一つ変わらないはずなのに、雨緒紀の胸は凪いだ湖面のようだった昨日とは違い、燻っていた熾火の熱を思わせる静かな滾りを湛えている。その滾りが皮膚を這い上がる痺れとなり、霧散する霊圧の残滓を知覚すると、雨緒紀は自分の顔から表情が失せてゆくのを感じた。
     不自然に途絶えた霊圧は、長次郎がこの場所で消息を絶ったことを物語っていた。しかも自分の意思ではなく、誰かの手によって。ならば誰が、一体何のために? 次々と浮かび上がる新たな疑問に、いっそふもとの集落をしらみつぶしに探すかと考えていた時だった。作兵衛の墓の傍に立つクヌギの木の後ろから男が一人、顔を出したのだ。
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    DONE若やまささ+雨緒紀……他
    「痛みと慈しみ」①
    ※雨緒紀の物語・完結編
    ※やまささと言い張る。
    ※捏造あり。かなり自由に描きました。
    ※名前付きのモブ有。
    ※途中流血・暴力描写あり。
    痛みと慈しみ①  1

     そこに眠る死者の頭を優しく撫でるように、風が吹く。冷たい風だった。その息遣いに合わせてさわと囁くように揺れるのはついこの間まで極彩色の葉を纏っていた枝々で、むき出しになった木の表皮が、秋の終わり特有の寒々しさをいっそう際立たせている。
     雨緒紀が北流魂街七十五区の山中に足を踏み入れたのは、あの一件からはじめてのことだった。渦楽作兵衛の手によって引き起こされた、瀞霊廷を揺るがす数々の騒動。憎悪という、それまで生きるよすがとなっていた感情に衝き動かされた作兵衛は元柳斎の暗殺を企て、そしてこの地で長次郎の手によって粛清され、葬られた。
     あれからまだひと月も経たないというのに、作兵衛の墓――墓と言っても墓標どころか目印すらもない、土が盛り上がっただけの場所――の上には水分が抜け、色彩を失った枯れ葉がいくつも重なっており、雨緒紀には、それがまるで葬られている人間の存在自体を覆い隠しているように見えた。雨緒紀自身も同情をするつもりは微塵もない。全てがあるべき結果へと帰結した、ただそれだけのこと。
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