たまには、年老いた彼女のお話を当たり前にいた人はある日突然、ほんの些細なことで居なくなってしまう。
友達でも恋人でもそうなのかもしれない。家族でも同じだ。
だから私は大切な人をこれ以上増やさないと決めた。大切が増える分、なくなったときに心が痛くて痛くてたまらなくなるから。
こっちに来ないでくれ、そう思っても人間という生き物は一度外へ出ればいろんな人に出会ってしまう。時には言葉を交わし、相手との関係に名前をつけざるを得ない時だってある、ニンゲンだから。
ニンゲンなんて厄介だ、ひとりぼっち以外を知ればひとりぼっちには戻れない。
…あぁ、生まれ変わったら木になりたい。
木は色んな人の一生を見られるから、それでもその全部が他人事だから。言葉を交わさなくても構わないから。
「ねぇ、岩木さん。」
あぁ、今日も誰かの声が私を呼ぶ。
「何ですか」
「今日はどんなお話を聞かせてくれるの」
「そうですねぇ…『小さな冒険』というお話はいかがでしょうか。恥ずかしながら私が作ったお話なのですけれど。」
「素敵では後ほど。」
「えぇ、後ほど。」
そうして、決して若者とは言えない年齢の私に役割をくれる。