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    滝の中

    DONE世界の端っこのとあるサミ缶それは路地裏のゴミ山の端に転がっていた。
    なぜそんな所で見つけたかと言うと、自分もそのゴミ山のゴミと同じように地面に体を放り出していたからだ。服はもう何日着たかわからないしあちこち擦り切れてボロボロで、髪も髭も伸び放題。とにかく何か腹に入れたくてゴミ山を漁ったが、めぼしいものもなくやがて体に力が入らなくなりそのまま倒れ込んだ。もうここで終わりだろうか。最期までろくでもない人生だったな、と瞳を閉じるとくだらない思い出達が脳裏をかすめて、これが走馬灯かと自嘲気味に笑った。
    その時、コン、と耳に金属音が届いた。
    ネズミだろうかと薄く目を開けると、かすみがかった視界の中に一際存在感を放っている、ひとつの缶詰があった。こんなもの先程まであっただろうか。這いつくばったままにじり寄り、震えている手でそれを掴んだ。缶詰はあちこち錆びていて表示がうまく読み取れない。何かの──シロップ漬け、ということがどうにかしてわかる程度だ。見るからにしてかなりの月日が経っている代物のようだった。だが外側が錆びていても内側は大丈夫かもしれない。今はとにかくその缶詰に天啓のように感じ、少しでもいい、腐っててもいい、口 2490

    夜間科

    DOODLEサミ缶サミ缶とはすなわち、広告の品であった。
    日常的に立ち寄るスーパーで、毎日違うものにラベリングされたその四文字は安さの象徴だ。あるときは肉が、またあるときはアイスクリームが常に資金不足の学生や主婦の注目を浴びる。サミ缶も例に漏れず、黄色と赤の主張の激しい価格表示で売られていた。
    ところで、サミ缶とは果たしてなんなのか?
    フルーツの缶とツナやコーンやトマトの缶のちょうど境目にそれは陳列されていた。大きさは隣に並ぶ桃の缶詰と同じくらいだ。サミとは何か。果物の類なのか、それとも野菜や魚を加工した食品なのか。もしかしてサバの親戚だろうか。イメージ写真の類はなく、製造側の売ってやるぞという気概が一切感じられない。甘さひかえめとか朝食にぴったりとか、キャッチフレーズもない。「これはサミ缶である」以外の情報を徹底的に排した殺風景極まるデザインだ。

    手に取ってみる。それなりに重たく、中身はしっかり詰まっているような印象を受ける。原材料はサミ(遺伝子組み換えでない)とシロップだ。成分表示によるとそれなりにたんぱく質が豊富である。しかしシロップに漬けられていることから察するに、魚や野菜よりは果物寄りの食品 2102