「俺が死んでも、俺のことを覚えていてくれる?」「ねぇ、弓弦……」
そこまで口にして躊躇った。
先を歩いていた弓弦が振り返る。
「……? 何を言いかけたんですか?」
「……いや」
茨が立ち止まると、弓弦はすこし困った顔になった。
「途中でやめられると気になるでしょう」
夕食の時間だからふたりで宿舎まで帰っていたときのことである。
ちらりと弓弦の顔を見て茨は、ふーっと息を吐き決心して口を開いた。
「……弓弦は、俺が死んでも、俺のこと覚えててくれるかなって思っただけ」
「どうしたんです、急に」
弓弦にそう返されて、やっぱり聞くんじゃなかったと強く思った。
「ううん。特に何かあったわけじゃないんだけどさ。変なこと言ってごめん。気にしないで」
急に否定したからか、弓弦は不服そうな顔になる。その顔を見て、また後悔した。らしくないこと言ったなあって。
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