次から飲み会は保護者同伴で③「んむ…………?」
眩しくて目を開ける。あったかい。使い慣れたベッドの中だった。今何時だろう。寝起きでふわふわとまだ覚束ない意識のまま手を動かしてスマホを探ってみるが見つからない。
あれ、そもそもいつ寝たっけ。布団に入った記憶が無い。あたし昨日の夜何してた……?
「いだっ!?」
起き上がろうとしたら頭に激痛が走って、再び布団の中に沈む。なんか吐き気もして気持ち悪い。
(あ、そうだ飲み会……)
昨日の記憶を思い出し、この頭痛と吐き気が二日酔いによるものだと理解した。
ええっと確か、飲み会に人数合わせで参加して。端で飲んでたら知らない男の先輩が隣に座ってきて。
初めて見る顔だね新人ちゃん?
いいえお誘い受けて来ましたー。
そうなの? あれ飲まないの?
飲めないんですよー。お酒弱いんです。
いやいや飲み会なんだから飲まないと勿体ないよー? 何か頼みなって!
いえ、あの、本当に大丈夫なんで……。
ってな流れになって。断り続けるのも面倒で、頼んだ方が寧ろ早く終わると思ってレモンチューハイを頼んだのは覚えてる。そこからの記憶がない。
此処は間違いなくあたしの家だし、パジャマにも着替えている。え、怖。どうやって帰ってどうやってベッドに辿り着いたんだろう。
「美咲、起きたかい?」
そんな声がして、痛む頭を押さえながら部屋の入り口に視線をやる。
マグカップを持った薫さんが此方へやって来た。ベッドに腰掛けて、あたしの髪を撫でる。
「よく眠っていたね。具合はどうだい?」
「……さいあくです」
起き上がれるかと手を貸されたので、吐き気に耐えながらなんとか上半身を起こす。
マグカップを受け取って、お礼を言ってから一口。温かい緑茶が二日酔いの身体には有り難い。
「あの、薫さん。あたし、」
「そうだ美咲、君にメッセージが届いていたよ?」
笑顔の薫さんは、あたしの言葉を遮ってスマホを渡す。促されるまま画面を見る。ロック画面にはトークアプリの通知が表示されていた。
一件は昨日飲み会に誘って来た友人から。
『昨日は無理に誘っちゃってごめんね。ちゃんと帰れた?』
この子が家まで送ってくれたのかなと期待をしてたけど、どうも違うらしい。
もう一件は知らない名前が表示されていた。明らかに男の人の名前。
『昨日はありがとう楽しかったよ〜。美咲ちゃん可愛かったから、今度は二人でご飯とか行きたいな!』
え、誰!?
「あの、薫さん」
「なんだい?」
「あたし昨日、どうやって帰って、来ました……?」
恐る恐る尋ねる。
だって今の薫さん、笑ってるけど内心絶対怒ってる。
お酒に弱いんだから飲み会はやめておけって、暗にそう止めてくれてた薫さんを躱して飲み会に行った挙句、記憶がなくなるまで飲んで帰って来て、更に何処ぞの知らない男と連絡先まで交換している。そりゃ怒るだろう。
薫さんの顔から笑顔が消え、苦虫を噛み潰したような表情になる。あ、これ、あたしまだ何かやらかしちゃってるな。
「男の人が、君を自宅まで送って、」
「え、うそ、」
まさかこのメッセージの人!? 焦るあたしを見て、薫さんは首を振る。
「……行く気でいたから。その前に、私が君を貰い受けたんだ」
「え、薫さん、迎えに来てくれたの……?」
「恋人を迎えに行くのは当然だろう?」
どうやら薫さんが酔っ払ったあたしを回収してここまで連れてきてくれたらしい。よかった。いや、よくない。薫さんがまだ怒ってる。
「美咲」
「は、はい」
「私は、君には飲み会に行って欲しくなかったんだ」
「……はい。あの、薫さん、怒ってます……よね……?」
分かりきっている質問。けれど薫さんは笑顔に戻ると、あたしの手からマグカップを回収して机に置いた。
そして肩をぐっ、と押されてあっけなくあたしは押し倒された。
「え、あ、薫さん、?」
「怒ってないよ」
「う、嘘だ! 絶対怒ってる! 目ぇ笑ってないもん! 怖い!!」
「おや、鋭いね美咲。では正直に言おう。割と怒ってる」
大きい声を出したせいで頭の痛みに顔を歪めるあたしの頰を撫でて、……指をそのまま、口の中に突っ込んできた。舌を撫でるように口内を掻き回される。
「ん、ふぁ、ふぁぅふあ、」
「……なんだい」
「……っぷは、あの、ごめんなさい……。連絡先、ちゃんと消すからっ……んぁ、」
「……そういうことを怒っているんじゃないんだ」
唾液で濡れた指が首筋をなぞり、反射的に身体が跳ねて声が漏れる。薫さんは真顔のまま表情を変えない。
怖い。これやばい、本気だ。
「美咲には、もっと危機感を持って欲しいんだ。君は魅力的で可愛らしいから」
「えー……? いや、あたしのことそんな風に言ってくれるの薫さんだけだって、あはは……ひゃあッ!?」
冗談めかして茶化すように笑ってみたら、服の中に手が入ってきて悲鳴を上げた。返し方間違えた。当然か。馬鹿かあたしは。
直接腰を撫でる薫さんを見上げれば、また苦い顔があった。
「……こういうことを、されるかもしれなかったんだよ」
その表情と絞り出すような声で、本当にあたしが危ない状況にあったことをようやく理解した。薫さんが迎えに来てくれたってことは、店から酔って出てきたあたしを見たってことで。
あんまり詳しく聞きたくはないけど、その時のあたしは薫さんがこんなに怒るだけの状況になっていたってことだろう。
薫さんにどれだけ心配と迷惑を掛けてしまったのかと想像したら、申し訳なさでいっぱいになって。
「……ごめんなさい」
「うん、いいんだ。でも、もう心配は掛けさせないでおくれ」
もう一回謝罪を口にすれば、頭を撫でられた。薫さんは笑顔に戻っている。今度は、ちゃんとあたしの好きな優しい笑顔だった。ただ、
「……あの、薫さん?」
「なんだい?」
「手、服から出してくれません?」
「なぜ?」
「えっ、これ許してくれる流れじゃないんですか」
探る手はやめない。寧ろその手は胸まで伸びてきている。
「昨夜はこういう事になりかねなかったんだよ」
「うん、それは分かった。ちゃんと分かったよ。ごめんなさいもしたよ」
「ただ、それはまた別として」
「は?」
「自分の魅力に無自覚な故に無防備なお姫様に、お仕置きが必要かと思ってね」
思いっきり服が捲られて、お腹と胸が露わになる。
えっ、待って待って、絶対そんな展開じゃなかったじゃん今。
「やっぱり薫さん怒ってますよね!? あの、薫さん!あたし、二日酔い、」
「ああ、その点は問題ない」
「え?」
「多少きつくなくては、罰にならないだろう?」
微笑むその姿は凄く絵になっていて、思わず見惚れてしまいそうだった。
ただそんな余裕は勿論なくて、あたしはその台詞に顔が蒼ざめていくのを感じた。
「あ、やだ、薫さん、」
「大丈夫だよ、美咲。終わったらその分たっぷり甘やかしてあげるから」
そういう問題じゃない!!
反抗したいけれど、心配掛けたのは事実だという罪悪感と、二日酔いによる体調不良じゃされるがまま。
二日酔いに更に腰痛がプラスされてしまうのは最早確定事項らしい。
教訓。アルコールに弱い奴がお酒を外で飲むのはやめましょう。