🥞🎨記憶が戻ったアキトくんとエナちゃんの話
エナちゃんに砂糖をもらっていたら、止められたけども、記憶が戻ってからは本当に自分から進んでエナちゃんのを食べるようになったら半魔族になった話。
任務も訓練も終わったオレは、もう訪れなくても良くなった魔族と過ごしていた一室にいた。魔族に習った魔法を使い、自分がものすごく昔に使っていた魔法を使い、料理をしていた。別に魔法を使わなくても手があるし、力もあるから、体を使えばいいんだが、いかんせん、魔法を使わなきゃ鈍ってしまう。とはいえ、そもそも拭い切れていないものを水で流しているため、手が使えなかった。ここはオレの思い出の一つになっている大切な場所だから…ってあいつには言えねーけど。
魔法学の後にお菓子を広げるから、あいつに甘いこの城の王子はキッチンをこの部屋に設置した。下に保管している材料をひと通り見て作ったものは好物で、同じ味覚を持っているあいつの好物でもある。
「…なんか、半生だったり、完全に黒焦げだったりなものが出来あがるな…」
たんにお腹減ってるだけの必要最低限の食として、自分が食べたいものではなく、好物なら魔法の火力調整が上手くなるとかなんとか言ってたあいつを殴りたい…。どこが上手くいくだよ、難しいじゃねえか。
ぷすぷすとしている黒い物体と、とろとろとしている誰がどう見ても生の状態を目の前に、まだ残っている焼いていない生地を睨む。睨んで解決することじゃないのは知っているからこそ、項垂れた。
やめたくはないが、もう一旦やめるか?手で作るか?生地が勿体無い…何よりオレが食べたい。
「ーーねぇ、焦げ臭いと思ったら、生焼けのもあるの?」
音もなく、気配もなく、いつの間にか真横に立っていた茶髪の女がツンケンとした様子で言葉を放った。顔を見なくても正直もう忘れることはない。フライパンの上やら、皿に乗っている好物では無くなったものをオレは1番見られたくない奴見られてしまったようだ。くりくりとした目なのに、オレには睨んでるように見えたが、次にオレを揶揄うような笑みを浮かべた。
「下手くそ」
「うっせ」
オレをいじれることが嬉しいと顔に出てるぞ。
まぁ、いい。捨てるのは勿体無い。腹を下す覚悟で食べないと。だって、こいつの魔力を捨てるようなものだから。生地にはエナの魔力が凝縮された砂糖が入ってる。そのまま食べるより何かに混ぜて食べたり、飲んだりするのがいい。魔力にも甘さがあるのだから。
「あっ、なんで口にしようとするのっ」
オレがフォークを手に持って好物であるパンケーキだったものにナイフを入れようとすると、抗議する声が聞こえた。慌てて、オレの手を掴み、オレの目を見る。ムッとオレを睨むエナにため息を吐いた。やるだろうと思っていた行動。嬉しい。小さい手がオレの手を掴んでいるけども、大きさが違くて、乗せているようにしか思えないのに、笑みが浮かぶ。けど、それが今は嫌だった。
「なんで食べようとしたのよ?」
「食べようとしたんじゃなくて、食べんだよ」
「だから何でって聞いてるんでしょ!魔法の練習してるのはいい事だけども、これは駄目!」
ムキになったエナが指を振る。呪文を唱えないで振っただけで、フォークが手から離れていく。
「おいっ」
宙に浮くフォークは彼女がジャンプしても届かない。オレなら届くかもしれない高さまで浮いている。けども、触れようとしても、届かないのは、オレの行動を制してきた彼女のせい。オレの目を見てフォークを動かしつつも、気づかれないようにパンケーキが乗った皿が動き出す。
ああ、くそ…
「お前の魔力を棄てられるかよ!!」
「なっなら、今から作るわよ!」
「捨てたくないから言ってんだ!バカっっ!」
「はーーー!?」
「っち!魔法を急に止めんなっ!」
捨てたくなかったから食べたかった。そう言ってんのに、こいつは、また自分の命を削ろうとして、使わなかった分を無理に倍にしようとする…。それが繰り返して意識を失い、そのまま命を落とすかもしれねーって言うのに…っ。先に命を落としたオレのことを気にかけるのはそれもめちゃくちゃ嬉しいけどよ…大事にしてくれ、自分のこと。
怒りで魔法が止まり、宙に浮いていたフォークたちが、当然下へと落ちてくる。
「は〜〜〜っ、」
「…なんで、私の魔力を捨てたくないって言ったの…」
「お前が自分の命削ってまで他の奴助けようとしてるのが嫌なだけなんだよ」
「アキトは他の奴じゃないでしょ」
まだ言うか。他の奴じゃないって言われるのはいい気分だが。オレはエナの何処の位置にいるのか知りたくなった。他の奴ではない。なら、なんなのか。オレの欲しい答えは身内でもない、そのお前の隣に立てるような何かが欲しい。本当はオレの中では答えは決まってて、友人とか知り合いとかそういうのは要らない。
「なら、オレはお前の中でどの立場にいる?」
「…なに、なんでそんな面倒くさいことを言うわけ?」
怒ったり、訝しげな表情を見せて、忙しいやつだなと思う。そんな表情をころころと見せる彼女のことを今でも、彼女が言うように面倒だと思うが、反面愛らしいと思ってしまうのは惚れたなんやらってやつだろう。
「家族ではあったけども、今はもうオレはお前の家族ではないわけであるから…?」
「……」
あ、睨まれた。内心で思うことあったな。ジリ…と絵名に体を寄せると
「迫るのやめてくれません?」