魔法使いの約束
なつゆき
DONE【まほやく】東の魔法使いが事件を解決する話。私は、子どもが親を選んで生まれてくる、という言説が死ぬほど嫌いです。
銀色の糸「どうしたんだい賢者さん。難しい顔して」
帳面と睨めっこしていた賢者は、軽やかで少しだけ気だるげで、からかうようで労わるような声に顔をあげた。「ネロ」と名前を呼ぶと、空色の髪の主は食堂の入り口で口もとに微笑を浮かべ、よっと手を挙げた。
「ネロは買い出しですか?」
「ああ。賢者さんは……これ、依頼か?」
中に入ってきたネロは、右手に食材の入った袋を持ちながら、ひょいと紙をひとつ手にとる。賢者の前にあるテーブルに広げられたたくさんの紙は、魔法舎に届けられた手紙らしい。
「緊急の依頼がいくつか舞い込んでしまって、優先順位をつけているところだったんです。特に切迫してそうなのがこれとこれで……」
賢者はふたつ紙を差し出した。こうして堂々と見せているということは、ネロが見ても構わないものなのだろう。ネロはそのうちのひとつの文面を指でなぞった。
10796帳面と睨めっこしていた賢者は、軽やかで少しだけ気だるげで、からかうようで労わるような声に顔をあげた。「ネロ」と名前を呼ぶと、空色の髪の主は食堂の入り口で口もとに微笑を浮かべ、よっと手を挙げた。
「ネロは買い出しですか?」
「ああ。賢者さんは……これ、依頼か?」
中に入ってきたネロは、右手に食材の入った袋を持ちながら、ひょいと紙をひとつ手にとる。賢者の前にあるテーブルに広げられたたくさんの紙は、魔法舎に届けられた手紙らしい。
「緊急の依頼がいくつか舞い込んでしまって、優先順位をつけているところだったんです。特に切迫してそうなのがこれとこれで……」
賢者はふたつ紙を差し出した。こうして堂々と見せているということは、ネロが見ても構わないものなのだろう。ネロはそのうちのひとつの文面を指でなぞった。
近衛 無花果
DONE「シー・ローバー・スクアーマ」より、奴隷船で売られていたネロが晶に買われて価値を与えられる話。晶がとっくの昔にムルに拾われて世界救済が済んでいた世界線の海軍ifです。
羽を並べて 彗星が空に走る。奴隷船から見上げた空を自由に、しかしこの星に引かれて否応なく落ちてくる。
天から星が落ちて数日、ネロの首に刻まれた紋章は色を失った。「能なし」の証でも、奴隷としては稀有な見た目と価値を見出されていたのに、とうとう本当に何も価値のないスクアーマになってしまった。
ネロはハート大将の執務室にぼっと立ち尽くして目の前の人物を観察した。「能なし」のネロを買った、人間でもスクアーマでもない天使様と呼ばれる人。雲居のその果てから来た救世主。名を晶という。
「一目見て懐かしいなと思ってしまって、つい」
「一目惚れなんて、天使様はその名に恥じないロマンチストだね!」
「そ、そういうわけでは」
「この髪色が原因ではないかの? ほれ、薄汚れていた時は微妙じゃったが、今は見事な天つ世の色じゃ」
5290天から星が落ちて数日、ネロの首に刻まれた紋章は色を失った。「能なし」の証でも、奴隷としては稀有な見た目と価値を見出されていたのに、とうとう本当に何も価値のないスクアーマになってしまった。
ネロはハート大将の執務室にぼっと立ち尽くして目の前の人物を観察した。「能なし」のネロを買った、人間でもスクアーマでもない天使様と呼ばれる人。雲居のその果てから来た救世主。名を晶という。
「一目見て懐かしいなと思ってしまって、つい」
「一目惚れなんて、天使様はその名に恥じないロマンチストだね!」
「そ、そういうわけでは」
「この髪色が原因ではないかの? ほれ、薄汚れていた時は微妙じゃったが、今は見事な天つ世の色じゃ」
柚月@ydk452
DONEブラ晶♂互いに独占欲を見せるブラッドリーと晶くんの話。さらっとオリキャラあり。
ぎすぎすした終わりにしたくなくて、のんな結末になりました。カクテルの色は互いの瞳をイメージ。きっと老店主は二人の関係性を察したのでしょう。
欲の在処 頬に触れる風はほんの少し冷たくて、晶は思わず身を縮こまらせる。その震えが伝わったのか、前を向いていたブラッドリーは晶の方へと振り向いた。
「寒いのか?」
「いえ、大丈夫です。」
箒に乗る前に防寒魔法を掛けてもらっていた。だからこれは、単なる条件反射のようなものだ。
晶は今、ブラッドリーの箒に乗って、星の瞬く夜空を駆けていた。魔法舎でゆっくり過ごしていたら、突然ブラッドリーが部屋に来て、付いてこいと誘ってきたのだ。目的も行き先も分からないままクロエの所へ連れて行かれ、いつもの服からよそ行きの衣装へと着替えさせられた。あれよあれよという間に箒に乗せられ、今に至る。
遠目に見ていては分からなかったが、眼下に広がる景色から、どうやら西の国らしいと言うのは分かった。
5947「寒いのか?」
「いえ、大丈夫です。」
箒に乗る前に防寒魔法を掛けてもらっていた。だからこれは、単なる条件反射のようなものだ。
晶は今、ブラッドリーの箒に乗って、星の瞬く夜空を駆けていた。魔法舎でゆっくり過ごしていたら、突然ブラッドリーが部屋に来て、付いてこいと誘ってきたのだ。目的も行き先も分からないままクロエの所へ連れて行かれ、いつもの服からよそ行きの衣装へと着替えさせられた。あれよあれよという間に箒に乗せられ、今に至る。
遠目に見ていては分からなかったが、眼下に広がる景色から、どうやら西の国らしいと言うのは分かった。
柚月@ydk452
DONE魔法舎ドタバタ事件簿シリーズ。Case1,マジカル⭐︎バナナ「ああ、ちょうど良いところに。暇ですよね?」
「げっ。」
「うわ…最悪…。」
魔法舎の談話室で、ミスラに声を掛けられたブラッドリーとオーエンは揃ってげんなりとした。夕食も済み、各々が好き勝手過ごしている自由な時間。ブラッドリーもオーエンも同じ空間に居たとは言え、二人で何かをしていた訳ではない。隙あればもちろん殺し合いをするが、今は奇跡的に殺伐とした空気は影を潜めていた。
ワイングラスを片手に晩酌をしていたブラッドリーは、チッと盛大に舌打ちする。
「暇じゃねぇよ、他を当たれ。」
「大好きな賢者様のところに、早く行ってよ。」
「今あの人、風呂に入ってるんですよね。」
二人の抵抗を他所に、ミスラはソファにどさりと身を投げた。そしてテーブル上にあったつまみを、当然のようにして口に入れる。
5501「げっ。」
「うわ…最悪…。」
魔法舎の談話室で、ミスラに声を掛けられたブラッドリーとオーエンは揃ってげんなりとした。夕食も済み、各々が好き勝手過ごしている自由な時間。ブラッドリーもオーエンも同じ空間に居たとは言え、二人で何かをしていた訳ではない。隙あればもちろん殺し合いをするが、今は奇跡的に殺伐とした空気は影を潜めていた。
ワイングラスを片手に晩酌をしていたブラッドリーは、チッと盛大に舌打ちする。
「暇じゃねぇよ、他を当たれ。」
「大好きな賢者様のところに、早く行ってよ。」
「今あの人、風呂に入ってるんですよね。」
二人の抵抗を他所に、ミスラはソファにどさりと身を投げた。そしてテーブル上にあったつまみを、当然のようにして口に入れる。
柚月@ydk452
DONEブラ晶♂SS良い目をするようになったじゃねぇかとブラッドリーに身内認定される晶くんの話
ひとの上に立つ覚悟賢者の仕事とは、多岐に渡る。
任務や依頼の内容はさることながら、各国の財政界や領主との会談、そして。
「夜会への参加ですか…。」
晶を絶賛悩ませているのが、この貴族主催のパーティーへの参加だ。平凡な一般人である自分が、礼儀やマナーすらままならないのに、『賢者』という肩書きを目当てに多くの誘いが舞い込んでくる。世界の危機に立ち向かう救世主と崇めてくる人も中にはいるが、実はそれは少数だったりする。大半の目当ては興味本位か、あるいは晶の向こうにいる魔法使い達の品定めだ。自分たちに害する気はないか、賢者はきちんと手綱を握っているのか、あの手この手で無遠慮に切り込んでくる。今後の事を考えて、出来るだけ角が立たないよう、なんとか躱し続けているものの、全てを断るわけにもいかない。現に招待状を持ってきたクックロビンは、申し訳なさそうに平謝りしていた。
7425任務や依頼の内容はさることながら、各国の財政界や領主との会談、そして。
「夜会への参加ですか…。」
晶を絶賛悩ませているのが、この貴族主催のパーティーへの参加だ。平凡な一般人である自分が、礼儀やマナーすらままならないのに、『賢者』という肩書きを目当てに多くの誘いが舞い込んでくる。世界の危機に立ち向かう救世主と崇めてくる人も中にはいるが、実はそれは少数だったりする。大半の目当ては興味本位か、あるいは晶の向こうにいる魔法使い達の品定めだ。自分たちに害する気はないか、賢者はきちんと手綱を握っているのか、あの手この手で無遠慮に切り込んでくる。今後の事を考えて、出来るだけ角が立たないよう、なんとか躱し続けているものの、全てを断るわけにもいかない。現に招待状を持ってきたクックロビンは、申し訳なさそうに平謝りしていた。
柚月@ydk452
DONEスノホワ晶♂SSスノウとホワイトの屋敷に閉じ込められてて、一日の終わりにフィガロに記憶をリセットされる晶くんの話
変わらぬ日々に終焉を「晶よ、今日は庭先でティーパーティをするのはどうじゃ?」
「良い茶葉が手に入ったのでな。茶菓子もいくつか見繕っておる。あとはそなたの返事だけじゃ。」
晶の返事を待つようでいて、その実拒否権など存在しないことに、晶は苦笑した。可愛らしくおねだりしている姿の、なんと微笑ましいことか。数千年を生きる怖い北の魔法使いと言えど、こればかりはつい頬が緩んでしまう。
北の国の双子の屋敷にて、晶はスノウとホワイトと共に過ごしていた。棍を詰めすぎるのも良くないから、という名の療養だ。人間が生きるには厳しい大地だけれども、晶が過ごす屋敷の周りは結界が張られているのか、不思議と寒さとは無縁の生活を送っていた。門の向こうでは激しく吹雪いているのに、結界の中では暖かな陽射しが降り注いでいるといった奇妙さはあれど、魔法の存在するこの世界では驚くに値しない。
2472「良い茶葉が手に入ったのでな。茶菓子もいくつか見繕っておる。あとはそなたの返事だけじゃ。」
晶の返事を待つようでいて、その実拒否権など存在しないことに、晶は苦笑した。可愛らしくおねだりしている姿の、なんと微笑ましいことか。数千年を生きる怖い北の魔法使いと言えど、こればかりはつい頬が緩んでしまう。
北の国の双子の屋敷にて、晶はスノウとホワイトと共に過ごしていた。棍を詰めすぎるのも良くないから、という名の療養だ。人間が生きるには厳しい大地だけれども、晶が過ごす屋敷の周りは結界が張られているのか、不思議と寒さとは無縁の生活を送っていた。門の向こうでは激しく吹雪いているのに、結界の中では暖かな陽射しが降り注いでいるといった奇妙さはあれど、魔法の存在するこの世界では驚くに値しない。