『次は蕩ける程に甘く愛して』後日談「……ほんっとに、もう、信じらんない。薫さんやだ」
美咲が目を覚ましたら、もう辺りは暗くなり始めていた。
ベッドで寝込む美咲は、横になった態勢のまま、カーペットの上で正座をしている薫を見下ろす。
薫は申し訳なさそうに眉を下げて、シュンと肩を落としていた。
「本当に、申し訳ない……」
「ほんっとうに、怖かったんですからね!? 第一、なんであんなもの持ってたんですか。というか、ベッド下に何色々忍ばせてるんですか」
目隠し、タオル、玩具。もう怖くてベッド下を見れない。
叱りつけるように怒る美咲の声は掠れている。その声も薫の罪悪感を加速させていった。
「……面目ない」
まるで捨てられた仔犬のような弱々しい声に、美咲は声を詰まらせる。
そして、こんなことになったそもそもの原因を思い出した。
「……まあ、元々はあたしが心配掛けちゃったんで。……その、ごめんなさい」
罰が悪そうに謝罪を零せば、優しく頰を撫でられた。美咲の顔を覗き込む薫の目が心配の色を孕んでいて、昨日もこんなに心配を掛けてしまったのか、と複雑な気持ちになる。
酷いことをされて怖かったのは事実だけど、そんな顔をされてしまっては許してしまう他ない。……そんなことを考えている自分も、相当彼女のことを好いているんだな、と。小さく笑みを漏らした。
「……いや、でも、それでも美咲を怖がらせて辛い目に合わせてしまったのは私なんだ」
美咲のそんな心情を知らない薫は、未だに不安げな顔をしている。
頰に添えられる手を取ると、薫の身体が驚いたように、怯えたように小さく跳ねた。
「……終わったら、たくさん甘やかしてくれるって、言いましたよね」
確認するように薫の目を見上げる。
自分を押し倒した時、確かに薫はそう言った。勿論向こうも覚えていたようで、小さく頷いた。
じゃあ、と手を握る。
「……水、飲みたいんで。飲ませて下さい。…………起きられ、ないんで」
顔を真っ赤にして尻すぼみな台詞を零す美咲に、ようやく薫の表情に笑みを戻す。
ベッドサイドに置いてあったペットボトルを取って、蓋を開ける。
「仰せのままに、私の可愛いお姫様」
微笑む薫が水を口に含めば、二人の唇が重なった。