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    耀

    Tonya

    MOURNING「破竹の夢」
    APH 菊耀
    おいでおいでと白い手が招いている。青々としたさざ波に垣間見える色染めの裾が手招きするたびゆらゆらする。天上から光が燦々と差し込み、緑の葉が擦れてさらさら鳴る。
    私は嬉しくなって招かれた方へ駆け出す。あの人が隠れていた場所まで着いて、周囲を見回したが誰もいない。はてと首を傾げていると先の方でまたさらさら竹が鳴る。ずっと先の方でまたあの手が揺れている。細い手首が陽に透けてぼんやり輝いている。私はまた駆け出す。さっきよりも随分走って、もうよかろうと立ち止まったらまた竹林の奥から手招きするのが見えた。
    周囲には足跡のひとつもなく細長い葉ばかりが繁っている。翠緑を透かした向こうであの人がからから笑っているような気がして、気恥ずかしいと同時に悔しくなった。今度こそと私は湿った土を蹴る。息が切れるまで行っても着いた所はやはり伽藍としている。奥の方では相変わらず白い手がゆらゆらしている。
     何度も駆け出し、立ち止まっては失望するのを繰り返した。私の狭い歩幅ではあまりに遅々として追いつけない。自分の小さな体躯が嫌になった。まっすぐ延びた竹さえ羨みながら、諦めることはできずにまた走る。
     そのうち日が傾き 1285

    Tonya

    MOURNING菊耀
    掘り起こしたもののオチを忘れたため供養。
    柱時計がこちこち規則的に鳴っている。目を開けると天井の木目が視界に広がった。上半身を起こすと直に床へ押し付けていた肩甲骨が軋む。
     窓の外はうららかな晴天。寝入ってから二時間ほど経っていた。静かな部屋に視線を彷徨わせ、はてなと首を傾げる。目覚める直前まで誰かといた気がしたのだが、夢だったらしい。
     襖の向こうから子犬がやって来て、体をすり寄せる。柔らかな毛並みを撫でると、指の流れに沿って白い毛の塊がいくつも落ちた。ぽちくんもう抜け毛の季節ですか、春ですねえと独りごちる。子犬はつぶらな目を飼い主に向けてわんと応える。
     私用の携帯電話に留守電が入っていた。ボタンを押して数秒後、再生がはじまる。
    『菊サーン?こちら梅だヨー。前言ってた祝賀会、明後日の夕方からだからネ。くれぐれも忘れないようにって、老師からの伝言!……え?何も言ってないですヨ、どうしたの〜。あはは、照れなくてもいいヨ〜………あ、ごめんネ菊さん、老師がうるさくて。それじゃ、また会場で会おうネ!』
     梅の笑い声と、背後でワァワァ喚く声、ついでに冷やかしの口笛とともに録音は途切れた。大方そばに耀や香もいるのだろう。菊は溜息を吐いた 4584

    Tonya

    MOURNING肉体関係ありの菊耀。中途半端に終わる。布団の袂に紺の着流しが昨晩脱いだなりに放ってある。それを羽織ってから雨戸を開けると、床の間に朝日が燦々と差し込んだ。土の匂いを含んだ風が首筋を吹き抜けて心地いい。庭木についた雨粒がきらきら光りながら滴る。
     背後で布団の擦れる音がする。振り返ると、耀が起き出して鬱陶しそうに乱れた髪をかき上げていた。こちらの方を見て眩しそうに目を眇める。
    「おはようございます」
    「早安」
     風呂に入りさっぱりしてから朝食をとった。もう若くはないので、昨晩いくら遅く寝たといっても定時に目が覚める。耀もそれは同じはずだが、菊を強引に食卓に座らせて手際よく朝食を作るあたり、とても云年歳と思われない。さらに習慣で朝は体を動かさないと気持ちが悪いと言って、よれた万博Tシャツに着替える。「昨夜あれほどでしたのに元気なものですね」と揶揄うと、照れもせず「誰かさんと違ってまだまだ若えあるからな」と返事を寄越して出ていく。可愛げを期待できる相手ではなかったようだ。
     番茶をすすりながら不毛の二字が浮かぶ。何が不毛といって届かない片想いほど不毛なものはない。恋に身を焦がして死ぬに至れば美談にもなろうが、生憎自分の身が滅びる 2252