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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    かおみさ

    #ガルパ
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    #かおみさ
    loftyPeak

    片目のお姫様の手を取って「おはようございまーす」

    「えっ、みーくんそれどうしたの!?」


     休日のバンド練習。美咲がいつものテンションでスタジオの扉を開け挨拶した直後、はぐみの驚いたような声が響いた。
     その慌てように、何事かと思った残りの三人が、楽器を準備する手を止めて入口へと目をやる。


     美咲の右目には痛々しい眼帯が着けられていた。
     血相を変えて驚くはぐみと、心配そうに眉を下げる花音と、目を見開いて硬直する薫と、不思議そうに首を傾げるこころ。
     美咲はバツが悪そうに苦笑いしている。


    「み、美咲、それは……!?」


     動揺する薫が彼女に近付き、眼帯下の頰を指で撫でる。
     美咲は困ったような笑みのまま、歯切れ悪そうに切り出した。


    「部活中、ボールが当たっちゃって。予想してなかった所から飛んできたのもあるけど、あたしも寝不足でぼーっとしてたし、完全にあたしの不注意」

    「ふえぇ、痛そう……」

    「美咲、目が見えないの?」

    「眼帯してるから今だけね。痛いけど眼球自体は無事だし、見えなくなった訳じゃないよ」


     目を覗き込むこころは、珍しく不安顔だ。安心させるように彼女の頭を撫でて、美咲は眉を下げる。


    「まあ今日はミッシェルは来ない日だし、あたしが練習に参加しますよ」

    「大丈夫なの美咲? 座って休んでてもいいのよ?」

    「そ、そうだよ美咲ちゃん! 無理しちゃダメだよ!」

    「いや、そんな心配される程のものじゃないんで…………、いだっ!?」


     そう言ったそばから、目測を計り損ねた美咲が置いてある椅子に思い切り右足をぶつける。
     がしゃん。そこそこ大きな音がして、椅子と一緒に床へと倒れ込んだ。


    「みーーーくーーーん!!?」

    「美咲っ!!」


     はぐみの叫び声が響くと同時、薫が慌てて駆け寄り、美咲を助け起こす。
     珍しく慌てふためいた顔で美咲の顔を覗き込んだ。


    「美咲、怪我は!? 痛いところは!? 目は大丈夫かい!?」

    「い、一度に沢山聞かないで下さい……大丈夫なんで」

    「やっぱり美咲ちゃん、今日は休んでた方がいいよ……。新曲の音合わせだから、美咲ちゃんは音の確認してくれるかな?」


     花音が諭すように言えば、暫しの沈黙の後「……分かりました」と納得いってなさそうな返事が返ってきた。
     拗ねたような表情の美咲に、花音が苦笑いを浮かべる。


    「椅子ここに置いたよ、みーくん!」

    「ありがとう、はぐみ。じゃあ座っていようか、美咲」

    「え、ちょ、いや、自分で行けますって……っ!?」


     抱き起こした態勢のまま、薫が美咲を横抱きに持ち上げた。所謂お姫様抱っこ。
     おおー! と三人から歓声が上がる。美咲は顔を真っ赤にしながら抗議の声を上げつつ、でも落とされたら堪らないので仕方なく薫の服にしがみついた。そのまま優しく、すとんと椅子に座らされる。


    「じゃあ、そろそろ練習を始めましょう!」


     こころの号令で、全員が持ち場に着く。
     それぞれが音の調整を始めるのを、美咲は不貞腐れた表情で眺めながら、猫背になっていった。





    「それじゃあ、そろそろ終わりにしようか、こころちゃん」

    「そうね! まだまだ歌いたいけど、時間なら仕方ないわね!」


     時計を見た花音が片付けを促し、それぞれが帰り支度を始める。
     せめて椅子だけでも元の位置に戻しておこうと立ち上がった美咲だが、後ろから早足でやって来た薫に椅子をひったくられてしまった。


    「私が置いてくるからそこで待っててくれ、子猫ちゃん。帰りも送って行こう」

    「……薫さん、過保護」


     まるで自分の怪我は足の骨折だったかと錯覚しそうなくらいに世話を焼こうとする薫に、美咲は思っていたことをとうとう口にした。
     自分の不注意で起こした怪我によって迷惑を掛けているのは自分自身なのに、こんな風に世話を焼かれるのは筋違いだと。あとは、練習に参加できないもどかしさもあった。
     不機嫌を含んだ口調の美咲に対して、薫は幼い子供のようで可愛らしいという感情を持ったけれど、彼女の自尊心の為に黙っておいた。代わりにその手を取る。


    「心配性でも過保護でもいいから、今は危なっかしいお姫様のエスコートをさせてくれないかい?」


     ウィンクして少々芝居掛かった口調で言えば、美咲は頰をほんのり染めたまま俯いて。


    「うー……あー……、まあ、これ以上下手に動いても逆に迷惑かけちゃいそうなんで」


     根負けした美咲がお願いします、と小さく控えめに降参して、薫の手を恐る恐る取った。
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