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    パイン

    おぢん

    PROGRESSドラゴンスパインと親友 1草木も凍る冷え切った寒空の下、ざくざくと霜柱を踏み締める音だけが響く。薄く引き結ばれた口元から漏れ出づる吐息は、慶雲頂の薄雲のように細くたなびいた。
     方士が璃月を離れてどれほどの時が経ったろうか。俗世の喧騒から逃げるようにして行き着いた雪原は、歓迎も拒絶もせず、ただ彼がそこに在ることを受け入れた。そうは言っても、依頼さえあれば出向かねばならぬのは当然のことで。久々に訪れた璃月港は、灰色の静寂に馴染んだこの身に酷く眩しかった。
     聞けば飛雲商会は益々の発展を遂げているようで、極彩色の錦傘は先行きの明るいのを喧伝するかのようだ。ちらちらと舞い降りる白雪を、未だ網膜に焼きついたままの丹青の残滓が淡く彩る。
     この山眠る大地に雨が降ることはなく、雨傘など差し方も忘れてしまった。もっとも、かの錦は日除けにすらならないと誰かが言っていたけれど。
     洞窟の奥地の氷柱にどさりと背を預けた。背から伝わる心地よい冷気が、俗世に浮かされた熱を諫める。どこからともなく聞こえる氷河の静かなる唸りは穏やかに頭蓋を揺すり、遠い記憶を呼び戻した。
     あの日もこうして囁くような唸り声に耳を澄ませていた。
    「重雲重雲、 2972