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    shinobab

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    七風リレー小説③

    #七風リレー小説
    sevenWindRelayNovels

     七ツ森は職員室に向かう風真の背を見守る。当然だが影しかない廊下を歩いても風真の足が溶岩に沈む事もワニに食われる事も無い。職員室のドアを開け「失礼します」と声を掛けて中に入っていく風真を見届けた後、窓枠に腰かけるように寄りかかった。七ツ森は職員室に用はないので廊下でお留守番だ。
     何気なく窓の外を見た時、さぁ…っと心地よい風が廊下に舞い込んできた。仄かに潮の匂いを乗せたソレは、風だけではなく光まで招き入れたようだった。今の時間は薄暗いだけの廊下に光を差し込ませ、窓枠の影を映し出し光と影の梯子が出来た。まるで先程まで風真と遊んだあの廊下のように。時間的にあり得ないはずなのに…と呆然と眺めていると、七ツ森の足元を誰かが通り過ぎた。そして振り向き七ツ森を見て。

    『落ちるとワニに食べられるんだよ』

     と言った。小学一年生位の子だろうか。子供だけれども十分整った顔立ちをしていて瞳は赤い。柔らかそうな黒髪はてっぺんの毛がぴょんと跳ねていて、愛しの相手を思い出させる。その子は影を踏まぬようぴょんぴょんと跳ねながら奥へと進み、早く来てと急かすように七ツ森を見て手招きしている。少年が進む先は真っ暗で何も見えない。

    『…来てくれないの?』

     一向に動かない七ツ森を見て、少年は足を止め、寂しそうに俯いた。可哀想に見えるけれども、安易に近づいていいものなのか、悩む。

    『おれ…もう、あの子とは…いっしょには歩けないんだ』

     自分の手を見ながら、寂しそうな声でそう語る少年。風真に似た子が『あの子』と語る相手、…思い当る子はいる。幼少期、ずっと風真と一緒に居たという女の子。あの子は今はもう風真の傍にはいない。だから、この子供の風真も、一人で居るのだろうか。

    『ひとりは…さびしい』
    「え?」
    『いっしょに…いてよ』

     差し出された少年の手は、教室で見ていたあの美しい文字を書き出す風真の手よりもずっと小さいのに、何故かこの手が風真の手に見えて、掴んであげなければいけない気がして、七ツ森はゆっくりと少年に向かって歩き出した。小指がピクっと後ろに引っ張られた気がしたけれども、足が止まる事は無かった。



    「失礼しました」
     無事に当番日誌を提出し職員室を出た風真は、廊下を見渡して首を傾げた。
    「…七ツ森?」
     光の差さない薄暗い廊下には、誰も居なかった。
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    whataboutyall

    DONE七風リレー小説①
     放課後の茜色の教室は七ツ森と風真の二人きりだった。窓際の席で、今日の当番日誌を書く風真に向かい合って、七ツ森は座り、風真の手元を見ている。粒の揃った文字が、空白を埋めていく様子は見ていて面白い。自分が夢中になっているゲームよりも、こちらを見ていたいとも思う。七ツ森の視線を感じ、風真は日誌に落としていた視線を七ツ森に向けて問う。
    「……ん? 何見てるんだよ」
    「……べつにー。カザマのことしか見てませんが?」
    「なっ……、お前学校でそういうこと言うなよ」
    「誰もいないんだからいいでしょ」
     そう言いながら、七ツ森は窓枠に頬杖をついて、窓の外を眺めている。その横顔から耳に掛けて赤いのは、斜めに傾く太陽の光の色が映っているからなのだろうか。どこかの腕の良い彫刻家が丹精込めて丁寧に削り上げたような整った七ツ森の横顔と、その彼の頬にあてた手を見て、七ツ森の手が好きだな、と風真は思った。骨の形が浮き出た肉の薄い長い指に、ラグビーボールのような楕円形の整えられた爪、手首の内側に浮き出る数色の血管も、いい。身体の大きさに見合う大きな手のひらを自分に向けて差し出し、耳元で「手、つなぐか」と言われたとき、身体の中を正しく循環していたはずの血液が逆回転したのかと思うぐらい、心臓が不穏な動きをしたのを思い出す。
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    むんさんは腐っている早すぎたんだ

    DONE七風リレー小説企画 第一弾ラストになります。
    お付き合いいただいた皆様ありがとうございました!!

    (なおラストはどうしても1000文字で納められなかったので主催の大槻さんにご了承いただいて文字数自由にしてもらいました💦今後もラストパートはそうなると思います)
    七風リレー小説⑥ 一度だけ響いた鐘の音に惹かれて風真は歩を進めていく。理事長の方針なのかは知らないが目的地までの道は舗装されておらず、人工的な光もない。すでに陽は沈みきってしまっているため、風真は目を慣らしつつ〈湿原の沼地〉を進んでいく。草木の茂る中ようやく着いた開けた場所にぽつんとあるそこは、予想はついていたが建物に明かりなどついておらず、宵闇にそびえる教会はいっそ畏怖さえ感じる。……大丈夫。俺は今無敵だから。そう心で唱えた後、風真は教会の扉に歩みながら辺りを見回して声を上げた。
     
    「七ツ森。いるのか?」
     
     ――返事はない。
     シン、とした静寂のみが風真を包み、パスケースを握った右手を胸に当てて風真は深くため息をついた。あれだけ響いた鐘の音も、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。そもそもこんな闇の中、虫嫌いの七ツ森が草木を分けてこんな場所にくるはずもなかった。考えてみたらわかることなのに、やはり少し冷静さを欠いていたようだ。風真はそっと目の前の扉を引いてみる。……扉は動かない。
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