summeralley
DONE明治大正日本風パロ飯P。最終飯Pですが、前半は空P表現あるし💅も出るし総受け感あるので無理な人は避けてね。
【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/06.もず 遠くで、甲高い声がした。鋭い金属音のような鳴き声……もずだ。
その名を思い出すまでに、ほんの少し時間がかかった。柿の葉はもうすっかり落ちて、細い枝先に、あの小さな猛禽がとまっているのが見えた。じっと身を膨らませ、風に背を向けている。
「冬は嫌いだなぁ」
背後から聞こえた悟空の声は、「嫌い」と言う割にどこか楽しげで、それでもほんの少し、息が上がっていた。
年末が近付いて、やることはいくらでもあった。流されるようにこの街、この家に腰を落ち着けて、二年になるだろうか。一年も前に書生として家を出て行った悟飯も、今朝は戻ってきている。
古いこの家は、悟空と二人で暮らすには、全く使うことのない場所も多くあった。それでも、年を越すのに何もかもそのままというわけにはいかない。旅暮らしが長く、あまり実感がなかったが……正月とは、そういうものらしい。
2657その名を思い出すまでに、ほんの少し時間がかかった。柿の葉はもうすっかり落ちて、細い枝先に、あの小さな猛禽がとまっているのが見えた。じっと身を膨らませ、風に背を向けている。
「冬は嫌いだなぁ」
背後から聞こえた悟空の声は、「嫌い」と言う割にどこか楽しげで、それでもほんの少し、息が上がっていた。
年末が近付いて、やることはいくらでもあった。流されるようにこの街、この家に腰を落ち着けて、二年になるだろうか。一年も前に書生として家を出て行った悟飯も、今朝は戻ってきている。
古いこの家は、悟空と二人で暮らすには、全く使うことのない場所も多くあった。それでも、年を越すのに何もかもそのままというわけにはいかない。旅暮らしが長く、あまり実感がなかったが……正月とは、そういうものらしい。
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【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/05.めじろ 書生として家を出てからも、縁側に腰掛けるピッコロさんの姿を思い出さない日はなかった。冬枯れた庭を静かに見つめ、ひたきの声に耳を傾けていた横顔。真っ直ぐに伸びた背中と、抜いた衿から無防備に晒されるうなじ。
家を出た時は、まだ初秋だった。既に真冬となり、空は晴れていてもどこか重い。こんなに長いこと実家を離れたのは、初めてだ。
開け放たれた縁側には湯呑みの乗った盆があり、二つの座布団がぴったりと寄り添っている。冬の陽射しは弱々しかったが、それでも縁側にはあたたかさが蹲っているようだった。
大通りで買った大袋の蜜柑を抱え直して、僕は玄関扉を開いた。ピッコロさんが奥から早足に出てきて、僕を迎えてくれる。久し振りに見るピッコロさんの微笑に、やはり気分が高揚してしまうのを感じた。墨色の袖から、若葉と紅の対照が美しい手首が覗いている。
3457家を出た時は、まだ初秋だった。既に真冬となり、空は晴れていてもどこか重い。こんなに長いこと実家を離れたのは、初めてだ。
開け放たれた縁側には湯呑みの乗った盆があり、二つの座布団がぴったりと寄り添っている。冬の陽射しは弱々しかったが、それでも縁側にはあたたかさが蹲っているようだった。
大通りで買った大袋の蜜柑を抱え直して、僕は玄関扉を開いた。ピッコロさんが奥から早足に出てきて、僕を迎えてくれる。久し振りに見るピッコロさんの微笑に、やはり気分が高揚してしまうのを感じた。墨色の袖から、若葉と紅の対照が美しい手首が覗いている。
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【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/04.雨乞鳥 秋のその日、町娘から無法者たちを引き剥がしたのは、ほんの偶然だった。すぐに立ち去ろうとしたのに、思いがけぬところから腕を掴まれ心底驚いた。腕が伸びてくるのに気付かず、躱すことが出来ないなど、これまで一度もなかったのだから。
「強いなァ、ずいぶん修業したろ? すげぇ奴だ、手合わせしてみてぇ! その格好、旅してんのか? 名前は? どこに泊まってる?」
男は奇妙なほど明るく、燥いだ様子で捲し立て、おれはつい怯んだ。
「ピッコロ……宿は、満室で断られてまだ……」
「なぁんだ、じゃあうち来るといい! 息子とも手合わせしてやってくれよ」
男は腕を掴んだまま、返事も聞かず歩き出す。この町へ入るまで野宿が続いていたから、泊まるところが見つかるのはありがたかったが、その強引な態度は気に入らなかった。
3290「強いなァ、ずいぶん修業したろ? すげぇ奴だ、手合わせしてみてぇ! その格好、旅してんのか? 名前は? どこに泊まってる?」
男は奇妙なほど明るく、燥いだ様子で捲し立て、おれはつい怯んだ。
「ピッコロ……宿は、満室で断られてまだ……」
「なぁんだ、じゃあうち来るといい! 息子とも手合わせしてやってくれよ」
男は腕を掴んだまま、返事も聞かず歩き出す。この町へ入るまで野宿が続いていたから、泊まるところが見つかるのはありがたかったが、その強引な態度は気に入らなかった。
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【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/03ひたき 「あいつ、ずっとここにいればいいよな……」
畑仕事の最中、唐突にお父さんが言った。春が目前に迫り、踏みしめる土もずいぶん湿ってやわらかい。野菜の植え付けはほとんど終わりかけて、あとは片手に持った分だけだ。
「そうですね。ずっと旅してるのも、大変だろうし。故郷の人は、見つかってほしいけど……」
お父さんがピッコロさんを連れてきた秋の日から、もう四ヶ月以上経つ。ピッコロさんは何度も出発しようとしたが、そのたび僕は、冬の旅はよくないから春まで待つよう懇々と説得したり、旅先の話をもっと聞きたいと引き留めたりした。お父さんはもっと強引で、荷物や履き物を隠して空惚けたり、単純に腕にしがみついて出発させないようにしていた。
3135畑仕事の最中、唐突にお父さんが言った。春が目前に迫り、踏みしめる土もずいぶん湿ってやわらかい。野菜の植え付けはほとんど終わりかけて、あとは片手に持った分だけだ。
「そうですね。ずっと旅してるのも、大変だろうし。故郷の人は、見つかってほしいけど……」
お父さんがピッコロさんを連れてきた秋の日から、もう四ヶ月以上経つ。ピッコロさんは何度も出発しようとしたが、そのたび僕は、冬の旅はよくないから春まで待つよう懇々と説得したり、旅先の話をもっと聞きたいと引き留めたりした。お父さんはもっと強引で、荷物や履き物を隠して空惚けたり、単純に腕にしがみついて出発させないようにしていた。
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DONE明治大正日本風パロ飯P。最終飯Pですが、前半は空P表現あるし💅も出るし総受け感あるので無理な人は避けてね。
章番02ですが、01はプロローグというか、15年前にワンシーンだけ書きたくて書いた話、その前後を捏造したのが02以降になります。01読まなくても問題ないです。
【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/02.せきれい お父さんは、自由な人だった。
ふらりと旅に出たかと思えば、手紙のひとつも寄越さず、突然に帰ってくる。一ヶ月戻らない時もあれば、ほんの三日で引き返して来ることもある。身勝手にも思えるが、必ず僕に、旅先で見つけた興味深いものや美しいもの、何もなければ思い出話を持ち帰ってくれたので、寂しさや悲しさを感じることはなかった。
秋の夕まぐれ、お父さんが持ち帰ったものは、これまで見たどんなものより興味深く、そして美しかった。
新芽色の膚と、一目でここいらの出身ではないと分かる面立ち。着物の奥に存在を知らせる手足は長く、全体的にしなやかな印象で、長躯でも威圧感はない。旅姿の割に極端に荷物が少なく、手にしたまっすぐな杖ばかりが無闇と象徴的だった。
3569ふらりと旅に出たかと思えば、手紙のひとつも寄越さず、突然に帰ってくる。一ヶ月戻らない時もあれば、ほんの三日で引き返して来ることもある。身勝手にも思えるが、必ず僕に、旅先で見つけた興味深いものや美しいもの、何もなければ思い出話を持ち帰ってくれたので、寂しさや悲しさを感じることはなかった。
秋の夕まぐれ、お父さんが持ち帰ったものは、これまで見たどんなものより興味深く、そして美しかった。
新芽色の膚と、一目でここいらの出身ではないと分かる面立ち。着物の奥に存在を知らせる手足は長く、全体的にしなやかな印象で、長躯でも威圧感はない。旅姿の割に極端に荷物が少なく、手にしたまっすぐな杖ばかりが無闇と象徴的だった。
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DONE明治大正日本風パロ飯P。最終飯Pですが、前半は空P表現あるし💅も出るし総受け感あるので無理な人は避けてね。
【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/01.うぐいす(序) 陽の光がうらうらと枯木立を濡らす小春日和、市のはずれの平屋の縁に、一心に針を動かす姿がある。姿――ピッコロと言うその異国人――は、桔梗色の紬を袷に仕立てている最中であった。もう半分も縫っただろうか、長い指を動かして端を美しく処理すると、大きな黒いはさみで余った糸を切り落とした。広げてみれば、ひとまず問題のない出来である。
少しばかりの疲れを感じ、縫いかけた着物を軽く畳んで傍らに置く。目を上げて庭を見渡すと、藪椿がささやかなつぼみをつけていた。広くこそないが、よくよく整った庭である。
真竹の四ツ目垣がぐるりを囲み、その内側に、さざんかの生垣が目隠しのように葉を繁らせている。二重に守られた庭にはさまざまの植物が整然と配置され、四季を通してかれの目を楽しませていた。
2794少しばかりの疲れを感じ、縫いかけた着物を軽く畳んで傍らに置く。目を上げて庭を見渡すと、藪椿がささやかなつぼみをつけていた。広くこそないが、よくよく整った庭である。
真竹の四ツ目垣がぐるりを囲み、その内側に、さざんかの生垣が目隠しのように葉を繁らせている。二重に守られた庭にはさまざまの植物が整然と配置され、四季を通してかれの目を楽しませていた。