智葵♀あ!智将なにそれズルイ!!
不意にリビングに響いた声に、ドキッと数センチソファから浮かぶ。手にしたスマホだけは落とさないように、しっかり握りしめたまま。
彼は風呂上がりで、俺は風呂待ちをしていて、テーブルの上のイチゴは母さんの日帰りバスツアーのお土産で、主人は早々に自分の取り分を食べ終わっている。
何か、ずるいと非難されるようなことはあるだろうか。
そりゃあ、この液晶画面の向こうには『智将次の休みどっか行かねえ?』なんて浮かれるようなメッセージがきているけれど、まさかそこまでは見えていないだろうし。
「なんだ、これは余ってるわけじゃないぞ」
適当にあたりをつけて真っ赤なイチゴをかばうと、「違うってえ、俺これ知らない!」、ぐいっと両手ごとスマホを引き寄せられる。
印籠でも突きつけられているのかというくらい目前に迫ってきたのはその背面。俺と金髪の彼女とが写った写真が挟み込まれている。まあ、いわゆるプリクラだ。
「この前撮ったんだよ。藤堂が、ホワイトデーこれがいいって言うから」
別に隠していたわけじゃない。むしろ同じ家に住んでいて今気がついたのかと驚くくらい、そんじょそこらに放置していた。
ずるーい、どこの機種?俺も葵っちと撮りたーい、ぶうぶう唇を曲げながら、視線で穴でも空けようかというほどプリクラを見つめる主人が、突然弾けたように顔を上げた。
「えっホワイトデーって、まさか智将、葵ちゃんにプリしかあげてないとか言わないよね!?」
「そんなわけないだろ、どんだけ信用ないんだ主人の中で」
ていうかそろそろスマホを返せ。ハワワと口もとをおさえる双子の兄弟からむりくり端末を奪い取ると、無事を確認するように背面のプリクラに目を落とした。
いっしょに撮ろうぜと言い出したわりには藤堂もあんまり慣れていなくって、写真のふたりの視線はなんだか微妙にそろっていない。
『智将、マジかわいいじゃん』それでも彼女が隠す気もないほどはしゃぐから、『そうか?藤堂もなかなかだろ』乗せられていっしょに浮ついてしまった。
無意識の回想に思わずゆるみかけるほっぺたを、きゅ、きゅっと引き締める。どんなにがんばって取り繕っても、ひとり変顔は目の前の主人にばっちり目撃されているけれど。
「なんか智将、付き合ってるみたいじゃん」
ふふふ、とテーブルのイチゴをつまみながら、何故か主人のほうがうれしそうに笑う。
「“みたい“じゃなくて付き合ってるからな」
ふふん、と含み笑いで応じながら、パシリとその手の甲を引っ叩いてやった。
どさくさに紛れて人のイチゴを奪うんじゃないぞ、こら。