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    kutu_nuge

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    kutu_nuge

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    毎月09日はオグの日で、オルグエの日!
    9月9日は、オグの月オグの日で救急(99)の日なので、看病するお話です。

    #オルグエ
    #空に光るはすべて星
    #毎月09日はオグの日

    9月9日
    軌道エレベーターへの行き方を聞いた後は何も覚えていない。気が付いたら俺は、ぼろぼろのマットレスの上に寝かされていた。
    目を開けると大穴があいた天井が見えた。縁からたまにパラパラと何かが落ちてくる。
    顔を巡らせると、壊れた壁の向こうに、夕闇に沈もうとする森が遠く見えた。

    「起きたか?」
    声が聞こえた方を見ると、男がひとり立っていた。
    その大柄な男には見覚えがある。俺を拘束していたテロリストだと気付き、俺は慌てて起き上がって逃げようとして、ぐるりと世界が回転した。息が出来なくなって呻く。
    何だこれは?頭を万力で絞られるような痛みがして、咽喉の奥が焼けるようだ。
    俺はどうにかして身体を起そうとしたが、眩暈が酷くて頭が持ち上がらない。

    「無理して起き上がるな。お前は発熱して倒れた」
    男は、拍子抜けするくらい落ち着いた声で、ゆっくりと話し掛けてきた。

    「解熱剤を探してきた。飲め」
    水が入ったパウチと錠剤を渡され、俺は薬と男の顔を交互に見る。
    「…毒じゃない、と言っても信用出来ないか」
    「いや…その…」
    「俺は、シーシアを助けようとしたお前を殺す気は無い、と言えば安心するか?」
    「あ」

    何かを払い除けるように、無意識に持ち上げた俺の両手は汚れていた。

    それを見た途端、俺は俺の罪をすべて思い出した。

    爪の奥まで入り込んだ、地球の真っ黒な土。土いじり、地球の真似事、何が楽しいんだと壊したミオリネの温室。スレッタ・マーキュリーに負けて、手伝えなくて、キャンプで聞いた、電話越しの、父さんの冷たい声。飛び出して、逃げて、逃げて、逃げて。逃げた先で、進もうとして、死にたくない、手ごたえ、やった、あの、優しい、父さんの、声。耳から離れない、血まみれ、あの、俺の腕の中で、少しずつ体温を失っていった、ちいさな少女、とうさん、ごめん、たすけて、とうさ

    「おい」

    ぐらりと視界が歪む。
    俺は、そのまま意識を失った。


    過労で倒れた御曹司を、俺はなぜ見捨てられないのか?
    これはもう、ナジの言う(律儀)の範疇も超えてるだろう。

    俺は、駐留部隊捜索後の地域を無線傍受で割り出して、打ち捨てられていた廃車で移動し御曹司を寝かせ、積み残しの備蓄を漁って必要な物をかき集めた。俺たちが全滅させた小隊の定期連絡を偽造して当座はしのいでいるが、追々セキュリティ・フォースは勘付いて第二陣が来るだろう。あまり時間は無い。
    御曹司を捨てて逃げるのが最善だとわかっているのに、俺はなぜそうしない。

    医務室だった教室をひっくり返して、引き出しの奥から見覚えのある子ども用の熱さましを一錠だけ見つけた。何故それが熱さましだとわかったんだ俺は? 
    …よく熱を出すあの子のために常備してい…いや。


    ☆☆
    悪寒でがたがた震えながら目を覚ますと、周囲はすっかり闇に覆われていた。
    灯りを絞った充電型ランタンに薄く照らされたシルエットで、さっきの男が側に居るのがわかった。

    起き上がろうとして、俺の頭に置かれた濡れタオルがべちょりと床に落ちた。男はそれを無言で拾うと、横に置かれたバケツの水にひたして絞り、ふたたび俺の額にのせた。いつの間にか毛布も掛けられていた。

    「何か食べられるか?」
    と聞かれて俺は、不思議とこの男から逃げる気が無くなっているのに気が付いた。

    酷く喉が痛い。上手く返事ができない。食欲も無かった。
    ただ首をふる俺を見て、男は「待ってろ」と言い残して消えた。

    しばらくうとうとしていた俺を静かに揺り起こして、戻ってきた男は、「口をあけろ」と言った。

    ★★
    御曹司の熱は下がらない。酷く汗をかいて苦しそうだ。薬は、飲ませる前にまた意識を失ってしまった。
    せめて少しでも身体を冷やして、水分を取らせることが出来れば…。あ、

    大きすぎて移動をあきらめた業務用冷凍庫の片隅に、以前ナジからもらった西瓜がひと切れ残っていた。電源が切れて半ば解凍されてはいたが、まだひんやりと冷たい。
    この西瓜をみんなで食べた時は、ベッシも、ソフィも、シーシアも……。くそっ。

    ☆☆☆
    かさつく唇の隙間に何か冷たい塊がねじ込まれた。氷?シャーベット?
    それは、熱で火照った舌と上顎の間でしゃりっと潰れ、たっぷりの甘い液体があふれ出た。
    腫れた喉の上を気持ちよく滑り、とろとろと潤していく。

    俺は夢中になって、男から差し出される塊を次から次へと咀嚼していった。

    ★★★
    熱で朦朧としている御曹司の口に、ひと口大に切った西瓜を押し込むと、なんとか飲み込んでくれた。
    心なしか顔色が良くなった気がして安心する。
    ……安心? …何故、俺が?

    おい、それは俺の指だ。おしゃぶりじゃないんだからいい加減離してくれ。

    ☆☆☆☆
    「もう無い。これで終わりだ」と言われ、ひと息つくと、男は先ほどの水と薬を渡してきた。
    「飲め。お前の熱が下がらなくては、軌道エレベーターへ向かうことも出来ない」

    薬を飲んで、マットレスに沈み込む俺の額にまた濡れタオルを男はのせ、そのままごしごしと顔を拭われる。痛いけど、さっぱりして気持ちいいな、と思う。

    あんたの、なまえは?

    俺は、遠くなる意識の片隅で、
    「オルコットだ」
    と、男が名乗る言葉を聞いた。




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