強くなりたい理由桜さんはオレが進むべき道を上から優しく照らしてくれる星のような人だと、思った。
入学初日、女性を助けようとして、失敗したあの日……オレを助けに入ってくれた桜さんに「情けなくはないんじゃねぇか?」と言われたのが嬉しかった。
ケンカが弱いくせに格上の相手に挑んだオレを叱咤することはできたはずなのに、挑んだその心意気をかってくれたのだ。
だからこそ、オレは桜さんを尊敬し、てっぺんへ連れていきたいと強く思えた。
だからオレは風鈴の生徒やこの辺りで強い人間の事をなるべく頭に入れ桜さんの助けになろうとした。
そんなオレが自分も強くなりたいと感じたのはあのKEELとの戦いの時だ……あの時のオレは、戦うことができず他のクラスメイトに守られるだけの足手まといになってしまった。
だから……オレは、蘇枋さんの弟子になった……何故桜さんや他の人ではなく蘇枋さんに教えを請うたのはオレはまず自分を護る術を身に付けるべきだと考えたからだった。
「おい、楡井」
蘇枋さんと秘密の特訓を始めてから数日後、桜さんがなにやらしかめっ面をしながらオレの名前を呼んだ。
「なんですか、桜さん?」
「お前、KEELと戦った後くらいから傷が増えてねぇか?」
「えっ……そ、そんなことないですよ!」
まだ桜さんには蘇枋さんとの特訓のことをまだバラしたくなかったオレはそう誤魔化したが桜さんは少し訝しげな表情でオレの目を見つめている……ひょっとしたら何かを隠していることはバレてしまったのかもしれない。
「……そ、そうかよ。でも、何か悩みがあるならオレに言えよな……。お前が傷付くのもう見たくねぇし……」
最後の方はボソボソっとした小声で聞き取れなかったけれど、桜さんがオレのことを心配してくれていることは分かる。
「はい、ありがとうございます。桜さん」
そう返すと、桜さんの顔が赤くなり「……べ、別に……きゅ、級長としてお前のことが心配だっただけだからな!」なんて明らかな照れ隠しでそう言うものだからオレはつい吹き出してしまった。
「おまっ、何笑ってんだよ!!」
そう言って、桜さんは真っ赤な顔のままオレのほっぺたを抓る。
「いたいれすよぉ、しゃくらしゃん!」
するとこのやり取りをみていたクラスメイトの誰かの「全く、お前等なにやってんだよ」という笑い声が聞こえてきた。
賑やかで楽しい日常。
オレは、こんな日常を自分の力で護りたいから強くなりたいんだ。
それに……今はまだ自分の身を護る事くらいしか出来ないけれど、何時かは級長である桜さんが安心して背中を預けられるような、憧れの人に頼れるような立派な副級長になりたい。
オレ……これからも、頑張りますから……オレのことを置いていかないで下さいね、皆さん。