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DONEオリジナル小説冬になると眠ってしまう女の子のお話三ねぇ、来たよ。
ドアを開けて、眠りについた君を見つめて声を掛ける。
最後に言葉をかわした日から何日経ったのだろう。
何日僕はそう呟いて君の枕元で君の耳に届いているかどうかもわからないくだらない話をしただろう。
早く春が来ればいいのにと、君に呟くのが帰る前のルーティンになっていた。
前の年ももそうだったのかもう記憶にないけれど。
きっと来年君と言葉をかわしたとき僕はまた君に恋をする。眠っている間には分からないきれいな瞳に。君ののどから出てくるかわいらしい声に。
愛しすぎて、もしかしたら涙がこぼれてしまうかもしれない。
「ねぇ、」
「何。」
「どうして冬になるとすぐに帰るの」
「すぐに暗くなるからだよ。」
「嘘つきだ。」
668ドアを開けて、眠りについた君を見つめて声を掛ける。
最後に言葉をかわした日から何日経ったのだろう。
何日僕はそう呟いて君の枕元で君の耳に届いているかどうかもわからないくだらない話をしただろう。
早く春が来ればいいのにと、君に呟くのが帰る前のルーティンになっていた。
前の年ももそうだったのかもう記憶にないけれど。
きっと来年君と言葉をかわしたとき僕はまた君に恋をする。眠っている間には分からないきれいな瞳に。君ののどから出てくるかわいらしい声に。
愛しすぎて、もしかしたら涙がこぼれてしまうかもしれない。
「ねぇ、」
「何。」
「どうして冬になるとすぐに帰るの」
「すぐに暗くなるからだよ。」
「嘘つきだ。」
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MOURNINGただ、ひとり旅の予定がズレた日に思いついた話ひとり旅出かけようと思った。大切だと思っていた人を忘れるために。唐突に選んだ意味のない季節をぱっと指さして気づく。
本当に偶然、でもそれは必然のように意味のある季節であるように思える。
それくらい、大切な日だった。その日は、君と出会った季節だったから。
君の口にしていた名前の場所、多くの時間君が過ごしたらしい場所。全部見て回りたかった。
君がいたことを、どうしても感じたかった。
それだけで良かった、それだけで。
きっと、私は前へ進める。
初めての土地は、冷たくてつんと鼻の奥が痛くなるような空気をしていた。
秋、という季節がそうさせていたのかもしれないけど。
「さむ。」
小さく呟いて、歩を進める。
右も左も知らない景色が広がる世界へ。
319本当に偶然、でもそれは必然のように意味のある季節であるように思える。
それくらい、大切な日だった。その日は、君と出会った季節だったから。
君の口にしていた名前の場所、多くの時間君が過ごしたらしい場所。全部見て回りたかった。
君がいたことを、どうしても感じたかった。
それだけで良かった、それだけで。
きっと、私は前へ進める。
初めての土地は、冷たくてつんと鼻の奥が痛くなるような空気をしていた。
秋、という季節がそうさせていたのかもしれないけど。
「さむ。」
小さく呟いて、歩を進める。
右も左も知らない景色が広がる世界へ。
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MOURNING短い詩みたいなやつ夜のナイフ両親を看取ったら、自分は死ぬことを目標に生きてきたはずなのに、今すぐにでもと思う時がある。
正直、人がひとりいなくなってしまっても他の人の人生はいつもと変わらないまま続くのだろう。
ただそれだけのこと。
きっと、すぐに忘れてしまう、あんな人もいたなーという記憶ですら。
それでいいんだ。
誰かに悲しんでほしいわけじゃない。覚えていてほしいわけでもない。
そう思っていたのに、夜になって考え始めるとそれがたまらなく恐ろしくて涙が出てしまう。
自分は誰の何者でもないのだ、そう夜にナイフを突きつけられているようで。
261正直、人がひとりいなくなってしまっても他の人の人生はいつもと変わらないまま続くのだろう。
ただそれだけのこと。
きっと、すぐに忘れてしまう、あんな人もいたなーという記憶ですら。
それでいいんだ。
誰かに悲しんでほしいわけじゃない。覚えていてほしいわけでもない。
そう思っていたのに、夜になって考え始めるとそれがたまらなく恐ろしくて涙が出てしまう。
自分は誰の何者でもないのだ、そう夜にナイフを突きつけられているようで。
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DONEどうしても口説き(治し)たい人君は旅をするどうしても、どうしても口説けない人がいた。
その人は、いつも明るくてまるで病気なんてないような顔で診察室に入ってくる。
「せんせっ、今度沖縄に行くんだ」
「駄目だよ。」
その人は、僕の制止をなかなか受け止めてはくれない。
「今度こそ、治療を受けてもらう。」
「治療なら受けてるよ。」
「欠かさず処方薬は正しく飲んでるし、おかげで検査の結果も現状維持を続けてる。」
「だから、そうじゃなくて「いやだよ。」…」
「沖縄に行ってから。世界を見てから。どうせ私には私しかいないんだから。そんな私もそのうちいなくなるんだから。今、見に行くの。世界を。」
すぐにどうこうなる病気じゃない。ただ、彼女の病は確実にその小さな体を蝕んでいく。
719その人は、いつも明るくてまるで病気なんてないような顔で診察室に入ってくる。
「せんせっ、今度沖縄に行くんだ」
「駄目だよ。」
その人は、僕の制止をなかなか受け止めてはくれない。
「今度こそ、治療を受けてもらう。」
「治療なら受けてるよ。」
「欠かさず処方薬は正しく飲んでるし、おかげで検査の結果も現状維持を続けてる。」
「だから、そうじゃなくて「いやだよ。」…」
「沖縄に行ってから。世界を見てから。どうせ私には私しかいないんだから。そんな私もそのうちいなくなるんだから。今、見に行くの。世界を。」
すぐにどうこうなる病気じゃない。ただ、彼女の病は確実にその小さな体を蝕んでいく。
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TRAININGオリジナルのお話冬になると眠ってしまう女の子のお話二あなたは知らないのでしょう、本当の真っ暗がどれだけ怖いのか。
冬になると、どうしてか眠くなってしまう。
眠りたくなくても、もっと起きていたくても私の思いとは裏腹に冬は年々早くやって来る。
冬の間中夢を見ていられるのなら、どれだけいいだろう。
けれど、私が眠っている間あるのは真っ暗な闇だけだ。
生きているのかどうかすらわからない、このまま眠り続けたらもう死んでしまうのではないかと思ってしまう。
誰か、気づいてくれるのだろうか。
私がもしも眠ったまま二度と目を覚まさかった時、冷たくなってしまった時に。
真っ暗闇の中、私は泣いているのだろうか。頬に温かい感触がする。
あなたは、あなたは来てくれるだろうか。
冬の間に私のことなんと忘れてしまう…
572冬になると、どうしてか眠くなってしまう。
眠りたくなくても、もっと起きていたくても私の思いとは裏腹に冬は年々早くやって来る。
冬の間中夢を見ていられるのなら、どれだけいいだろう。
けれど、私が眠っている間あるのは真っ暗な闇だけだ。
生きているのかどうかすらわからない、このまま眠り続けたらもう死んでしまうのではないかと思ってしまう。
誰か、気づいてくれるのだろうか。
私がもしも眠ったまま二度と目を覚まさかった時、冷たくなってしまった時に。
真っ暗闇の中、私は泣いているのだろうか。頬に温かい感触がする。
あなたは、あなたは来てくれるだろうか。
冬の間に私のことなんと忘れてしまう…
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TRAININGオリジナルのお話冬になると眠ってしまう女の子の話1僕の好きになった人は、冬になると眠りにつく。
そして、春が来れば目を覚ます。
彼女は、冬も、雪も知らずに過ごす。
粉雪が舞う季節、イルミネーションがきらきらと目に痛い季節を君と一緒にいられたらと願う僕と、私が冬を見れないのはね、冬を見る必要はないとあらかじめ決められたのよと笑う君。
ただ、あなたと出会ってから日々はあっという間に過ぎ去り木々の色も花の色もコロコロと色を変える。
まるであなたと過ごせない季節をさみしく思う私を嘲笑っているかのように、冬はすぐに訪れる。
長い長い冬。
「冬ってね、怖いの。他の人のことは分からないし冬眠している動物のことも分からないけれど。」
しんみりと語っていた君は急に無邪気な笑みを浮かべる。僕にとって君は見ているだけでコロコロと表情を変える季節のように思える。
574そして、春が来れば目を覚ます。
彼女は、冬も、雪も知らずに過ごす。
粉雪が舞う季節、イルミネーションがきらきらと目に痛い季節を君と一緒にいられたらと願う僕と、私が冬を見れないのはね、冬を見る必要はないとあらかじめ決められたのよと笑う君。
ただ、あなたと出会ってから日々はあっという間に過ぎ去り木々の色も花の色もコロコロと色を変える。
まるであなたと過ごせない季節をさみしく思う私を嘲笑っているかのように、冬はすぐに訪れる。
長い長い冬。
「冬ってね、怖いの。他の人のことは分からないし冬眠している動物のことも分からないけれど。」
しんみりと語っていた君は急に無邪気な笑みを浮かべる。僕にとって君は見ているだけでコロコロと表情を変える季節のように思える。
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DONE銀河鉄道の夜の後のジョバンニとザネリのお話を書きました。ザネリとジョバンニ「ザネリ、ねぇ。」
嗤いに来たのか、それとも責めに来たのか、
ジョバンニはそれでも何も言わずに立っている。ただ僕の返事をひたすらに待っているようだった。
「カムパネルラの父さんが言ってたんだ。一度二人で家に遊びに来てほしいって」
「…」
「ザネリ、行こう。きっとそれをカムパネルラも望んでる。」
…カムパネルラが、望んでる
「ジョバンニ、一体「わからないよ。その人が本当に望んでいることも、その人にとっての幸いも…僕らには到底わからない。」…」
「それでも、カムパネルラはカムパネルラのお父さんが望んだことを望むと思うんだ。だから、僕らは行くべきなんだよ。」
いつから、いつからジョバンニはこんなふうに話していたのだろう。
1263嗤いに来たのか、それとも責めに来たのか、
ジョバンニはそれでも何も言わずに立っている。ただ僕の返事をひたすらに待っているようだった。
「カムパネルラの父さんが言ってたんだ。一度二人で家に遊びに来てほしいって」
「…」
「ザネリ、行こう。きっとそれをカムパネルラも望んでる。」
…カムパネルラが、望んでる
「ジョバンニ、一体「わからないよ。その人が本当に望んでいることも、その人にとっての幸いも…僕らには到底わからない。」…」
「それでも、カムパネルラはカムパネルラのお父さんが望んだことを望むと思うんだ。だから、僕らは行くべきなんだよ。」
いつから、いつからジョバンニはこんなふうに話していたのだろう。