palco_WT
DOODLE #いこみずワンドロワンライ第102回 お題【待ち合わせ】
一番先に彼らを見つけたのは影浦だった。
「あれ、嵐山さんと迅さんと弓場さんじゃね?」
祝日のショッピングモールのフードコートとなれば人は多く、だがそれでも長身だからと言う理由だけからではなく、コーヒースタンドに並ぶ彼らの存在は一際目を引くものだった。
「強いな、存在感が」
「ちゅーか、強いんは顔圧やろ」
そんなやりとりをしている穂刈は野菜とチキンがぎゅうぎゅうにはさまった胚芽玄米のサンドウィッチを、影浦は石焼ビビンバと冷麺のセットを、水上は天かすが乗ったうどん(「言わないのか、たぬきうどんとは」「言わんし」)をと、統一感もなく好きなものをつつきながらだった。
「三門の文字通りツラがいるかんな」
「けどいないじゃないか、一番圧が強そうな人が」
5217「あれ、嵐山さんと迅さんと弓場さんじゃね?」
祝日のショッピングモールのフードコートとなれば人は多く、だがそれでも長身だからと言う理由だけからではなく、コーヒースタンドに並ぶ彼らの存在は一際目を引くものだった。
「強いな、存在感が」
「ちゅーか、強いんは顔圧やろ」
そんなやりとりをしている穂刈は野菜とチキンがぎゅうぎゅうにはさまった胚芽玄米のサンドウィッチを、影浦は石焼ビビンバと冷麺のセットを、水上は天かすが乗ったうどん(「言わないのか、たぬきうどんとは」「言わんし」)をと、統一感もなく好きなものをつつきながらだった。
「三門の文字通りツラがいるかんな」
「けどいないじゃないか、一番圧が強そうな人が」
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MAIKINGいこみずワンドロワンライ40th お題「約束」途中まで!猫が見ていた 行きたいか、と訊かれた。
居合といえど、人殺しの技。だから真剣を使う。
そう言って、父親は伝来の直ぐに樋をかき通した刀の鯉口を切り、三寸ばかり見せたその刀身にちょうど生駒の視線を迎えるようにかざした。
『おまえが7つの頃から持たされたこれは命を断つ為の道具や。例えば誰かを救う為、例えば主の命、例えば己の矜持を守らんが為……どんな言い訳をしようと人を殺め得るゆえのこと。それをなそうとなすまいと。おまえはこれを手にして得た技術で、どうあれ何かの命を斬ることになる。その覚悟は出来てると思うとるか?』
『……それは』
まだ十六の生駒はとっさに答えることが出来なかった。
一年ほど前の春のことだった。三門市という、京都で生まれ育った生駒からしたらあまり聞いたことがない、どこの県にあるのかもとっさに出てこないほどに見知らぬ街はその日、一気に日本国内ばかりか国外にもその名を知らしめることになった。まるで日曜朝の子供番組から抜け出てきたような、異世界からの望まれない来訪者によって。
1336居合といえど、人殺しの技。だから真剣を使う。
そう言って、父親は伝来の直ぐに樋をかき通した刀の鯉口を切り、三寸ばかり見せたその刀身にちょうど生駒の視線を迎えるようにかざした。
『おまえが7つの頃から持たされたこれは命を断つ為の道具や。例えば誰かを救う為、例えば主の命、例えば己の矜持を守らんが為……どんな言い訳をしようと人を殺め得るゆえのこと。それをなそうとなすまいと。おまえはこれを手にして得た技術で、どうあれ何かの命を斬ることになる。その覚悟は出来てると思うとるか?』
『……それは』
まだ十六の生駒はとっさに答えることが出来なかった。
一年ほど前の春のことだった。三門市という、京都で生まれ育った生駒からしたらあまり聞いたことがない、どこの県にあるのかもとっさに出てこないほどに見知らぬ街はその日、一気に日本国内ばかりか国外にもその名を知らしめることになった。まるで日曜朝の子供番組から抜け出てきたような、異世界からの望まれない来訪者によって。
palco_WT
DONEいこみずワンライ「残暑」のつもりで書きだしたらとてもじゃないけどワンライじゃないやんけという分量に。イコさんにゲロった以外の事情も水上にあったりするので、水上側のおまけもどこかで書きたいな
夏の名残の梔子を 三年目にもなると、なんとなく気づくことがある。
まだ暑さが残るこの季節、水上がふと遠くを見ることがある。暦の上でやってきた秋と引き換えに、遠くなっていく空と夏を追いかけるみたいに。口元だけにかすかな、そこか哀切をともなった笑みのようなものを浮かべて。
それは普段は決して――生駒とふたりきりの時であっても――見せることのない表情だった。
「なんでやろな」
「なんでだろうな」
「……弓場ちゃん、もうちょっと親身になってくれてもええんちゃう?」
生駒は甘えるように同輩を上目遣いで見る。机に突っ伏してるから当然だが、もっとも立ったところでも身長差はあるのでどのみちやや見上げることになるのだが。
「講義が終わったってェーのに、教室も出ねェでおめェーの話を聞いてるだけ優しいと思うが?」
6144まだ暑さが残るこの季節、水上がふと遠くを見ることがある。暦の上でやってきた秋と引き換えに、遠くなっていく空と夏を追いかけるみたいに。口元だけにかすかな、そこか哀切をともなった笑みのようなものを浮かべて。
それは普段は決して――生駒とふたりきりの時であっても――見せることのない表情だった。
「なんでやろな」
「なんでだろうな」
「……弓場ちゃん、もうちょっと親身になってくれてもええんちゃう?」
生駒は甘えるように同輩を上目遣いで見る。机に突っ伏してるから当然だが、もっとも立ったところでも身長差はあるのでどのみちやや見上げることになるのだが。
「講義が終わったってェーのに、教室も出ねェでおめェーの話を聞いてるだけ優しいと思うが?」
kaiziru
PROGRESS特殊部隊パロいこみず。敵はエイリアンとかそんな感じの地球人でない人型の何かを想像しています。
イコさんにかっこよく居合をさせてえんだという話。
unknown その力は人様のために使えと幼い頃から祖父さんに叩き込まれた頭が体を動かす。恐怖で固まる幼子を腕の中に納めて、迫りくる敵影に向かうべく身を翻した。
追手は5——いや、6体。足音ととも混じる駆動音を聞き取って、舌を打つ。この子を守りながら勝てるか?息を大きく吸い込んで、肺まで酸素を行き渡らせる。勝ち負けではない。生きるか死ぬかだ。限界まで空気を吸い込んだ状態で息を止める。腕に抱えていた少女を地にそっと下す。敵が近づいてきて、その手が武器にかかった。
一閃。鋭く吐き出した空気と共に敵の体を切り落とす。まずは1体。敵すべてを視野に入れた状態で一度刀を納める。その様子を見て、敵が銃の引き金を引いた。遅い。その速度であれば引き金を引いてからでも間に合う。銃を撃った敵を袈裟懸けに斬り、もう一人隣にいた敵の首を落とした。近寄ってきた近接型の敵を一度鞘で殴りつけてから切り捨てる。怯むように一歩後ずさった敵を更に大きな一歩で追いすがり喉を突けば、敵は沈黙した。
1313追手は5——いや、6体。足音ととも混じる駆動音を聞き取って、舌を打つ。この子を守りながら勝てるか?息を大きく吸い込んで、肺まで酸素を行き渡らせる。勝ち負けではない。生きるか死ぬかだ。限界まで空気を吸い込んだ状態で息を止める。腕に抱えていた少女を地にそっと下す。敵が近づいてきて、その手が武器にかかった。
一閃。鋭く吐き出した空気と共に敵の体を切り落とす。まずは1体。敵すべてを視野に入れた状態で一度刀を納める。その様子を見て、敵が銃の引き金を引いた。遅い。その速度であれば引き金を引いてからでも間に合う。銃を撃った敵を袈裟懸けに斬り、もう一人隣にいた敵の首を落とした。近寄ってきた近接型の敵を一度鞘で殴りつけてから切り捨てる。怯むように一歩後ずさった敵を更に大きな一歩で追いすがり喉を突けば、敵は沈黙した。
kaiziru
PROGRESSなんか特殊部隊っぽいパロいこみず。珍しく甘め。
unknown 第一印象は最悪だったはずだ。
インカムから響く焦った声。頻りに俺の名前を呼ぶ男のそれに、思わず吐息を零して笑えば、安全圏にいるはずの男が恐怖を滲ませてもう一度俺を呼ぶ。懇願にも似た響きだった。
「…悪いなあ。俺はやっぱりお前の駒にはなれへんかった」
『やめてくださいよ。そういう昔を振り返ったりとかいらんから』
「でもな、言えんくなるかもしれんやん」
『せやから。そういうこと言わんといてください』
後生やから。そう悲嘆に塗れた言葉を聞いて、胸の中がジワリと熱くなる。この情動はなんなのか。考えるまでもなかった。
いけ好かなかった男が、いつの間にやらかけがえのない存在になっていた。
あの男の声を聴きながら、剣を振るうのが楽しかった。思い通りにならない苛立ちが徐々に呆れに代わっていくのをざまあみろと思っていた。インカム越しでないあの男の声で出迎えられるのが、好きだった。
914インカムから響く焦った声。頻りに俺の名前を呼ぶ男のそれに、思わず吐息を零して笑えば、安全圏にいるはずの男が恐怖を滲ませてもう一度俺を呼ぶ。懇願にも似た響きだった。
「…悪いなあ。俺はやっぱりお前の駒にはなれへんかった」
『やめてくださいよ。そういう昔を振り返ったりとかいらんから』
「でもな、言えんくなるかもしれんやん」
『せやから。そういうこと言わんといてください』
後生やから。そう悲嘆に塗れた言葉を聞いて、胸の中がジワリと熱くなる。この情動はなんなのか。考えるまでもなかった。
いけ好かなかった男が、いつの間にやらかけがえのない存在になっていた。
あの男の声を聴きながら、剣を振るうのが楽しかった。思い通りにならない苛立ちが徐々に呆れに代わっていくのをざまあみろと思っていた。インカム越しでないあの男の声で出迎えられるのが、好きだった。
kaiziru
DOODLE3/31にあげてたいこみず。習作です。SS_0331「あかんで」
一言そう言って、彼はただでさえ常から険しい目つきを一層尖らせた。
いや、顔怖いわ。そう言って茶化せなかったのはその否定が割と二人でいるときによく投げかけられるものだったからで、且つ、きっとその否定が彼の根っこの部分から出ているからだ。
彼はふざけたところの多い人だが、土台は頑固で割とワンマンなタイプだ。気に食わないことははっきりと伝えてくるし、こちらにも同様のコミュニケーションを求めてくる。俺は然程気にならなかったが、隠岐なんかは最初気圧されていたのを覚えている。そして残念ながら、彼本人にその自覚はない。
そもそも、彼の倫理感は真っ当だが古臭く、お祖父さんに居合を習っていたと聞いたときはひどく納得したものだ。令和では部下の価値観を真っ向から否定するのはハラスメントになりかねないのである。これも、いつか教えてやるべきだろうか。
2041一言そう言って、彼はただでさえ常から険しい目つきを一層尖らせた。
いや、顔怖いわ。そう言って茶化せなかったのはその否定が割と二人でいるときによく投げかけられるものだったからで、且つ、きっとその否定が彼の根っこの部分から出ているからだ。
彼はふざけたところの多い人だが、土台は頑固で割とワンマンなタイプだ。気に食わないことははっきりと伝えてくるし、こちらにも同様のコミュニケーションを求めてくる。俺は然程気にならなかったが、隠岐なんかは最初気圧されていたのを覚えている。そして残念ながら、彼本人にその自覚はない。
そもそも、彼の倫理感は真っ当だが古臭く、お祖父さんに居合を習っていたと聞いたときはひどく納得したものだ。令和では部下の価値観を真っ向から否定するのはハラスメントになりかねないのである。これも、いつか教えてやるべきだろうか。
kaiziru
DOODLE数年後いこみず。何もかも捏造です。上空450メートルにて 自分にとってのあの男について考える。
同じ隊で一つ年下の男。テンション高いわけではないけど、大阪出身らしくボケたらツッコんでくれる。過去の経験からか知略に富んでいて、あいつの策になんども助けられた。うちの隊に無くてはならない存在。色んなやつと組む機会はあったが、結局はあいつの策で動くのが一番動きやすかった。
大切な相手だ。それは間違いない。じゃあ、それは隠岐らとに対するそれと同じ『大切』か。
違う。皆とおるときに感じるわくわくそわそわと、あの男といる時に感じる安堵のようなそれは違うものだ。
あの男の傍でだけ泣き言を零すことが出来た。みっともないと思いつつも零した弱音を、大して興味も無さそうな顔で「イコさんも大変なんすね」なんて返すから。いやもっとかける言葉あるやろ、なんて言い募れば、「せやったら相談料で飯作ってくださいよ」と返ってきて、そのまま自室で飯を作ってやっている間に、何でそんなにしょうもないことに悩んでいたのか忘れるのである。つくづくあの男は俺という人間を理解していた。そういうところが好ましかった。
3554同じ隊で一つ年下の男。テンション高いわけではないけど、大阪出身らしくボケたらツッコんでくれる。過去の経験からか知略に富んでいて、あいつの策になんども助けられた。うちの隊に無くてはならない存在。色んなやつと組む機会はあったが、結局はあいつの策で動くのが一番動きやすかった。
大切な相手だ。それは間違いない。じゃあ、それは隠岐らとに対するそれと同じ『大切』か。
違う。皆とおるときに感じるわくわくそわそわと、あの男といる時に感じる安堵のようなそれは違うものだ。
あの男の傍でだけ泣き言を零すことが出来た。みっともないと思いつつも零した弱音を、大して興味も無さそうな顔で「イコさんも大変なんすね」なんて返すから。いやもっとかける言葉あるやろ、なんて言い募れば、「せやったら相談料で飯作ってくださいよ」と返ってきて、そのまま自室で飯を作ってやっている間に、何でそんなにしょうもないことに悩んでいたのか忘れるのである。つくづくあの男は俺という人間を理解していた。そういうところが好ましかった。