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    羅小黒戦記

    桜道明寺

    DONE羅小黒戦記ワンライまとめ・7
    【七刀】【傘】

     ばたばたばたばた、と頭上で油紙が鳴っている。
     夏の雨は容赦がない。一粒一粒が重みを持って礫のごとく打ち付けてくる。
     肩にかけた傘の柄を傾け、前方から吹き込む雨を凌ぐ。そうしても足元や片袖は水を吸って色濃く重くなっていく。
     ――やっぱりもう少し居れば良かったか。
     出先で、昼を食おうと店に入った。飯を食っている間にどんどん空模様が怪しくなり、遂には雷鳴も伴うような雨が降り出した。雷に恐れを抱くような自分ではないから、構わず店を出ようとしたところ、給仕をしている小娘に呼び止められた。店の傘を使えと言う。見れば入り口横の傘立てに、数本同じ柄の傘が刺さっていた。それを見て得心する。最近は傘に屋号を書いたものを貸し出す店も多いと言う。宣伝になるし、また、返しにきた時にあわよくばまた客になるかもしれないからだ。普段なら断るところだが、使ってみる気になったのは、飯がまあまあ美味かったからだ。それに、好き好んでずぶ濡れになることもあるまい。雲の上まで飛んでしまえば濡れずに済むが、いまは腹ごなしにぶらぶら歩きたい気分だった。まあ、雨が止んだらその辺に棄ててしまえばいい。そんな気まぐれが幾つか重なって、俺はいま他の音をかき消すほどの雨に降り込められながら、人気のない道を歩いていた。
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