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    唯花(いちか)

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    唯花(いちか)

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    お題「丑参り弓弦と茨のお話が読みたいです!!」より
    ※きっとこれからもっと弓茨になるんでしょうけど、序章までしか書けませんでした。

    プロローグ 茨がその姿を見たのは、弓弦がここに来てから間もないときのことだった。

    (……弓弦、ねてる?)

     すやすやと寝息を立て、机に突っ伏して寝ている。わずかに体が上下していた。

     起きているときは美しく静かな所作と相反して、いつも茨にお小言を言っている弓弦。隙を見せたらガラス片で傷でも付けてやろうと思っているのに、いつも返り討ちにあっている。

    (……いまなら、なにか弱みが)

     ゆっくりと近づいて、彼の様子を伺う。呼吸の度に髪の毛が揺れ、そして。露わになった。

    (これは……?)

     髪の色とよく似た、けれどつややかな、ナニカ。

    (角……?)

     それは、美しい紺青の小さな角であった。
     


     
    *** 
     
     伏見家には神使の牛の血が混じっている。古来、神話の時代に、神に仕えていた牛である。もちろん、それはただの言い伝えだ。だが……。ときおり伏見家の男子にはその血が色濃く現れることがあった。

     
    (バレてしまったでしょうか)

     弓弦は目を覚ました。頭に手をやって、露わになった角に触れる。

     ……弓弦の頭に角が現れたのは、この軍事施設に送られる直前のことであった。『神に仕える』というその性質が色濃く現れたのだろう、姫宮に仕える執事になるにふさわしいと。そう激励されて送り込まれた。

    (……)

     角を隠す術は心得ている。けれど気を抜くとどうしてもこういった醜態を晒してしまうのだった。

    (なんてみっともない……)

     弓弦は気持ちの整理が着く前にここに入れられた。到底受け入れることなどできはしない。

     ふう……と軽く息をついて立ち上がる。時計に目をやれば、まだ夕食まで時間があった。

     演習場の方へ足を向ける。恐らく茨が向かっただろうから。

    (……)

     気分が悪い。彼が何を思ったか、わからないから。顔を合わせるのが憂鬱だ。

     子どもの純粋さはときとして残酷である。それゆえに傷つけられるかもしれないと。危惧していた。


     
     
     
    「茨」
    「うげ……」

     嫌そうな顔をして、茨は弓弦の顔を見た。

     茨は、訓練所の端に生えている大きな木の影に座っている。そのせいでこちらを見上げる形になっていた。眩しかったようで目を細めている。

    「訓練をサボっているかと思って見に来ました。案の定、訓練していませんね」

     弓弦の言葉に茨は目を逸らす。……いつも通りだ。恐ろしいくらいに。いつも通り……を振舞われているのだろうか? そのことに弓弦の心臓は早鐘を打つようだった。

    「……弓弦寝てたじゃん」
    「俺は休憩を貰っていたので」

     弓弦の答えに茨は唇を尖らせて無言になる。
     それを見て、すこし躊躇ったものの弓弦は茨の傍にしゃがみこんだ。

    「……聞かないんですか?」
    「寝てたんじゃないの?」

     すぐに返答が返ってくるあたり、茨は間違いなくあの弓弦の角に気付いたのだ。それがわかって弓弦はふーっと息を吐く。

    「寝ていましたが、茨が触れたときに目が覚めました」

     今度は茨が息を吐いた。

    「……なんて聞いたらいいかわからなくて」

     茨はそうとだけ言って立ち上がる。

    「それに、俺、別に弓弦の秘密を知ったとしても言う相手なんていないし……。大人たちに言ってもぜったい信じないじゃん」

     茨の顔がわずかに夕日に照らされていた。

    「気持ち悪いとか……思わないんですか」

     弓弦が、物心ついてすぐ思ったことがこれだった。自身の体に流れる神使の血が気味が悪くて嫌だったから。だから、そう思うだろうと思っていたし、周囲の人間も……姫宮家と家族以外は奇異の目で見てきていたし。

     けれど茨は違った。

    「あれ、本当だ。確かにそう思うべきかも……」

     茨はそう言いながら考え込む。

    「なんでか、よくわからないんですか」

     そう思うと思わず笑えてきて。くすくすと笑った。すると、茨はこちらに向き直って怒りを露わにする。

    「ちょっと! 馬鹿にしてるんですか!」
    「いいえ。安心したんですよ」

     にっこりと笑うと、茨は心底嫌そうな顔をした。
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