野イタチ
PAST今日は歌仙ちゃんの日らしいので、前に書いた大浸冦の話、置いておきます。ある刀の瞳孔 一瞬何が起こったのか分からなかった。
「増援!?」
歌仙は、目の前の光景が信じられなかった。あと少しだったのだ。あと少しで、この形勢を打破できるはずだった。それが一瞬で押し戻された。残っている者は皆、手傷を負っている。
「こんのすけ!どういうことになってる!」
「分かりません!おそらく増援ではなく、本隊が来たと考えるのが妥当でしょう!」
唯一の通信手段である管狐が答える。
「本隊とは厄介ですね。」
その真っ白な髪を血で染めながら、ふわりと横に立った、小狐丸が言う。
「各防衛ラインの戦況を教えてくれ!」
歌仙は敵を切る手を止めずに聞いた。
「はい。前衛はやや有利、中央は拮抗、そして、最終ラインが不利です!」
その報告を聞いて、歌仙は深く息を吐く。主に近侍を命じられ、そのためにこの大戦の指揮を任された。その任の重さを甘く見たことなど、一瞬もなかった。なのに、なのにだ。総大将がこの体たらく。一人の敵の浸入も許さぬこの最終ライン。そこが最も攻められてる。
4068「増援!?」
歌仙は、目の前の光景が信じられなかった。あと少しだったのだ。あと少しで、この形勢を打破できるはずだった。それが一瞬で押し戻された。残っている者は皆、手傷を負っている。
「こんのすけ!どういうことになってる!」
「分かりません!おそらく増援ではなく、本隊が来たと考えるのが妥当でしょう!」
唯一の通信手段である管狐が答える。
「本隊とは厄介ですね。」
その真っ白な髪を血で染めながら、ふわりと横に立った、小狐丸が言う。
「各防衛ラインの戦況を教えてくれ!」
歌仙は敵を切る手を止めずに聞いた。
「はい。前衛はやや有利、中央は拮抗、そして、最終ラインが不利です!」
その報告を聞いて、歌仙は深く息を吐く。主に近侍を命じられ、そのためにこの大戦の指揮を任された。その任の重さを甘く見たことなど、一瞬もなかった。なのに、なのにだ。総大将がこの体たらく。一人の敵の浸入も許さぬこの最終ライン。そこが最も攻められてる。
バイラ
DONEどっちがどの仕事でも、膝丸がいるから髭切は本丸が好き。兄者はこういうときだけめっちゃ速くなるんです笑そしてすっっごくわかりにくいけど、膝丸って言ってる兄者(笑
弟は僕の大地(初夏の小噺)僕達の顕現はその全てが審神者の霊力だけど、
僕達の始まりは土のその奥深くから。
溶けて固まって解けて固まって
そうして結びつきは強くなる。
「兄者、そろそろ行かぬと集合に遅れるぞ」
「んん、ありがとう。もうそんな時間かあ」
今日の午前は僕は遠征この子は内番、
最近やけに弟と仕事を分けられる。
どういう方針なのか主の考えはとんと分からないけど、
ちょっとつまらないな、と思ったのはほんの僅かの間だった。
「お前は農具当番だね」
「…その言い方はよしてくれ兄者…」
「あはは、ごめんごめん。今日も暑いから気を付けるんだよ」
真面目な弟をちょっと茶化して、逆らう産毛を撫でつけて。
着せかけてくれた上着の紐を結ぶ様子をじっと見る
「うっかり怪我などせぬようにな」
1123僕達の始まりは土のその奥深くから。
溶けて固まって解けて固まって
そうして結びつきは強くなる。
「兄者、そろそろ行かぬと集合に遅れるぞ」
「んん、ありがとう。もうそんな時間かあ」
今日の午前は僕は遠征この子は内番、
最近やけに弟と仕事を分けられる。
どういう方針なのか主の考えはとんと分からないけど、
ちょっとつまらないな、と思ったのはほんの僅かの間だった。
「お前は農具当番だね」
「…その言い方はよしてくれ兄者…」
「あはは、ごめんごめん。今日も暑いから気を付けるんだよ」
真面目な弟をちょっと茶化して、逆らう産毛を撫でつけて。
着せかけてくれた上着の紐を結ぶ様子をじっと見る
「うっかり怪我などせぬようにな」
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DONE梅の実と五月雨江五月雨郷の展示期間が終わったのと月も変わるので。
この梅の実を描くために徳川園まで行って観察していました。梅の実、ほとんど花柄が見えず枝に直接くっついているように見えるのですね。
kureha_i
DONE弊本丸の山姥切が修行に出た時の話と、伊達+αの海遊び。この話の前の話は、長文なのでHPでどうぞ。
歌仙が修行に出た時の話→http://kureha.ciao.jp/Kale_Touken_Story_31.htm
まつとしきかば 処暑を過ぎたにもかかわらず、未だ暑熱の去らないある日。
畑仕事から戻って来た太鼓鐘と物吉から、野菜の入った籠を受け取った光忠は、代わりに冷やしたタオルを渡してやった。
喜んでタオルにうずめた顔を再びあげた瞬間、鶴丸が吹き出す。
「こりゃ驚いた!
白い貞宗達が、こんがり黒くなっているぞ!」
指をさされた二人は、互いに顔を見合わせて、笑い出した。
「ほんとだ!
太鼓鐘、こんがりしちゃってますよ!」
「物吉だって!
これじゃあ黒王子だぜ!」
衣装も黒くするか!と、はしゃぐ太鼓鐘に、光忠も笑い出す。
「じゃあ二人とも、長船派に入る?」
言った途端、騒ぎを聞きつけたか、勝手口の扉が音を立てて開いた。
「日焼け止め、ちゃんと塗らなきゃだめだろう、お前達!
21413畑仕事から戻って来た太鼓鐘と物吉から、野菜の入った籠を受け取った光忠は、代わりに冷やしたタオルを渡してやった。
喜んでタオルにうずめた顔を再びあげた瞬間、鶴丸が吹き出す。
「こりゃ驚いた!
白い貞宗達が、こんがり黒くなっているぞ!」
指をさされた二人は、互いに顔を見合わせて、笑い出した。
「ほんとだ!
太鼓鐘、こんがりしちゃってますよ!」
「物吉だって!
これじゃあ黒王子だぜ!」
衣装も黒くするか!と、はしゃぐ太鼓鐘に、光忠も笑い出す。
「じゃあ二人とも、長船派に入る?」
言った途端、騒ぎを聞きつけたか、勝手口の扉が音を立てて開いた。
「日焼け止め、ちゃんと塗らなきゃだめだろう、お前達!
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DONE人形本丸続編。1624/10/17 晩秋を迎えた陽光は、かつての苛烈さを失くし、ただ清澄に降り注いでいる。
冷たい風が病床の主の身体には良くないからと、締め切られた障子を彼は、そっと開けた。
「おぉ、尼君。ご覧あれ。
庭の紅葉が見事に色づいている。
まさに、
散らねども かねてぞ惜しきもみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば
と言ったところかな」
声をかけるが、返事はない。
「尼君。尼君や。
お加減が悪いか。
せっかくの良き日和だというのに。
さぁ、起きて共にご覧あれ。
俺に、昔の話を聞かせておくれ」
床に臥せたまま、浅く息をする老女へ、彼はひたすら声をかけた。
「尼君・・・」
伏せた目に写る老女は、かつての快活な生気を失くし、ただゆっくりと、死出の旅路へと向かっている。
20400冷たい風が病床の主の身体には良くないからと、締め切られた障子を彼は、そっと開けた。
「おぉ、尼君。ご覧あれ。
庭の紅葉が見事に色づいている。
まさに、
散らねども かねてぞ惜しきもみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば
と言ったところかな」
声をかけるが、返事はない。
「尼君。尼君や。
お加減が悪いか。
せっかくの良き日和だというのに。
さぁ、起きて共にご覧あれ。
俺に、昔の話を聞かせておくれ」
床に臥せたまま、浅く息をする老女へ、彼はひたすら声をかけた。
「尼君・・・」
伏せた目に写る老女は、かつての快活な生気を失くし、ただゆっくりと、死出の旅路へと向かっている。
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DONE人形の主による本丸375 瞬いた目に映ったのは、真っ白な部屋。
調度の一つもなく、殺風景この上ない。
「なんだい、この部屋は。
風流じゃないね」
見回せば、歳の頃は七つほどか、緋色の振袖を肩上げもせず、さらりと着た幼子が、この部屋で唯一の調度のように動かず、じっと彼を見つめていた。
「ごきげんよう、童女殿。
貴殿が僕の主かな?」
跪いて目線を合わせると、彼女はこくりと頷く。
と、肩の上で切り揃えた、癖のない黒髪がさらりと流れた。
一筋の乱れもないそれを訝しく思いつつ、彼は微笑む。
「そうか。
僕は歌仙兼定。
風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく」
「・・・よろしく」
囁くような声に確信し、歌仙は微笑んだまま、目に剣呑な光を点した。
24692調度の一つもなく、殺風景この上ない。
「なんだい、この部屋は。
風流じゃないね」
見回せば、歳の頃は七つほどか、緋色の振袖を肩上げもせず、さらりと着た幼子が、この部屋で唯一の調度のように動かず、じっと彼を見つめていた。
「ごきげんよう、童女殿。
貴殿が僕の主かな?」
跪いて目線を合わせると、彼女はこくりと頷く。
と、肩の上で切り揃えた、癖のない黒髪がさらりと流れた。
一筋の乱れもないそれを訝しく思いつつ、彼は微笑む。
「そうか。
僕は歌仙兼定。
風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく」
「・・・よろしく」
囁くような声に確信し、歌仙は微笑んだまま、目に剣呑な光を点した。
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DONE変わり種本丸続編。時の政府は令和の少子化を憂いている。
とある家族の本丸・二本庄(ほんじょう)家
夫:英雄(ひでお)
妻:美子(よしこ)
子:長男・ワカ、次男・ナカ、長女・姫(通称)
堀(ほり)家
夫:大介(だいすけ)
妻:千鶴(ちづる)
子:イチ(通称)
―――― 保活。
平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
専業主婦が主だった時代も、今は昔。
女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
堀家も、その戦に参戦する家の一つである。
ある日。
「保育園が・・・決まらないんですよ・・・・・・」
あとはもやしを残すのみとなったラーメンの、冷めたスープをぐるぐるとかき回す後輩に、英雄は何度も頷いた。
「うちも、長男の時は大変だったよ。
12682夫:英雄(ひでお)
妻:美子(よしこ)
子:長男・ワカ、次男・ナカ、長女・姫(通称)
堀(ほり)家
夫:大介(だいすけ)
妻:千鶴(ちづる)
子:イチ(通称)
―――― 保活。
平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
専業主婦が主だった時代も、今は昔。
女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
堀家も、その戦に参戦する家の一つである。
ある日。
「保育園が・・・決まらないんですよ・・・・・・」
あとはもやしを残すのみとなったラーメンの、冷めたスープをぐるぐるとかき回す後輩に、英雄は何度も頷いた。
「うちも、長男の時は大変だったよ。
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DONE変わり種本丸。こういうシステムあればいいよね。
とある家族の本丸本庄(ほんじょう)家
夫:英雄(ひでお)
妻:美子(よしこ)
子:ワカ(通称)
―――― 保活。
平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
専業主婦が主だった時代も、今は昔。
女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
本庄家も、その戦に参戦する家の一つである。
ある日。
某IT社にて、SEを務める英雄は、マンションの玄関を入った途端、疲れ果てた気配を察してリビングへと足を速めた。
「美子ちゃん、大丈夫・・・?
保育園、今日も無理だった?」
決まっていたなら喜びの連絡が入っただろうが、今日もそれはなかった。
気づかわしげに問いかけると、テーブルの上に突っ伏した美子が、ぼさぼさの頭を上げる。
9304夫:英雄(ひでお)
妻:美子(よしこ)
子:ワカ(通称)
―――― 保活。
平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
専業主婦が主だった時代も、今は昔。
女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
本庄家も、その戦に参戦する家の一つである。
ある日。
某IT社にて、SEを務める英雄は、マンションの玄関を入った途端、疲れ果てた気配を察してリビングへと足を速めた。
「美子ちゃん、大丈夫・・・?
保育園、今日も無理だった?」
決まっていたなら喜びの連絡が入っただろうが、今日もそれはなかった。
気づかわしげに問いかけると、テーブルの上に突っ伏した美子が、ぼさぼさの頭を上げる。
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DONE夏向けです。過去に書いたものなので、呼び名が一定していない。
初出2016.07.16
月夜月夜に 長雨もようやく終わり、夏の虫が夜を賑わせる頃。
和泉守兼定は一人、庭の見える部屋で月見酒を決め込んでいた。
「―――― 恋し恋しとなく蝉よりも なかぬ蛍が身を焦がす・・・ってな」
機嫌よく笑いながら、池の周りでぽつぽつと光るさまに目を細める。
「うるさい国広は明日の昼までいねぇし・・・今夜はゆっくり飲めるってもんだぜ。
主に感謝だな!」
そして明日は昼まで寝ていようと、楽しい計画につい、頬が緩んだ。
手酌が少し惜しいが、この時のために隠し持っていた美酒に、月の姿を映す。
「三日月の 水の底照る 春の雨・・・って、もう季節はずれか。
あー・・・夏の句はなんだったかな・・・」
前の主が残した句を思い出そうと、彼は庭へと目を向けた。
19000和泉守兼定は一人、庭の見える部屋で月見酒を決め込んでいた。
「―――― 恋し恋しとなく蝉よりも なかぬ蛍が身を焦がす・・・ってな」
機嫌よく笑いながら、池の周りでぽつぽつと光るさまに目を細める。
「うるさい国広は明日の昼までいねぇし・・・今夜はゆっくり飲めるってもんだぜ。
主に感謝だな!」
そして明日は昼まで寝ていようと、楽しい計画につい、頬が緩んだ。
手酌が少し惜しいが、この時のために隠し持っていた美酒に、月の姿を映す。
「三日月の 水の底照る 春の雨・・・って、もう季節はずれか。
あー・・・夏の句はなんだったかな・・・」
前の主が残した句を思い出そうと、彼は庭へと目を向けた。