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TRAINING許して、とかそけしい訴えが耳に届いた時、相澤は全身が燃え上がるのを感じた。全く身勝手な興奮だった。心操を追い詰めたのは自分の手管で、彼がそれを受け入れ、認め、全権は相澤の手の中にある。たとえ錯覚だとしても、眼下に見おろす若く立派な肢体を自由に出来るのだ。
日頃相澤は、年長者であり元指導者という立場から、心操への振る舞いが支配的にならないよう気を付けていた。同じ夢を志した者、あるいはパートナーとして尊重したかった。
その反動だろうか。恋人同士の睦み合い、無防備に肌を重ね心を曝け出すさなか、心操が抵抗を見せると抑え付けたくなる衝動がある。俺のことが好きなんだろう、嫌がらないでくれ、お前が好きでどうしようもなくなってるのを、どうか受け止めてくれ。
379日頃相澤は、年長者であり元指導者という立場から、心操への振る舞いが支配的にならないよう気を付けていた。同じ夢を志した者、あるいはパートナーとして尊重したかった。
その反動だろうか。恋人同士の睦み合い、無防備に肌を重ね心を曝け出すさなか、心操が抵抗を見せると抑え付けたくなる衝動がある。俺のことが好きなんだろう、嫌がらないでくれ、お前が好きでどうしようもなくなってるのを、どうか受け止めてくれ。
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TRAINING「また毛繕いか」
「毛繕いなんですかこれ」
「ぽいけどな」
心操はそれ以上何も言わず、今や師と並ぶほど器用に捕縛布を扱う利き手を、相澤の癖毛を一房一房撫で付けるのに従事させた。
最近の心操は何くれと相澤を身綺麗にしようとしてくる。ろくに手櫛もされない長髪が乱れていれば恭しく整え、シャツの裾が臍回りで蟠っていればインナーから直そうとし、切りっぱなしの爪にやすりを掛けようと提案してくる事もあった。こんなおっさんを綺麗にしてどうする、と相澤が呆れたように言えば、綺麗にしたいのとは違う、ときっぱりとした答えが返ってきた。その度相澤は、何が違うのだろうと首を傾げた。
心操はおそらく、相澤を円くさせたいのだった。
苛烈な生き方をしてきた相澤は、身なりに気を遣わないのも相まって、他を寄せ付けない印象が強い。でも心操は、そうでない相澤を知っている。
477「毛繕いなんですかこれ」
「ぽいけどな」
心操はそれ以上何も言わず、今や師と並ぶほど器用に捕縛布を扱う利き手を、相澤の癖毛を一房一房撫で付けるのに従事させた。
最近の心操は何くれと相澤を身綺麗にしようとしてくる。ろくに手櫛もされない長髪が乱れていれば恭しく整え、シャツの裾が臍回りで蟠っていればインナーから直そうとし、切りっぱなしの爪にやすりを掛けようと提案してくる事もあった。こんなおっさんを綺麗にしてどうする、と相澤が呆れたように言えば、綺麗にしたいのとは違う、ときっぱりとした答えが返ってきた。その度相澤は、何が違うのだろうと首を傾げた。
心操はおそらく、相澤を円くさせたいのだった。
苛烈な生き方をしてきた相澤は、身なりに気を遣わないのも相まって、他を寄せ付けない印象が強い。でも心操は、そうでない相澤を知っている。
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TRAINING相澤は昔から知っていた。心操が反発を見せたり斜に構えた態度を取っても、最終的には相澤の言い分を受容する事を。澄ました態度で呆れたような目線を送ってきても、相澤を見放す事は決して無いのだと。心操が物言いたげに目を伏せて顕になる、瞼の膨らみが瑞々しく照り映える様の好もしさを、ずっとずっと知っていた。
相澤は心操を路地の壁に押し付けたまま、引き寄せられるまま彼の伏せた目許に唇を寄せた。
191相澤は心操を路地の壁に押し付けたまま、引き寄せられるまま彼の伏せた目許に唇を寄せた。
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TRAINING燐光が心操の骨張った頬、眼窩の窪み、秀でた額を舞うように照らし出していた。遠くに光る、工事現場の誘導灯か何かの灯りだ。ただの都市の日常のようなそれはしかし、心操の輪郭を朧に浮かび上がらせては消え、相澤の意識は独りでにそこへと囚われた。
相澤は自身を美的感覚や審美眼のようなものからは縁遠い人間だと考えていた。心操への愛を抱いたのも容色とは関係ないはずだった。しかし、共に暮らし、昼に夜に恋人を見詰め寄り添っていると、心操の瞼の膨らみ、頬に薄らに浮かぶ産毛、屈託なく笑った目尻に寄る皺の形が、奇跡のように胸に迫る事があった。
相澤は恋人が美しいと思った。それは彼だけが享受し、誰にも邪魔される事のない歓びだった。
305相澤は自身を美的感覚や審美眼のようなものからは縁遠い人間だと考えていた。心操への愛を抱いたのも容色とは関係ないはずだった。しかし、共に暮らし、昼に夜に恋人を見詰め寄り添っていると、心操の瞼の膨らみ、頬に薄らに浮かぶ産毛、屈託なく笑った目尻に寄る皺の形が、奇跡のように胸に迫る事があった。
相澤は恋人が美しいと思った。それは彼だけが享受し、誰にも邪魔される事のない歓びだった。
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MAIKING相澤の硬く肉厚な手のひらに、物欲しそうに心臓の上を圧し撫でられた時、もうどうにでもしてくれという気分になった。
たとえこの行為が今夜の一缶のビールで忘れられてしまうとしても、この人のまとう寂しさをひとときでもかき消すことが出来るのなら、身体でも心でも何でも差し出そうと思った。
138たとえこの行為が今夜の一缶のビールで忘れられてしまうとしても、この人のまとう寂しさをひとときでもかき消すことが出来るのなら、身体でも心でも何でも差し出そうと思った。
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MAIKINGかわいいな、と思ったらもう堪える気も無かった。キスしていいのだ。もう妨げるものは無い。心操をこの腕に囲って、体温を感じ、頬と頬をすり寄せ、菫色の綺麗な瞳をじっと覗き込んでいい。
心操の全部を愛でていいのだ。俺のことが好きだと言った、恋人になるというのだから、その柔らかい唇をじっくり食んで情欲を捧げても、誰も咎めるものはいない。
164心操の全部を愛でていいのだ。俺のことが好きだと言った、恋人になるというのだから、その柔らかい唇をじっくり食んで情欲を捧げても、誰も咎めるものはいない。
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MAIKINGつまり心操は、相澤の厭世的な風貌を裏切る逞しい体つきだとか、実績に裏打ちされた沈着で腰高な振る舞いだとかではなく、相澤の奥底にある情、ずたずたに傷付いてささくれて、もの狂おしく彷徨う心をこそ好いて、寄り添おうというらしい。
相澤は恐ろしくなった。湧き上がる歓喜に押し潰されそうになったために、恐ろしくなった。
154相澤は恐ろしくなった。湧き上がる歓喜に押し潰されそうになったために、恐ろしくなった。
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MAIKING心操が自分以外の人間に心を移すとなったら、どうなるだろう。
心操の気持ちを受け入れる以前に、何度も考えた事だ。よしんばそうなったとて、仕方ない。人間の気持ちに絶対なんて有り得ないのだ。真摯で情熱的な愛がその時その瞬間は、確かに偽り無かったとしても。まだ若く、過去の自分と同じように、これから出会いも別れも積み重ねていく心操の心が少しも変わらないなんて、誰も保証できない。その時が訪れた時に受け入れられるよう、そう予防線を張っていた。
でも同時に、心操が相澤をもう愛さないと言ったら、あれを殺してしまうかもしれないな、とも思う。馬鹿げた激情で、ひと時忍びさす悪魔のような考えだとしても、架空の相澤が心操の心臓を掴みしめる幻影が、脳裏に閃くのだ。
423心操の気持ちを受け入れる以前に、何度も考えた事だ。よしんばそうなったとて、仕方ない。人間の気持ちに絶対なんて有り得ないのだ。真摯で情熱的な愛がその時その瞬間は、確かに偽り無かったとしても。まだ若く、過去の自分と同じように、これから出会いも別れも積み重ねていく心操の心が少しも変わらないなんて、誰も保証できない。その時が訪れた時に受け入れられるよう、そう予防線を張っていた。
でも同時に、心操が相澤をもう愛さないと言ったら、あれを殺してしまうかもしれないな、とも思う。馬鹿げた激情で、ひと時忍びさす悪魔のような考えだとしても、架空の相澤が心操の心臓を掴みしめる幻影が、脳裏に閃くのだ。
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MAIKING指示通りに心操は、瞼を伏せて身体を横たえた。
濃い隈の上に、紫紺のまつ毛の束が重たそうに被さった。その光景を目撃した相澤は、自分のみならず、誰にもその光景を見せてはならない気がして、何に命じられた訳でもないのに周囲をぐるりと見渡し警戒した。
自分達以外には誰も訪れない森の奥だ。何を心配することもなかった。
この光景を相澤が独り占めしても、咎める者はいない。心操本人がそうしなければ。
192濃い隈の上に、紫紺のまつ毛の束が重たそうに被さった。その光景を目撃した相澤は、自分のみならず、誰にもその光景を見せてはならない気がして、何に命じられた訳でもないのに周囲をぐるりと見渡し警戒した。
自分達以外には誰も訪れない森の奥だ。何を心配することもなかった。
この光景を相澤が独り占めしても、咎める者はいない。心操本人がそうしなければ。
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MAIKING清潔感。そう、清潔感だ。
心操の表面的な印象といったらその一言が適当だろう。姿勢の良さ、整えられた頭髪、誠実そうな声音ともの柔らかな言葉選び、この歳の少年にしては品のある仕草、等々。性格も屈折したところはあれど、ストイックで真面目だ。
ただ心操の相貌を正面から見つめると、その印象を裏切るものがあった。眼下の濃い隈といやに赤く見える唇だ。
清潔な男の面差しにはっきりと刻印されたそれらは、不健康な色気を醸し出し、彼に興味を持った者の心をざわめかせた。
225心操の表面的な印象といったらその一言が適当だろう。姿勢の良さ、整えられた頭髪、誠実そうな声音ともの柔らかな言葉選び、この歳の少年にしては品のある仕草、等々。性格も屈折したところはあれど、ストイックで真面目だ。
ただ心操の相貌を正面から見つめると、その印象を裏切るものがあった。眼下の濃い隈といやに赤く見える唇だ。
清潔な男の面差しにはっきりと刻印されたそれらは、不健康な色気を醸し出し、彼に興味を持った者の心をざわめかせた。
ketsu_agooo
DONE相心イメージステッカーのご注文並びにBOOSTのお心遣いありがとうございました!!励みになります!!ささやか過ぎるお礼となりますが、
よろしければご覧ください。
※ちょっとだけ背後注意
※いずれ支部にまとめる予定です 2