むんさんは腐っている早すぎたんだ
DONE七風リレー小説企画 第一弾ラストになります。お付き合いいただいた皆様ありがとうございました!!
(なおラストはどうしても1000文字で納められなかったので主催の大槻さんにご了承いただいて文字数自由にしてもらいました💦今後もラストパートはそうなると思います)
七風リレー小説⑥ 一度だけ響いた鐘の音に惹かれて風真は歩を進めていく。理事長の方針なのかは知らないが目的地までの道は舗装されておらず、人工的な光もない。すでに陽は沈みきってしまっているため、風真は目を慣らしつつ〈湿原の沼地〉を進んでいく。草木の茂る中ようやく着いた開けた場所にぽつんとあるそこは、予想はついていたが建物に明かりなどついておらず、宵闇にそびえる教会はいっそ畏怖さえ感じる。……大丈夫。俺は今無敵だから。そう心で唱えた後、風真は教会の扉に歩みながら辺りを見回して声を上げた。
「七ツ森。いるのか?」
――返事はない。
シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
2524「七ツ森。いるのか?」
――返事はない。
シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
shinobab
DONE七風リレー小説③ 七ツ森は職員室に向かう風真の背を見守る。当然だが影しかない廊下を歩いても風真の足が溶岩に沈む事もワニに食われる事も無い。職員室のドアを開け「失礼します」と声を掛けて中に入っていく風真を見届けた後、窓枠に腰かけるように寄りかかった。七ツ森は職員室に用はないので廊下でお留守番だ。
何気なく窓の外を見た時、さぁ…っと心地よい風が廊下に舞い込んできた。仄かに潮の匂いを乗せたソレは、風だけではなく光まで招き入れたようだった。今の時間は薄暗いだけの廊下に光を差し込ませ、窓枠の影を映し出し光と影の梯子が出来た。まるで先程まで風真と遊んだあの廊下のように。時間的にあり得ないはずなのに…と呆然と眺めていると、七ツ森の足元を誰かが通り過ぎた。そして振り向き七ツ森を見て。
984何気なく窓の外を見た時、さぁ…っと心地よい風が廊下に舞い込んできた。仄かに潮の匂いを乗せたソレは、風だけではなく光まで招き入れたようだった。今の時間は薄暗いだけの廊下に光を差し込ませ、窓枠の影を映し出し光と影の梯子が出来た。まるで先程まで風真と遊んだあの廊下のように。時間的にあり得ないはずなのに…と呆然と眺めていると、七ツ森の足元を誰かが通り過ぎた。そして振り向き七ツ森を見て。
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DONE七風リレー小説② 影の落ちる廊下。直線的に伸びる白と黒のコントラスト。
その光景に風真もまた、幼い頃の記憶を蘇らせた。学校の帰り道、横断歩道の白い所だけを渡るという、ひどく単純な遊びだ。黒い所にはワニがいて食べられてしまう、などと、子供は空想とはいえ物騒な事を言う。『だめだよ、落ちちゃうよ』と思い出の中の幼い彼女が笑った。それは彼にとって懐かしく美しく、そして少しの切なさを携えた、記憶の欠片だった。
「どこ行きますかね。アルカードに季節限定のスイーツ出てる筈だし、ショッピングモールに新作チェックに行ってもいいし」
カザマはどこか行きたい所ある?と尋ねる声に応えが無く、七ツ森はもう一度、彼の名前を呼んだ。
「カザマ?」
1068その光景に風真もまた、幼い頃の記憶を蘇らせた。学校の帰り道、横断歩道の白い所だけを渡るという、ひどく単純な遊びだ。黒い所にはワニがいて食べられてしまう、などと、子供は空想とはいえ物騒な事を言う。『だめだよ、落ちちゃうよ』と思い出の中の幼い彼女が笑った。それは彼にとって懐かしく美しく、そして少しの切なさを携えた、記憶の欠片だった。
「どこ行きますかね。アルカードに季節限定のスイーツ出てる筈だし、ショッピングモールに新作チェックに行ってもいいし」
カザマはどこか行きたい所ある?と尋ねる声に応えが無く、七ツ森はもう一度、彼の名前を呼んだ。
「カザマ?」
whataboutyall
DONE七風リレー小説① 放課後の茜色の教室は七ツ森と風真の二人きりだった。窓際の席で、今日の当番日誌を書く風真に向かい合って、七ツ森は座り、風真の手元を見ている。粒の揃った文字が、空白を埋めていく様子は見ていて面白い。自分が夢中になっているゲームよりも、こちらを見ていたいとも思う。七ツ森の視線を感じ、風真は日誌に落としていた視線を七ツ森に向けて問う。
「……ん? 何見てるんだよ」
「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
「誰もいないんだからいいでしょ」
そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。
913「……ん? 何見てるんだよ」
「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
「誰もいないんだからいいでしょ」
そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。