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    摩訶波羅羯諦

    PROGRESS鮭だった独歩が鮭じゃない独歩になった初めて独歩と会った日、突然いなくなった独歩に俺はわんわん泣いたけど、とうちゃんとかあちゃんは意味がわかんなくて、言い聞かせても怒鳴ってもあやしても何もきかず、俺は遂に吐き戻して熱まで出した。死んだ魚なんか見慣れてるはずだし、小学生になった俺にとうちゃんは魚を捌くためのナイフを与えてくれていた。いずれは漁船を継ぐんだから当然だ。なのに俺が、生簀の鮭が死んでるのを見た瞬間に膝から崩れて大声をあげて泣き出したもんだから、二人とも困惑したんだ。そりゃま二人には、最初からただの鮭にしか見えてないから。俺はそんなことくらいちゃんと分かってたけど、でも取り繕えないくらい、かなしかったんだもん。せっかく名前まで教えてもらったのに死んじゃったって。目を離さなければよかった、とうちゃんなんか無視してれば、まだ今もどっぽとお話出来てたの?って。
     だってだって、さすがに急すぎるっしょ!?ほんの三秒前までそこにいたんだよ!?なのに!!
     さよならも言わないなんて、ホントよくないと思う!!
     だから俺、次独歩にあったときに、約束をした。
    「どっぽ帰る時はちゃんと帰るって言って!!」
     夕焼けだった。初夏の空は朝 2302

    摩訶波羅羯諦

    PROGRESSネムロDivisionで鮭漁をやっている🥂と鮭の👔小学生になったころ、『それ』に名前を教えてもらった。だからたぶん俺は、どうやらかなり愛されているっぽい。
    名前といえば、俺の苗字にはどっかの国のカミサマの名前がついている。でもそんなこと知ったのはたぶん大人になってからで、俺としては、それが虫の名前であっても、花の名前であっても、特別感慨は無かった。生まれた時からもってるものだから、だれだってそーだと思う。そういうものとして、過ごすというか。それに俺は、名前になんてべったり貼り付いていてもらわなくても、なにか大きな存在、みたいなものは、物心ついた時からいつも感じてたし……そう、なんなら会ったこともある。
    俺のとうちゃんは漁師で、自然を相手にする仕事だからって、不思議な話なんて聞けばいくらでもあった。みんなおもしろい話ばっかで、小さい頃はなんどもなんどもきいたけど、俺が感じてる「なにか大きな存在」っていうのとは、ちょっとちがうなと思ってた。
    でもそれは、たしかに海から現れた。小学校がおわって家に帰ると、庭先にあるでっかいプラスティックの生簀の中にいたんだ。その生簀はとうちゃんが今朝の漁でとって、市場に出すのとは別に晩飯用にって持って 2940