恋の自覚は突然に「最近、楡井が俺以外の誰かが話しているのを見ると胸が苦しくなる時があんだよ……オレはなんかの病気なのか?」
相談があるといい桐生を呼び出した桜は、真剣な面持ちで質問を問いかける。
その言葉を聞いた桐生は、目を大きく見開いた。
「えと、桜ちゃん……それって嫉妬、なんじゃないかな……?」
「しっと……って、なんだ?」
聞き覚えのない言葉に、桜は桐生の言葉をそっくりそのまま聞き返した。
桜が高校に来るまでの成り立ちのせいで世間知らずなところがあるのはわかっていたが、「桜ちゃんは“嫉妬”という言葉の意味を知らないのかぁ……」と桐生は頭を悩ませていた。
「んー……簡単に言えば“桜ちゃんはにれちゃんのことが恋愛的な意味で好きで、にれちゃんと2人きりでいる人のことを心のどこかで羨ましいと感じている”ってこと、だよ 」
「……はぁ!?」
桐生の発言に、桜の恋愛センサーが過剰に反応し頬どころか耳までも赤みがさす。
「何言ってんだよ桐生!? お、オレが楡井のことをすすすす好き……だなんてッ!」
桜は素っ頓狂な声を上げながら大袈裟に驚く。
桜は自分が楡井のことを好いているだなんて、そんなことを考えたことも無かったからだ。
「えっ……だって……桜ちゃんってば、KEELとのことがあった後くらいから妙ににれちゃんのことを目で追ってるし、にれちゃんと2人きりで話してる時なんて凄く嬉しそうな顔してるし……もしかして、あれって無意識だったの?」
「ぇ……あ……ぅ……」
桐生の言葉に恋愛方面にすごぶる疎い桜のキャパシティをオーバーしてしまったのか、そう声にならない声を発しながら顔を真っ赤にしたまま思考が停止し、そのまま動かなくなってしまったのだ。
「ちょ……さ……桜ちゃん!? 桜ちゃん!!?」
突然の出来事に桐生は慌てるが、肝心の桜はまだ復活する気配がなかった。
この後、意識を取り戻した桜は自分の楡井への恋心を自覚するのだが……これから一悶着があることを今はまだ、誰も知らなかった。