浬-かいり-
DOODLEかおみさ鈍感な君にはストレートな告白を「あの、薫さん。今ちょっといい?」
眉を下げた表情の美咲に呼び止められたのは、CiRCLEでの練習後のことだった。その声音や表情から、どうやら落ち着いた場所で話した方が良いだろうと判断し、外のカフェに腰を据えて話をすることにした。
期間限定で販売していたホットチョコレートを二つ買ってテーブルに置くと、「すみません」って申し訳なさそうな美咲が頭を下げた。気にすることはないと微笑んで、彼女の向かいの席に座る。
「……えっと、相談っていうか、なんというか」
歯切れ悪く切り出した美咲は、小さな箱を取り出してテーブルに置いた。ピンク色にラッピングされ、赤いリボンが付けられた可愛らしい箱だった。
本日は2月14日、バレンタインデー。つまりこれは、チョコレートの類であると容易に想像がつく。
2069眉を下げた表情の美咲に呼び止められたのは、CiRCLEでの練習後のことだった。その声音や表情から、どうやら落ち着いた場所で話した方が良いだろうと判断し、外のカフェに腰を据えて話をすることにした。
期間限定で販売していたホットチョコレートを二つ買ってテーブルに置くと、「すみません」って申し訳なさそうな美咲が頭を下げた。気にすることはないと微笑んで、彼女の向かいの席に座る。
「……えっと、相談っていうか、なんというか」
歯切れ悪く切り出した美咲は、小さな箱を取り出してテーブルに置いた。ピンク色にラッピングされ、赤いリボンが付けられた可愛らしい箱だった。
本日は2月14日、バレンタインデー。つまりこれは、チョコレートの類であると容易に想像がつく。
浬-かいり-
DOODLEかおみさハッピーラッキーバレンタイン「あ、薫さんもう来てたんだね」
CiRCLEのラウンジへ行けば、既に薫さんがソファに座っていた。私達に気付くと、片手を挙げて微笑む。
「やあ花音、はぐみ、こころ。おや、今日は美咲は居ないのかい?」
「美咲ちゃんは少し部活に顔出してからこっち来るって。すぐに追い付くって言ってたよ」
事情を話せばそうなんだねって頷く薫さんは少し寂しそうだ。この二人が付き合ってるってことは、直接は聞いていないけど二人の持つ態度や雰囲気でなんとなく察している。こころちゃんも、よく周りを見ているから気付いているんじゃないかなぁ。
美咲ちゃんが言いたがらない感じだから、黙ってはいるんだけど。
「薫くん、その紙袋なに!? すんごいたくさんあるね!」
2372CiRCLEのラウンジへ行けば、既に薫さんがソファに座っていた。私達に気付くと、片手を挙げて微笑む。
「やあ花音、はぐみ、こころ。おや、今日は美咲は居ないのかい?」
「美咲ちゃんは少し部活に顔出してからこっち来るって。すぐに追い付くって言ってたよ」
事情を話せばそうなんだねって頷く薫さんは少し寂しそうだ。この二人が付き合ってるってことは、直接は聞いていないけど二人の持つ態度や雰囲気でなんとなく察している。こころちゃんも、よく周りを見ているから気付いているんじゃないかなぁ。
美咲ちゃんが言いたがらない感じだから、黙ってはいるんだけど。
「薫くん、その紙袋なに!? すんごいたくさんあるね!」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ発熱沢お持ち帰りの続き「美咲」
「やだ」
具合が悪い美咲を家に連れ帰った後、会議を早めに切り上げたこころ達三人も追うように私の家へお見舞いにやってきた。
その頃には既に美咲は私のベッドで眠っていたのだが、私のブレザーを抱き締めて眠っていたのを三人に見られてしまったのが、本人は相当お気に召さなかったようだった。
「美咲、もう三人とも帰ったよ。お大事にって」
「絶ッッッッ対、でない……!!」
さっきから呼んでいるのだが、布団に包まった美咲は依然として出てこない。
困ったな。冷却シートをそろそろ替えてあげたいのに。水も飲ませたい。
「ほんともう、やだ、あんなとこ見られて、あり得ない」
勿論三人とも、そんな美咲を揶揄うような性格ではない。ただ、口を揃えて可愛いと言うだけだったのだが。……それが相当堪えたらしい。私としては可愛らしい姿をもっと見ていたかったし、偶には儚い美咲の姿を自慢してやるのも良かったかもしれない、と思っている。口に出したらきっと怒るが。
782「やだ」
具合が悪い美咲を家に連れ帰った後、会議を早めに切り上げたこころ達三人も追うように私の家へお見舞いにやってきた。
その頃には既に美咲は私のベッドで眠っていたのだが、私のブレザーを抱き締めて眠っていたのを三人に見られてしまったのが、本人は相当お気に召さなかったようだった。
「美咲、もう三人とも帰ったよ。お大事にって」
「絶ッッッッ対、でない……!!」
さっきから呼んでいるのだが、布団に包まった美咲は依然として出てこない。
困ったな。冷却シートをそろそろ替えてあげたいのに。水も飲ませたい。
「ほんともう、やだ、あんなとこ見られて、あり得ない」
勿論三人とも、そんな美咲を揶揄うような性格ではない。ただ、口を揃えて可愛いと言うだけだったのだが。……それが相当堪えたらしい。私としては可愛らしい姿をもっと見ていたかったし、偶には儚い美咲の姿を自慢してやるのも良かったかもしれない、と思っている。口に出したらきっと怒るが。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ今日は朝まで付きっきりコースで 本日のハロハピ会議の議題は、一ヶ月後に控えたライブについてだった。
学校から帰宅し弦巻邸のいつもの会議室に集まったメンバーが、ライブの案について話し合いを進めていく。
「それで、ここはビューーーンって感じはどうかしら?」
「じゃあじゃあこころん! その後バーーーンっていったらどうかな?」
「いいわね! はぐみ、あなた天才ね!」
こころとはぐみがほぼオノマトペで進行していく会話を、花音が苦笑いで眺めている。ちらりと美咲に視線をやれば、いつも二人の言葉を通訳しまとめてくれる彼女は、熱心にノートと睨めっこしていた。二人の言った内容をまとめているのだろうか。
花音がそのノートを覗き込もうと立ち上がろうとすると、
1556学校から帰宅し弦巻邸のいつもの会議室に集まったメンバーが、ライブの案について話し合いを進めていく。
「それで、ここはビューーーンって感じはどうかしら?」
「じゃあじゃあこころん! その後バーーーンっていったらどうかな?」
「いいわね! はぐみ、あなた天才ね!」
こころとはぐみがほぼオノマトペで進行していく会話を、花音が苦笑いで眺めている。ちらりと美咲に視線をやれば、いつも二人の言葉を通訳しまとめてくれる彼女は、熱心にノートと睨めっこしていた。二人の言った内容をまとめているのだろうか。
花音がそのノートを覗き込もうと立ち上がろうとすると、
浬-かいり-
DOODLEかおみさ『次は蕩ける程に甘く愛して』後日談「……ほんっとに、もう、信じらんない。薫さんやだ」
美咲が目を覚ましたら、もう辺りは暗くなり始めていた。
ベッドで寝込む美咲は、横になった態勢のまま、カーペットの上で正座をしている薫を見下ろす。
薫は申し訳なさそうに眉を下げて、シュンと肩を落としていた。
「本当に、申し訳ない……」
「ほんっとうに、怖かったんですからね!? 第一、なんであんなもの持ってたんですか。というか、ベッド下に何色々忍ばせてるんですか」
目隠し、タオル、玩具。もう怖くてベッド下を見れない。
叱りつけるように怒る美咲の声は掠れている。その声も薫の罪悪感を加速させていった。
「……面目ない」
まるで捨てられた仔犬のような弱々しい声に、美咲は声を詰まらせる。
961美咲が目を覚ましたら、もう辺りは暗くなり始めていた。
ベッドで寝込む美咲は、横になった態勢のまま、カーペットの上で正座をしている薫を見下ろす。
薫は申し訳なさそうに眉を下げて、シュンと肩を落としていた。
「本当に、申し訳ない……」
「ほんっとうに、怖かったんですからね!? 第一、なんであんなもの持ってたんですか。というか、ベッド下に何色々忍ばせてるんですか」
目隠し、タオル、玩具。もう怖くてベッド下を見れない。
叱りつけるように怒る美咲の声は掠れている。その声も薫の罪悪感を加速させていった。
「……面目ない」
まるで捨てられた仔犬のような弱々しい声に、美咲は声を詰まらせる。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ片目のお姫様の手を取って「おはようございまーす」
「えっ、みーくんそれどうしたの!?」
休日のバンド練習。美咲がいつものテンションでスタジオの扉を開け挨拶した直後、はぐみの驚いたような声が響いた。
その慌てように、何事かと思った残りの三人が、楽器を準備する手を止めて入口へと目をやる。
美咲の右目には痛々しい眼帯が着けられていた。
血相を変えて驚くはぐみと、心配そうに眉を下げる花音と、目を見開いて硬直する薫と、不思議そうに首を傾げるこころ。
美咲はバツが悪そうに苦笑いしている。
「み、美咲、それは……!?」
動揺する薫が彼女に近付き、眼帯下の頰を指で撫でる。
美咲は困ったような笑みのまま、歯切れ悪そうに切り出した。
「部活中、ボールが当たっちゃって。予想してなかった所から飛んできたのもあるけど、あたしも寝不足でぼーっとしてたし、完全にあたしの不注意」
1896「えっ、みーくんそれどうしたの!?」
休日のバンド練習。美咲がいつものテンションでスタジオの扉を開け挨拶した直後、はぐみの驚いたような声が響いた。
その慌てように、何事かと思った残りの三人が、楽器を準備する手を止めて入口へと目をやる。
美咲の右目には痛々しい眼帯が着けられていた。
血相を変えて驚くはぐみと、心配そうに眉を下げる花音と、目を見開いて硬直する薫と、不思議そうに首を傾げるこころ。
美咲はバツが悪そうに苦笑いしている。
「み、美咲、それは……!?」
動揺する薫が彼女に近付き、眼帯下の頰を指で撫でる。
美咲は困ったような笑みのまま、歯切れ悪そうに切り出した。
「部活中、ボールが当たっちゃって。予想してなかった所から飛んできたのもあるけど、あたしも寝不足でぼーっとしてたし、完全にあたしの不注意」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ午前三時の優越感 たまたまその日は眠りが浅かったのか、腕をきゅっと圧迫される感触で薫は目が覚めた。
数度瞬きをして、暗闇の中目を凝らすと、腕の圧迫感の正体に気付く。
(……おやおや、)
美咲が、薫の腕にしがみついて寝息を立てていた。そう言えば、バンド練習の後そのまま泊まりに来ていたことを思い出す。
眠っているとは言え珍しく甘える恋人の姿に微笑ましくなって、黒い髪を梳くように撫でて、
「……っひ、ぅ、」
微かに聞こえてきた嗚咽に、手を止めた。
眉間に皺を寄せる美咲が、苦しそうに呻き声を漏らす。次いで鼻を啜る音。
間接照明を点けてみれば、美咲の目尻に少しだけ溜まった涙が、朧げな灯りを反射して控えめに光った。
「美咲」
名前を呼んでみると、薄く目が開く。潤んだブルーグレーの瞳に、薫が映った。
908数度瞬きをして、暗闇の中目を凝らすと、腕の圧迫感の正体に気付く。
(……おやおや、)
美咲が、薫の腕にしがみついて寝息を立てていた。そう言えば、バンド練習の後そのまま泊まりに来ていたことを思い出す。
眠っているとは言え珍しく甘える恋人の姿に微笑ましくなって、黒い髪を梳くように撫でて、
「……っひ、ぅ、」
微かに聞こえてきた嗚咽に、手を止めた。
眉間に皺を寄せる美咲が、苦しそうに呻き声を漏らす。次いで鼻を啜る音。
間接照明を点けてみれば、美咲の目尻に少しだけ溜まった涙が、朧げな灯りを反射して控えめに光った。
「美咲」
名前を呼んでみると、薄く目が開く。潤んだブルーグレーの瞳に、薫が映った。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ次から飲み会は保護者同伴で③「んむ…………?」
眩しくて目を開ける。あったかい。使い慣れたベッドの中だった。今何時だろう。寝起きでふわふわとまだ覚束ない意識のまま手を動かしてスマホを探ってみるが見つからない。
あれ、そもそもいつ寝たっけ。布団に入った記憶が無い。あたし昨日の夜何してた……?
「いだっ!?」
起き上がろうとしたら頭に激痛が走って、再び布団の中に沈む。なんか吐き気もして気持ち悪い。
(あ、そうだ飲み会……)
昨日の記憶を思い出し、この頭痛と吐き気が二日酔いによるものだと理解した。
ええっと確か、飲み会に人数合わせで参加して。端で飲んでたら知らない男の先輩が隣に座ってきて。
初めて見る顔だね新人ちゃん?
いいえお誘い受けて来ましたー。
3092眩しくて目を開ける。あったかい。使い慣れたベッドの中だった。今何時だろう。寝起きでふわふわとまだ覚束ない意識のまま手を動かしてスマホを探ってみるが見つからない。
あれ、そもそもいつ寝たっけ。布団に入った記憶が無い。あたし昨日の夜何してた……?
「いだっ!?」
起き上がろうとしたら頭に激痛が走って、再び布団の中に沈む。なんか吐き気もして気持ち悪い。
(あ、そうだ飲み会……)
昨日の記憶を思い出し、この頭痛と吐き気が二日酔いによるものだと理解した。
ええっと確か、飲み会に人数合わせで参加して。端で飲んでたら知らない男の先輩が隣に座ってきて。
初めて見る顔だね新人ちゃん?
いいえお誘い受けて来ましたー。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ次から飲み会は保護者同伴で②『今日、急に飲み会に参加することになっちゃった』
昼休み。美咲からそんな連絡が来ていたことに気付いて、うっかり箸を落とすところだった。
一体どういうことだ。固まってしまっていると、友人から大丈夫かと声を掛けられた。心配ないと返事をして、もう一度通知が入ったスマホに目を向ける。
『だから帰りは遅くなりそう。ごめんなさい』
そうじゃない。私が聞きたいのは謝罪じゃなくて、何故飲み会に参加する流れになってしまったのかという点だ。
美咲は酒に強くない。いや、ハッキリ言って弱い。
酔うといつもより素直で甘えてくれる美咲の姿はとても可愛くて儚いけれど。飲むと判断力が鈍る彼女は、知り合いのあまり居ない飲み会に行って欲しくないというのが本音だ。
1976昼休み。美咲からそんな連絡が来ていたことに気付いて、うっかり箸を落とすところだった。
一体どういうことだ。固まってしまっていると、友人から大丈夫かと声を掛けられた。心配ないと返事をして、もう一度通知が入ったスマホに目を向ける。
『だから帰りは遅くなりそう。ごめんなさい』
そうじゃない。私が聞きたいのは謝罪じゃなくて、何故飲み会に参加する流れになってしまったのかという点だ。
美咲は酒に強くない。いや、ハッキリ言って弱い。
酔うといつもより素直で甘えてくれる美咲の姿はとても可愛くて儚いけれど。飲むと判断力が鈍る彼女は、知り合いのあまり居ない飲み会に行って欲しくないというのが本音だ。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ次から飲み会は保護者同伴で(モブ視点) とんでもないことになってしまった。私は頭を抱えていた。
自分が所属しているサークルでの飲み会。いかにも陽キャ達の飲み会って感じで本当は乗り気ではないのだけど、いつも断っているから流石にたまには行かなければと思って出席しますと先輩に伝えた。そこで参加者が何人かキャンセルになってしまって、サークル外の人でもいいから代わりを呼んで欲しいと言われた。……数回バックれていた身としては、無下にはできない。
そこで白羽の矢を立てたのが、今日の講義でノートを見せた、大学入ってから知り合った奥沢美咲という子だった。
前回体調不良で欠席していた彼女にノートを見せる代わり……というと聞こえは悪いけど、気が乗らなそうな彼女になんとか頼み込んで付いて来てもらうことになった。
1757自分が所属しているサークルでの飲み会。いかにも陽キャ達の飲み会って感じで本当は乗り気ではないのだけど、いつも断っているから流石にたまには行かなければと思って出席しますと先輩に伝えた。そこで参加者が何人かキャンセルになってしまって、サークル外の人でもいいから代わりを呼んで欲しいと言われた。……数回バックれていた身としては、無下にはできない。
そこで白羽の矢を立てたのが、今日の講義でノートを見せた、大学入ってから知り合った奥沢美咲という子だった。
前回体調不良で欠席していた彼女にノートを見せる代わり……というと聞こえは悪いけど、気が乗らなそうな彼女になんとか頼み込んで付いて来てもらうことになった。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ同棲してるっぽい社会人かおみさの話 風呂から上がったら、ソファに紙袋とバッグが投げ捨てられていた。紙袋の中を覗いてみれば、“寿”と書かれた箱。
寝室を探す。ベッドの上に、ドレスのまま寝っ転がるお姫様の姿があった。今日は大学時代の友人の結婚式に行くと言っていた。
結婚式に出席するのは初めてだと、緊張した面持ちで出掛けていったのは正午をとうに過ぎてからだった。
今はもうすっかり夜なので、結構長い時間行われていたらしい。
「美咲、」
呼んでみる。返事はない。くたびれてしまったのだろうか。先に着替えさせた方が良いだろうが、でも疲れているなら寝かせてあげたい。
「……薫さん」
そんなことを考えていたら、不意に名前を呼ばれた。どうやら起きていたらしい。
1494寝室を探す。ベッドの上に、ドレスのまま寝っ転がるお姫様の姿があった。今日は大学時代の友人の結婚式に行くと言っていた。
結婚式に出席するのは初めてだと、緊張した面持ちで出掛けていったのは正午をとうに過ぎてからだった。
今はもうすっかり夜なので、結構長い時間行われていたらしい。
「美咲、」
呼んでみる。返事はない。くたびれてしまったのだろうか。先に着替えさせた方が良いだろうが、でも疲れているなら寝かせてあげたい。
「……薫さん」
そんなことを考えていたら、不意に名前を呼ばれた。どうやら起きていたらしい。