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PROGRESS信と一緒に長老と子どもたちのところへ果実を届けに行く氷船。海月たち子どもの反応は様々で……。
信に懐く子、怖がる子 正義の診察を終えた海晴が診療所に戻ってきたので、氷船は彼に断りを入れてから長老のところへ向かった。時間もちょうど八つ時になる頃だ。信と、信が採ってきた果実とを携えて、氷船はしばらくぶりに長老がいる山小屋の戸を叩く。
「はいはい、……おや」
戸を開けて出迎えた長老の、皺だらけの顔がみるみる綻ぶ。氷船もまた、胸の奥の重石がほどけていくようなほっとした気持ちで目元を緩めた。
氷船は腕の中の包みを見せる。
「長老。信から、子どもたちに差し入れです」
「これはこれは……信殿もお元気で何よりだ。二人とも、時間があるなら、一緒に食べて行きなされ」
二人が中へ入れるように長老が一歩下がって、氷船は屋内の様子を窺いながら慎重に踏み込んだ。信は、その氷船の後ろへ隠れるようについてくる。逆に怪しいだろうと思うが、堂々と姿を見せるのとどちらが泣かれるだろうか。判断のつかなかった氷船は、黙って信の好きにさせた。
4179「はいはい、……おや」
戸を開けて出迎えた長老の、皺だらけの顔がみるみる綻ぶ。氷船もまた、胸の奥の重石がほどけていくようなほっとした気持ちで目元を緩めた。
氷船は腕の中の包みを見せる。
「長老。信から、子どもたちに差し入れです」
「これはこれは……信殿もお元気で何よりだ。二人とも、時間があるなら、一緒に食べて行きなされ」
二人が中へ入れるように長老が一歩下がって、氷船は屋内の様子を窺いながら慎重に踏み込んだ。信は、その氷船の後ろへ隠れるようについてくる。逆に怪しいだろうと思うが、堂々と姿を見せるのとどちらが泣かれるだろうか。判断のつかなかった氷船は、黙って信の好きにさせた。
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PROGRESSししんでん神速全種族本正義と海晴(演:薫、人間族の医者)メイン回
「どうしたら笑ってくれるんだよ」を正義さんに落とし込もうとしました。
正義と海晴 その頃、海晴は、氷船に診療所の留守番を頼んでいる間に物置小屋で正義の診察をしていた。割れたり剝がれたりしていた爪がちゃんと生えているか、胸や背中の深い傷痕が膿んでいないか確かめる。いずれも順調に癒えてきているのを確認した海晴は、正義の傷に薬を塗って包帯を巻き直しながらやや不服げに息をついた。
「まあ……蒼生様のお墨付きや七雲の提案もあることだ。少し外に出るくらいは良いだろう」
巻き終わりの処理をして道具を片付ける海晴に、ありがとうな、と正義の声がかかる。千紫万紅の乱で海晴たちの村が焼けてから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
蒼生の視察と審問の折、信と正義の二人を春まで保護することについては海晴も賛同したものの、では何処で保護するか、という話は、そのときは宙ぶらりんになっていた。だが、その直後に起こった山での暴れ鹿騒ぎや、獣人族に斥候をしてもらえればという七雲の提案から、信と正義は結局春までこの村に滞在することになっていたのだ。
3281「まあ……蒼生様のお墨付きや七雲の提案もあることだ。少し外に出るくらいは良いだろう」
巻き終わりの処理をして道具を片付ける海晴に、ありがとうな、と正義の声がかかる。千紫万紅の乱で海晴たちの村が焼けてから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
蒼生の視察と審問の折、信と正義の二人を春まで保護することについては海晴も賛同したものの、では何処で保護するか、という話は、そのときは宙ぶらりんになっていた。だが、その直後に起こった山での暴れ鹿騒ぎや、獣人族に斥候をしてもらえればという七雲の提案から、信と正義は結局春までこの村に滞在することになっていたのだ。
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PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武 今週の更新信は16歳だけど種族の中では大人、氷船は17歳だけど種族の中では子ども…という設定にしたので、信(大人)は氷船(子ども)に対してお兄ちゃんヅラしているってわけ
氷船 帰宅へ向けて「ホゴシャとは何だ?」
「んー……たとえば親御さんとか、子どもの面倒を見たり責任を取ったりする大人のこと、かな? 今、村にいる獣人族は正義さんと信くんしかいないから、オレたちは正義さんを信くんの保護者扱いしているけれど……」
そういえばオレたちが勝手に言ってるだけかも、と七雲は苦笑して頭を掻いたが、信はその七雲をしばらく見上げてぽつりと言った。
「……俺は子どもじゃないが」
「えっ!? いや、でも、氷船くんとか蒼生様が十七だから……信くんも一緒くらいじゃない? 違うの?」
七雲が心底驚いた様子で信を凝視する。信もまた、氷船と蒼生の年齢を聞いて目を丸くした。信は、まあ人間族とは寿命が違うらしいからな、と早口に話をごまかしてから、正義の待つ小屋の戸を開けた。
2522「んー……たとえば親御さんとか、子どもの面倒を見たり責任を取ったりする大人のこと、かな? 今、村にいる獣人族は正義さんと信くんしかいないから、オレたちは正義さんを信くんの保護者扱いしているけれど……」
そういえばオレたちが勝手に言ってるだけかも、と七雲は苦笑して頭を掻いたが、信はその七雲をしばらく見上げてぽつりと言った。
「……俺は子どもじゃないが」
「えっ!? いや、でも、氷船くんとか蒼生様が十七だから……信くんも一緒くらいじゃない? 違うの?」
七雲が心底驚いた様子で信を凝視する。信もまた、氷船と蒼生の年齢を聞いて目を丸くした。信は、まあ人間族とは寿命が違うらしいからな、と早口に話をごまかしてから、正義の待つ小屋の戸を開けた。
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PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武氷船の話 今週の更新
狩りとして動物を撃ったり斬ったりする描写があります
猟師vs暴れ鹿 助っ人乱入アピールチャンス 三、四、と、立て続けに猟師たちの銃声が森を揺らす。七雲は猟銃に火薬と弾丸を必死で装填しながら、山の斜面に身を低くして標的を見据えた。
標的は一頭の鹿だ。左右の枝角があちこち不揃いに欠けている。冬毛の生え方も不揃いで、季節による生え変わりというよりも、罠や木々にでも引っかけて傷になった場所が過回復したかのような形と範囲に長い毛が生えていた。
やや大きめの牡、普段なら良い獲物となるくらいの鹿は、しかしこれまで見たことがないほど暴れ狂っている。鹿は本来臆病なはずだが、今七雲の目の前にいる個体は、角を振り上げて何度も猟師に襲い掛かっていた。襲われた猟師は体の前に構えた銃身でその角を受け止め、おかげで角が刺さりこそしなかったものの、速度が乗った鹿の重量に耐えきれず山の斜面を転がった。彼の猟犬が吠えながら主を追う一方で、鹿は跳ね上がって向きを変え、今度は七雲へと突進する。
2265標的は一頭の鹿だ。左右の枝角があちこち不揃いに欠けている。冬毛の生え方も不揃いで、季節による生え変わりというよりも、罠や木々にでも引っかけて傷になった場所が過回復したかのような形と範囲に長い毛が生えていた。
やや大きめの牡、普段なら良い獲物となるくらいの鹿は、しかしこれまで見たことがないほど暴れ狂っている。鹿は本来臆病なはずだが、今七雲の目の前にいる個体は、角を振り上げて何度も猟師に襲い掛かっていた。襲われた猟師は体の前に構えた銃身でその角を受け止め、おかげで角が刺さりこそしなかったものの、速度が乗った鹿の重量に耐えきれず山の斜面を転がった。彼の猟犬が吠えながら主を追う一方で、鹿は跳ね上がって向きを変え、今度は七雲へと突進する。
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PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武人間族:氷船の話
自分で書くなら格好いい正義さんが見てえ~と思って書いてる
蒼生と獣人族による対面情報交換会 来る蒼生の視察の日、獣人族の二人と蒼生との面談には、氷船と海晴も同席した。獣人族がこれまで氷船たちに話したことと、これから蒼生に話すこととで、齟齬があれば指摘してほしいとのことだった。
さすがに蒼生を物置小屋には招けないので、村長や重鎮たちが使っている山小屋を精一杯小綺麗に片付けた上でそこに蒼生を招き、獣人族の二人を呼んだ。蒼生が上座に腰を下ろした脇には、護衛の人間が左右に一人ずつ付いている。氷船は、現実味のない気持ちで山小屋の壁際から会談を見つめた。
蒼生の付き人が獣人たちの名前を確認して、信と正義がそれぞれに頷く。先日信が繕った花葉色の――獣人族の装束を再び纏った信と正義に、蒼生が静かに尋ねた。
6634さすがに蒼生を物置小屋には招けないので、村長や重鎮たちが使っている山小屋を精一杯小綺麗に片付けた上でそこに蒼生を招き、獣人族の二人を呼んだ。蒼生が上座に腰を下ろした脇には、護衛の人間が左右に一人ずつ付いている。氷船は、現実味のない気持ちで山小屋の壁際から会談を見つめた。
蒼生の付き人が獣人たちの名前を確認して、信と正義がそれぞれに頷く。先日信が繕った花葉色の――獣人族の装束を再び纏った信と正義に、蒼生が静かに尋ねた。
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PROGRESSししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武人間族:氷船の話
鬼・獣人連合軍に村焼きされた玄武が、ドラスタと一緒に信と正義を助ける話
信と正義、目を覚ます 獣人族の片方が目を覚ましたのは、その日の夕暮れ前だった。先に目を覚ましたのは、髪の長い、氷船と歳の近そうなほうだ。
氷船と海晴とで包帯を換えているうちに、朱色の耳がぴぴっと震えて、かすかな呻き声が漏れる。
「……ぅ、あ……?」
薄く開いた瞼の下に、琥珀の瞳が見え隠れする。包帯を巻く都合で半分起こした若者の体を後ろから支えていた氷船は、海晴と顔を見合わせてから静かに彼を見守った。
何度か目をしばたいた若者は、周囲に視線を巡らせて海晴の姿を見つけると慌てた様子で跳ね起きる。氷船の手も払いのけた若者は、しかしすぐにまた呻いて筵の上に丸くなった。
その様子を見て、海晴が淡々と告げる。
「……手当はしたが、完治はまだ先だ。気をつけろ」
6508氷船と海晴とで包帯を換えているうちに、朱色の耳がぴぴっと震えて、かすかな呻き声が漏れる。
「……ぅ、あ……?」
薄く開いた瞼の下に、琥珀の瞳が見え隠れする。包帯を巻く都合で半分起こした若者の体を後ろから支えていた氷船は、海晴と顔を見合わせてから静かに彼を見守った。
何度か目をしばたいた若者は、周囲に視線を巡らせて海晴の姿を見つけると慌てた様子で跳ね起きる。氷船の手も払いのけた若者は、しかしすぐにまた呻いて筵の上に丸くなった。
その様子を見て、海晴が淡々と告げる。
「……手当はしたが、完治はまだ先だ。気をつけろ」
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DONE円盤と特典が来たら続き書くって言ってたやつの続きを含む完成版縁が獣人族の子どもたちを救い出す話:救われる側視点
救われる側↓
リメ玄武:獣人族のすがた
靜(シズカ)
獣人族の少年。生まれつき胸が悪いため長く走れない。
結の集落から最初に鬼族へ療養に出されたうちの一人。
※烈勇5歳、縁頼8歳、靜11歳、信結盟16歳、志積20歳、正義28歳と設定
獣人族:靜の話(千紫万紅の乱) 完成版 文明が発達していない――と言われる獣人族だが、そんな種族の集落にも学び舎はある。学び舎、あるいは託児所、要するに幼い子どもたちを集めて面倒を見る場所だ。その学び舎の窓から、尻尾の毛をなびかせて縁が飛び出す。その縁を追って、少し年上らしい黒髪の少年も同じく窓から飛び出した。
「こら、縁様! 今日は手習いだって前から言ってただろうが!」
「字なんて書いててもつまんねぇよ! オレもにぃちゃんと一緒に行くー!」
簡素な家々の合間を抜ける小路を、縁が軽々と駆けていく。黒髪の少年――靜もまた縁を追い、少しずつ距離を詰めていった。その様子を振り返ってぎょっとした縁が速度を上げ、靜が伸ばした手は空を掻く。小さくなる縁の背中を見て、靜は歯を食い縛った。
7839「こら、縁様! 今日は手習いだって前から言ってただろうが!」
「字なんて書いててもつまんねぇよ! オレもにぃちゃんと一緒に行くー!」
簡素な家々の合間を抜ける小路を、縁が軽々と駆けていく。黒髪の少年――靜もまた縁を追い、少しずつ距離を詰めていった。その様子を振り返ってぎょっとした縁が速度を上げ、靜が伸ばした手は空を掻く。小さくなる縁の背中を見て、靜は歯を食い縛った。
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PROGRESS円盤と特典が来たら調整して続き書く~今はここまでししんでんしんそくぜんしゅぞく本 side玄武
リメ玄武:獣人族のすがた(千紫万紅ごろ)
靜(シズカ)
獣人族の少年。生まれつき胸が悪いため長く走れない。
結の集落から最初に鬼族へ療養に出されたうちの一人。
※烈勇5歳、縁頼8歳、靜11歳、信結盟16歳、志積20歳、正義28歳と設定
獣人族:靜の話(千紫万紅の乱) 文明が発達していない――と言われる獣人族だが、そんな種族の集落にも学び舎はある。学び舎、あるいは託児所、要するに幼い子どもたちを集めて面倒を見る場所だ。その学び舎の窓から、尻尾の毛をなびかせて縁が飛び出す。その縁を追って、少し年上らしい黒髪の少年も同じく窓から飛び出した。
「こら、縁様! 今日は手習いだって前から言ってただろうが!」
「字なんて書いててもつまんねぇよ! オレもにぃちゃんと一緒に行くー!」
簡素な家々の合間を抜ける小路を、縁が軽々と駆けていく。黒髪の少年――靜もまた縁を追い、少しずつ距離を詰めていった。その様子を振り返ってぎょっとした縁が速度を上げ、靜が伸ばした手は空を掻く。小さくなる縁の背中を見て、靜は歯を食い縛った。
5705「こら、縁様! 今日は手習いだって前から言ってただろうが!」
「字なんて書いててもつまんねぇよ! オレもにぃちゃんと一緒に行くー!」
簡素な家々の合間を抜ける小路を、縁が軽々と駆けていく。黒髪の少年――靜もまた縁を追い、少しずつ距離を詰めていった。その様子を振り返ってぎょっとした縁が速度を上げ、靜が伸ばした手は空を掻く。小さくなる縁の背中を見て、靜は歯を食い縛った。