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    jbhw_p

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    2025.6.15ジュン茨オンリーの無配です。
    天気頭痛に悩む🐍と晴れにしたい🌊くんの話。

    #ジュン茨
    junThorn

    Let thre be good weather tomorrow パソコンから発せられる光がいつもより眩しく感じる。かすみ始めた視界を何とかしようと眼鏡を外して片手で目元を擦れば、同時に感じる頭を締め付けるような痛みで眉間にしわを寄せた。
     さすがに集中しすぎたかとスマートフォンの時刻を確認する。作業を始めてから二時間程度が経過していた。そうしている間にも頭痛は酷さを増していく。茨は眼鏡を机に置いたまま深く息を吐き、背もたれに身を預けて天井を仰ぐと、瞼を降ろした。眼精疲労からくる頭痛であれば目を休ませることで回復するだろう。しかし、目を瞑って暫くしても頭痛は治まるどころか、鈍痛のようなそれは激しさを増すばかりだった。あきらかに眼精疲労ではない。
     今日はコーヒーも一杯しか飲んでいないので、カフェインの摂り過ぎということでもないはずだ。であれば、残る原因は一つ。
    「……やっぱり」
     デスクを離れて窓辺に立つ。厚い雲に覆われた空を睨みつけていると、暫くしてガラスを打ち付ける滴。それは少しずつ量を増していき、雨粒が窓に打ち付ける音は静かな室内に響いた。雨が降る前に星奏館へ戻ろうと思っていたのに、この時期の天気予報はあてにならない。予報よりもだいぶ早く雨が降り始めた。自分がここに来る前はまだ青空も見えていたはずだが、溜まっていた書類仕事を片付けているうちに天気が一変したようだった。
    「今日は降らないと言っていたのに……しかし、こういう日に限って傘を忘れるとは」
     帰りはタクシーを拾って帰れば良い話ではあるが、到着を待つ時間と歩いて星奏館まで帰る時間がほぼ同じになってしまう。ここまできたら雨が止むまで溜まった仕事を片付けてしまいたかったが、しかし、いまはその気力も起きないほど、とにかく頭が痛い。しまいには吐き気までしてきた。視界がぐらつき、一瞬だけ足元が覚束なくなって窓に手をつく。これは本格的に休息を確保したほうがよさそうだ。
     常備薬をミネラルウォーターと一緒に喉へ流し込めば、窓から離れ、副所長室で唯一置かれている長椅子にどさりと倒れこむ。事務所は就業時間を迎え、とっくに自分一人になっていた。こんな醜態を誰かに見られることもない。仰向けになって再び目を閉じると、身体を起こしているよりかは痛みもだいぶ楽になる気がする。そういえばここ数日まともに睡眠がとれていなかった。暫く目を閉じていると自然と眠気が訪れ、抗う暇もないままゆっくりと意識が沈み込んでいった。

    「……ら、……ばら、茨、」
    「ん……。うるさ……、っ⁈」
    「うおっ、びっくりした!急に起きないでくださいよぉ~?」
     繰り返し名前を呼ばれながら、しまいには肩を掴んで身体を揺すられ、せっかく心地の良い眠りに落ちていたところを強制的に現実へ意識を引き戻された。あまりにもしつこいので思わず粗雑な態度をとってしまった直後、はっとして勢いよく身を起こす。自分を起こした人物は咄嗟の反射神経でそれを避けた。件の人物は焦った様子で胸元を抑えている。茨はテーブルへ無造作に置いていた眼鏡を手に取ると、それが見知った顔であることに一旦は安堵のため息を零した。
    「なんだ、ジュンですか」
    「なんだってなんですか、失礼な。いっくら電話しても出ないから、なにかあったんじゃねえかと思って心配して様子を見に来てやったってのにさぁ?」
     見上げた先でジュンが呆れた様子で眉間に皺を寄せていた。というか、なんでここにいるんだコイツ。今日はEveでの仕事を終えて、そのまま寮へ直帰する予定だったはずだ。俺はスマートフォンを手にして画面を点灯した。そこに表示される『18:00』の文字に驚愕する。
    「じゅ、っじゅうはちじ……⁉」
     確か最後に時間を確認したときは、まだ十七時を回ったころだった。十分ほど目を瞑って休むつもりが、一時間も惰眠を貪ってしまうなど……!その場で頭を抱えていると、無視をされていると思ったのかジュンが頭を小突いてくる。
     少し休んだおかげで眠る前よりも体調は良くなっている気がするが、まだ頭を締め付けるような鈍痛は続いており、咄嗟にジュンの手を払い落とした。
    「いって。なんすか、ちょっと……。って、茨。なんか顔色悪くないですか……?」
     払い落とされた手をさするジュンが顔を覗き込んでくる。普段とは異なる距離に思わず動きを止めてしまえば、ジュンはそのまま俺の前髪を片手で持ち上げ、晒された額に自分より少し体温が高い肌が触れた。
    「な、にしてるんですか」
    「いや、熱でもあんのかなって」
    「ありませんよ、離せ」
     ジュンの突拍子のない行動にこれ以上は振り回されまいと、肩を押して突き放す。余計な神経を使ったせいでまた体調が悪くなってきた。
     というかなんでこんな時間にここにいるんだ、こいつは。
    「ジュン、なんでここにいるんですか」
    「いやだって、あんたいつまで経っても寮に戻ってこねえし。どうせまた事務所に缶詰めで仕事してんだろうな~って思ったから、ロードワークがてら釘を刺しに来ました。ナギ先輩も心配してましたよ、ここ数日ちゃんと寝てないみたいだ、って」
    「……そうですか」
     聡いあの人のことだ。こうして事務所に缶詰め状態になっている自分のことにも気づいているだろうし、その上でジュンを寄越したのは自分ではいくら咎めても受け流されると理解してのことだろう。大切なビジネスパートナーの言葉を蔑ろにするつもりなどは一切ないが、差し迫って与えられていた事務仕事を今週中に終わらせる必要があった。誰にも言われても馬車馬のように働いていただろう。
     ただ、どんなに訓練を積み重ねて働き続けるように躾けられた馬でも、休息を取らなければ寿命を縮めてしまう。それが人間であれば、尚のこと。そういうときに「休んでもいい」と、たった一言でも添えてくれる人物がいればこそ、世のワーカホリックたる人間たちは今日も生き永らえているのではなかろうか。決して褒められた生活リズムでないことは、頭では理解していた。けれどそれ以上に、自分が眠っている間も動き続けている情勢を手放しにして休むことへの不安が大きい。
     芸能界は流動性に富んでおり、特に売り出し中のユニットであればこそ、その流れに乗り遅れてるわけにはいかない。いつだって『今が頑張り時』なのだ。
     だから、――だけど。
    「……ジュン」
    「ん~?なんですか、いば……っ?」
     ソファに腰かけたまま、隣に佇むジュンを再び呼び寄せる。そのまま隣へ座るように促した。説教をされるとでも思ったのだろうか、途端に固い表情になったジュンは大人しく隣に腰を降ろす。その懐へ身を預けるように、背中へ腕を回した。体重をかけられたジュンはそのままベッドへ倒れ込む。
    「えっ、え⁈茨……⁈」
     あからさまに動揺している声が聞こえてくるけれど、顔を見られまいとジュンの胸元に顔を押し付けながら背に回した腕に力をこめた。久しぶりに感じるジュンの体温と匂いを胸いっぱいに吸い込むだけで、頭を締め付けるような痛みがほんの僅かに和らぐ気がした。
    「茨~……?どうしたんですか、本当に。仕事のしすぎておかしくなっちゃいました?」
    「失礼な……。ちょっと体調が良くないだけです」
    「やっぱ働き過ぎなんですよぉ、あんた……」
    「違います、天気が悪いから」
    「んん?」
    「……気圧の変化で、頭痛が酷くなるんです」
     素直に白状すると、ジュンは「ああ、」と納得したように呟いた。そのままゆったりとした動きで後頭部を撫でてくれる。ぎこちないながらも、優しくあたたかな掌に、思わずほっと溜息がこぼれた。暫くその心地よさに浸った後に顔を上げれば、今日初めてまともにジュンと目を合わせた。
    「まだしんどいですか?」
    「いえ……少しマシになってきたような気がします」
    「とりあえず今日はもう仕事は辞めて休んでくださいねぇ。そんな状態じゃ、逆にコスパ悪いでしょ?」
     珍しく正論を突き付けられ、反論できなかった。き切れたことを示そうと頷くも、悔しさが顔に出ていたのか、ジュンが苦笑いをしながら「いいこですね」と、俺の髪を撫でる手はそのまま小さなこどもに優しく言い聞かせるような物言いをした。
     いつもなら腹パンの一つでも食らわせてやるところだが、今日はそんな気力が微塵も湧かない。
    「ジュン」
    「はい」
    「……会いに来てくださってありがとうございます」
    「いーえ。オレが茨に会いたくてきただけですから」
     礼を言われるでもないと笑うジュンの笑顔は、太陽というより暗闇の優しく照らす月のように優しくて、ブルーライトを長時間浴びて疲弊した視力が回復する気さえする。そこまで考えて、やはりそれなりに浸かれているのだろうなとやっと自覚できた。
     さすがにずっとこうしているわけにもいかないので、俺は暫くしてジュンの上から退いた。まだなんとなく頭が重い気はするけれど、吐き気はない。ふと、ソファの下にビニール袋が置かれていることに気づいた。
    「これは?」
    「あ、差し入れです。どうせ飯もまともに食ってないんだろうと思ったから」
     自分宛に用意されたものだと分かれば、それを拾い上げて中を覗き込む。簡単に栄養を摂取できるゼリーやサンドイッチが入っていた。どれも仕事をしながらでも摂取できるものだ。俺が手を止めないことを理解した上でのラインナップだと思えば、その気遣いに胸がぎゅっと締め付けられる。
    「……ありがとうございます」
    「どういたしまして。食えそうならいま食ってくださいよ。そんで、食い終わったら一緒に帰りましょ」
     頷いて再びソファに腰を降ろす。とりあえずサンドイッチを手にとった。食べ物を手にすると、それまで忘れていた空腹が蘇ってくる。包装を剥がして一口食べた。おいしい。
    「こっちのほうも梅雨入りだそうですよぉ。明日からずっと雨ですね」
    「そうなんですよね。明日は珍しくEdenで外ロケがあるというのに……タイミングが悪いというかなんというか。自然のことなので仕方がないのはわかっているんですが、天候によっては元々予定していたロケ地に行くのを断念しなければいけない可能性もありますし」
    「うーん……。あ、そうだ。ちょっと待っててくださいねぇ」
     何か思いついたかのようにその場を離れたジュンの背中を引き留める暇もなく見下ろす。とりあえず目の前にある食事を済ませながら戻ってくるのを待つことにした。
     とりあえず空腹は満たされたし、だんだん体調も良くなってきたので仕事を再開することにした。暫くするとジュンが戻ってきた。箱ティッシュと輪ゴム、黒ペンetc…の文房具一式を手にしたジュンは、俺の体調を気にしてか「もう大丈夫なんですか?」と聞きながらソファに腰を下ろす。頷いてそれに答えると、安心したように笑みを浮かべた。そのまま箱ティッシュから紙を数枚抜き取ると、それを纏めてくしゃくしゃに丸め始める。
    「なにするんですか?」
    「まぁまぁ、茨は仕事しながら待っててください」
     含みを持たせた物言いだが、仕事の邪魔をされなければジュンがなにをしていようと構わないと判断し、俺はパソコンの画面へと視線を戻した。何やら手元の作業に集中しているジュンは黙ったまま黙々と手を動かしている。それを横目に見ながら仕事をしていると、ジュンが「できた!」と言いながら立ち上がった。そのまま窓に近づいていく。手を止めてその挙動を見守っていると、ジュンはセロハンテープを使って窓枠になにかを吊り下げた。くるりとこちらを振り向くと、じゃじゃーんと効果音付きで窓に吊り下げた白い物体を指し示す。
    「なんですか、それは」
    「なにって、てるてる坊主じゃないですか。茨、作ったことないんです?」
    「あるわけないです」
    「わりと上手く作れたと思いません?ほらほら、こっち来て見てください」
    「わかった、わかりましたから腕を引っ張るな」
     言いながらジュンがぐいぐいと腕を掴んで引っ張るので、俺は強制的に椅子から立った。そのまま窓辺に近づき、吊るされたてるてる坊主を見上げる。なぜ二つ?と思ったが、よく見ると一つ一つの顔が違った。しかも造形はどことなく俺とジュンに似ている。
    「これ、自分とジュンですか?」
    「お、わかります?結構うまく描けてるっしょ♪」
     得意げに笑うジュンが揺れるてるてる坊主にそっと触れて顔が描いてある面をこちらに向けてくれる。にっこり笑顔のジュンを模したてるてる坊主とは裏腹に、俺のそれは口をへの字に曲げて不機嫌そうだ。普段の自分はこんなふうに見ているのかと小さくショックを受けそうになるが、ジュンの前で媚びへつらった笑顔を見せたこともないことを思えば、与える印象は妥当なものであると納得した。
    「明日の仕事がいい天気で迎えられますようにってのと、茨の頭痛が早いとこどっかに飛んでいくようにって願いを込めました!きっと明日は晴れますよぉ~」
    「小学生かよ」
    「いいんです!やらない後悔よりやる後悔っていうじゃないですか」
    「それはもっと大事な場面に使う言葉でしょう」
    「ああ言えばこう言う~」
     どっちがだよ。突っ込みたくなる思いを飲み込んで、小さなこどものように頬を膨らませるジュンを見つめた。
     目があえばへそを曲げていたことなど忘れたかのように笑顔の花が咲く。明日が晴れでなくてもいい、少しでも良い結果を求めて自分のために尽くしてくれたその気持ちこそが、鬱々とした心に差す光明なのだから。
     一週間後、再び事務所を訪れたジュンが恥ずかしげに「もう外してもいいんじゃないですか?」と言ってきたけれど、俺はそれを拒否してやった。
     青空にも映える白が、さわやかな夏風に揺れるのを見ながら仕事をするのも悪くないと思えるから。



    END.
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