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    うめこ

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    うめこ

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    【小説】2ndバトル前、和解前さまいち②

    #サマイチ
    flathead
    #ヒ腐マイ
    hypmic bl

    思わずそんな言葉が出たが、詰ったところで一郎はこの有様だ。
     仕方なく濡れたタオルで身体を拭いてやると、腕や手のひらのあちこちに小さな擦り傷や切り傷、それに腹には小さな打撲痕があった。
     幸いにも大きな怪我はなかったが、心なしか頬がこけているように見えるし、唇も随分カサついている。どうやら長い間まともに栄養を摂っていなかったらしい。医者ではない左馬刻にすら一目で分かるほど、一郎の状態は散々だった。
     何か食べ物を取らせなければいけないのだが、当の一郎は未だ眠ったままだ。

    「一郎、オイ、起きろ」

     ペチペチと軽く頬を叩いてみても、一郎は苦しそうに荒く呼吸を繰り返すばかりで固く閉じられた瞼はピクリとも動かなかった。

    「ったく、ふざけんじゃねぇぞ」

     怒りというよりも愚痴るようにそう零すと、汗で濡れた額に張り付く黒髪をおもむろに掻き上げた。
     髪の生え際を指の腹でなぞりながら、観察するように一郎の顔をじっと眺める。TDDが解散して以降、一郎が左馬刻に見せるのはありったけの嫌悪を剥き出しにした怒りの表情ばかりだ。
     だから、こうして眉を寄せていない一郎の顔をじっくりと見るのは随分と久しぶりだった。あの頃より幾分背は伸びたが、顔立ちはあまり変わっていないように思える。
     その辺の同年代に比べれば、一郎はずっと大人びている。それは今に始まったことではなく、十七の頃からずっとそうだった。
     けれど本来、一郎はどちらかといえば実年齢よりもやや幼げな顔立ちをしていて、乱数のような年齢不詳の童顔でも、女性的な見た目をしているわけでもないが、生意気そうな大きな瞳を猫のようにキュッと細めて笑う顔はよく「可愛い」と形容されていた。
     当時は一郎を気に入って可愛がっていた左馬刻だが、そうした意味で特段「可愛い」と意識したことはなかったものの、初めて出会った時から人並み以上に整った顔立ちをしているとは思っていた。
     ただ、あの頃は一郎ばかりが左馬刻の顔立ちを「綺麗」だの「カッコいい」だのと持て囃していたから、左馬刻から一郎にそれを告げる機会はなかったけれど。
     眠っているせいで一層幼さが目立ったせいか、無意識のうちに自分がやたらと甘ったるい手つきで一郎の頬を撫でていることに気付く。ふと我に返ってぴたり、と動きを止めたが、なぜだか止める気にならずに優しく目元の黒子をなぞった。

    「ん……」

     すると、今まで蹴ろうが揺すろうが全く起きる気配のなかった一郎が、寝苦しそうに眉をしかめてもぞもぞと小さく身体を捩った。

    「一郎」

     頬を撫でる手はそのままに顔を寄せて静かに囁くと、思いのほか柔らかい声が出たことに少し動揺する。
     一方、一郎はそんな左馬刻の声に瞼を僅かに震わせ、薄っすらと開いたその先でゆっくりと瞳に光を取り戻していた。

    「起きたか?」

     緑と赤の瞳はまだぼんやりと蕩けたままで、未だ一郎の意識が覚醒しきっていないのが分かる。けれど、もう一度声をかけてみても一郎は力なくこちらに目線を寄越すばかりで反応は鈍いままだ。

    「ここ……?」
    「シンジュクの俺の部屋だ。テメェで来たんだろ、覚えてねぇのか?」

     早く目を覚ますようにと今度は手の甲を頬にトントンと触れさせた。
     目の前に殺したいほど憎んでいる男、碧棺左馬刻がいるのだと理解すればすぐに飛び起きて睨みつけてくるだろうとばかり思っていたが、実際の一郎の行動は思いもよらぬものだった。
     一郎は数秒焦点の定まらぬ目でじっと左馬刻を見上げると、飛び起きるでもなく睨みつけるでもなく、あろうことか笑って見せたのだ。それも、安心したようにふにゃり、と目を細めて。

    「オイ……?」
    「さまときさん」

     頬に宛がった左馬刻の手に甘えるように擦り寄った一郎は、呂律の回らない舌でそう呟いた。
     あぁ、これは駄目だと思った。
     一郎はまだ「目覚めて」いない。熱に浮かされているのか、まだ「正気」ではない。
     きっと、あの頃よく二人で過ごした「こんな部屋」にいるのが悪いのだ。

    「何でいるんっすか?」
    「あ? 俺様の部屋だっつの。居て悪ぃか」

     看病を続けるには、「正気」に戻った一郎に暴れられるよりもこのまま大人しくしていてくれる方が都合がいい。少々こちらの心は乱されるが、今だけならば受け入れてやってもいい。
     そう思い直した左馬刻は一郎の「夢」に合わせて二年前の自分を装うことにしてやった。

    「オラ、これ飲め」

     そう言って蓋を開けたペットボトルの水を押し付けると、大人しく受け取った一郎がゆっくりとした動作で口に運んだ。
     しかし、こくりとひと飲みした瞬間、口に含む量を間違えたのかゲホゲホと苦しそうに噎せ返ってしまった。

    「何やってんだテメェは」
    「ゴホッ……っ、すん、ませ……っ」

     涙目になって咳き込む背を撫でてやり、弱々しく握られて今にも床に転がり落ちそうなペットボトルを即座に奪い取る。

    「もういい、お前は寝てろ」

     ガシガシと乱暴に自身の頭を掻いた左馬刻はまだ足りぬとばかりに忌々し気に舌打ちをすると、ペットボトルの水を少量自らの口に含ませた。
     そのまま一郎の肩を抑え込むようにして固定すると、迷うことなく口付けて直接水を注ぎこむ。

    「んっ、ぅッ……ンむぅッ……」

     一方、一郎はというと最初は驚いて抵抗しようと左馬刻の胸元に手を当てたが、少しずつ注ぎ込まれる水に気付いたらしい。今度はその手で縋りつくようにしてギュッと左馬刻のシャツを握りしめてきた。

    「はっ……ぁ……さ、まときさ……」
    「あァ?」
    「もっと」
    「……」

     熱っぽい大きな目にそうねだられて、一瞬ドクリと心臓がはねた。
     けれど「もっと、水欲しいっす」と言い直した一郎の言葉にすぐさま引き戻され、重い溜息とともに「おう」と何でもないふうを装って返事をする。
     やはり相当喉が渇いていたのか、懸命に水を呑み込む一郎に何度も口付けては水を含み、口付けてはまた水を含む。
     ちゅくちゅく、と唇から漏れる水音に頭がおかしくなりそうだった。

    「テメェ……っ、何日、ッ、飲まず食わずでいた」
    「そんなん……ンっ、おぼえて……ね、……よッ……」

     水を飲ませながらでも何か会話をしていないと、頭がどうにかなってただ水を流し込むために突き出した舌を一郎のそれに絡めつけてしまいそうだった。水を注ぎ入れる瞬間に、僅かに触れあう舌先がもどかしく、柔らかなその感触がチリチリと火の粉のようにして左馬刻の理性に飛び散っていく。

    (クソったれが……!)

     ドクドクとけたたましく鳴る心臓の音に気付かないふりをして、ただ無心で水を与えた。
     ペットボトルの水が半分ほど無くなろうかという頃、どうやら満足したらしい一郎が掴んで離さなかった左馬刻のシャツからようやく手を離す。
     口移しの合間にあぶれた水がつう、と一郎の口元からいやらしく零れ落ちていくのが見えたが、それには気付かぬふりをして目を逸らした。

    「飯、食えるか」
    「食う。すげぇ腹減ってて死にそっす。肉食いてぇ」
    「ア? バカか。その状態で肉なんか食ったら腹壊すわ。病人は黙って粥でも食ってろ」
    「ビョウニン?」

     まるで知らない国の言葉のように繰り返すものだから、思わず額を小突いていた。

    「テメェのことだよ、テメェの」
    「いてッ……何すんだよ左馬刻さん」

     呆けたことを宣う一郎の頭をくしゃり、と撫でると、「寝てろ」とだけ言いつけて寝室を後にした。



     その後、ほぼ白湯のような薄味の粥を作って持ってきてやると、水分を摂取して多少は回復したのか、一郎は美味そうにそれを数度口に運んでいた。
     しかし、突然食べ物が流れ込んで胃が驚いたのだろう。途中で腹が痛いと屈みこんでしまったから解熱剤を飲ませて寝かしつけることにした。
     結局、一郎はこの日終ぞ「正気」に戻ることはなく、ずっと左馬刻のことを「左馬刻さん」と呼び続けた。
     十七のあの頃のように屈託なく笑いかけ、無防備に甘える一郎をなぜだか無下にもできず、結局は甲斐甲斐しく世話を焼いてしまった自分に嫌悪感が募ったが、同時に胸の奥に仕舞った硬いシコリが僅かに溶けて小さくなるようなそんな不思議な感覚があった。
     明日になってもまだ熱が引かないようなら寂雷に診せよう。
     この場所を他人に知られるのは本意ではないが、少なくとも寂雷は「味方」であるはずだ。何より一郎はまだ回復しきったわけではなく、ろくに食事も摂れない有様だ。明日になっても過去と現実の区別がつかずに「左馬刻さん」だなんて笑いかけるようならなおのことだ。背に腹は代えられない。
     あの頃、やけに甘ったるく幸せで、けれどどうしようもなく曖昧な一郎との関係に名前を付けることはなかった。
     あんなにも代えがたく特別であった左馬刻と一郎の関係を示す言葉は「元チームメンバー」ただそれだけだ。
     だからこそ――そこに確固とした名前も境界もないからこそ、ズルズルと引き戻されては調子が狂って仕方がない。
     挙句、今日のこれを覚えているのは左馬刻ばかりで、本調子に戻った一郎はこのことを忘れてしまう可能性が高いだろう。
     あまりにも馬鹿馬鹿しくて付き合ってなどいられるものか。

    ***

    「……ってくれ、じろ……、さぶ……、ろ……」

     その日の夜、リビングのソファーで眠っていた左馬刻の耳にふとそんな声が届いた。
     呻き声のような弱々しかったが、それは間違いなく一郎のものだ。
     寝室に続くドアを開けたままにしていたから、か細い声でもここまで届いたのだろう。
     寝室の様子を覗いてみると、一郎は眠ったまま、けれど額にべっとりと汗を張り付けて苦しそうに眉をゆがめていた。

    「じ、ろ……、さ……ぶろ……ッ」

     指先が真っ白になるほど強く毛布を握りしめて、もう片方の手は頼りなげに空を彷徨っている。
     左馬刻はその手を強く握ってやると、悪夢に魘される一郎の肩を揺すった。

    「オイ、一郎。起きろ!」
    「ッ……うぅッ……待、て……待って、くれ……っ」
    「くだらねぇ夢見てんじゃねぇぞ、クソボケが。起きろ、一郎!」

     一等強く揺さぶると、ようやく一郎が目を覚ます。

    「あ……左馬刻、さん……?」
    「ハッ、『まだ』夢ン中かよ」

     まだ一郎が自分を「左馬刻さん」と呼んだことに安堵半分、忌々しさがもう半分。そのどうしようもない気持ちをかき消すように舌打ちをして、汗だくの額を拭ってやった。

    「さま、ときさん……」

     譫言のように名前を呼ばれて「あぁ?」と返してやると、ひどく怯えた目をした一郎が縋るように左馬刻を見上げていた。

    「俺、『また』独りだ」
    「あ?」
    「独りになっちまった」
    「何言って……?」
    「二郎も三郎も行っちまった。あいつらのこと、守ってやれなかった。兄貴なのに、『また』辛い思いさせちまった」

     大きく見開いたオッドアイから涙が溢れ出る。

    「『また』だ……、俺は『また』独りで……ッ、俺、どうしたら……」

     一郎の体が震え、だんだんと呼吸が荒くなっていく。
     半ば過呼吸のような状態に慌てて「一郎」と何度も呼び掛けながら背を摩ったが、落ち着く気配はまるでない。他の全てを拒絶するようにギュッと身体を硬くして、ただただ「何か」に怯えている。

    (一体こいつに何があったっつーんだ)

     一郎の今の状況はまるで理解できていないが、ただ「また」と繰り返すその言葉には少しだけ思い当たる節がある。
     左馬刻とチームを組む以前、ある行き違いから一郎と弟二人との関係は現状からは想像もつかないほどに最低最悪だった。
     弟達は一郎を嫌い、一郎自身は誤解を解く術を知らずただただ無力にも溝を深くするだけの日々。
     今となっては過去のものだが、それでもあの頃の不和は一郎の中で深い傷として残り続けている。
     傍から見ればそれこそ鬱陶しいほどに一郎を敬愛するあの弟二人が再び兄に背を向けるとは考えにくいが、少なくとも一郎は辛い思いをさせたのだと泣いてこんなにも弱っている。
     そして、現にその弟二人は行方知れずだ。

    「一郎、落ち着け。ちゃんと息しろ」
    「っ……くッ……ぁ……ッ」

     とめどなく溢れる涙を親指で掬ってやるが、拭っても拭ってもそれは止まる気配がない。
     放っておけばいい。左馬刻はただ、合歓のことで確認しなければならないことがあるからこうして看病しているに過ぎないのだ。悪夢に魘されようがどうしようが、そこまで手厚く面倒を見てやる必要など、どこにもないはずなのに。

    「ったく、手のかかるガキだなテメェは」

     頭の中で言い訳をこねる「合理的」で「理性的」な自分を隅の方へと押しやると、一郎の額に己のそれをトン、と重ねた。
     鼻先が擦れ、相手の睫毛が触れているせいで瞼が重い。
     互いの顔すら視認できないほどの近い距離で、痛々しい一郎の呼吸音がやたらと大きく耳に届いた。
     これでいい。この距離ならば、きっと他の思念など押しのけて左馬刻の声が何よりも大きく、そして強く一郎に届くはずだ。

    「なぁ、一郎。『男が泣くのは家族が死んだ時だけで十分だ』って、前にそう言ったよな?」
    「……!」
    「今のテメェには泣く理由があるのか」

     静かに、ゆっくりと。まるで幼い子どもに言い聞かせるような口調でそう問うた。

    「……ない」

     すると暫く唇を震わせていただけの一郎が、掠れた小さな声で、けれど確かにそう告げた。

    「なら泣くんじゃねぇ」

     最後につう、と頬を伝った一郎の涙の粒にそっと口付けると、相変わらずのくせっ毛をぽんぽん、と撫でてやる。
     そのまま頭をかき抱くと、一郎は意識を失うようにして眠りについた。
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    うめこ

    TIRED【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話④
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    カーテンの隙間から薄い紫の空が見える。 まだ日は昇りきっていないが、どうやら朝になったようだ。
     のろのろと体を起こしスマホを手に取ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。
     隣で寝息をたてている一郎は起きる気配がない。
     昨晩は終ぞ正気に戻ることはなかったが、あれからもう一度欲を吐き出させると電池が切れたように眠ってしまった。
     健気に縋りついて「抱いてくれ」とせがまれたが、それだけはしなかった。長年執着し続けた相手のぐずぐずに乱れる姿を見せられて欲情しないはずがなかったが、その欲求を何とか堪えることができたのは偏に「かつては自分こそが一郎の唯一無二であった」というプライドのおかげだった。
     もう成人したというのに、元来中性的で幼げな顔立ちをしているせいか、眠っている姿は出会ったばかりの頃とそう変わらない気がした。
     綺麗な黒髪を梳いてぽんぽん、と慈しむように頭を撫でると、左馬刻はゆっくりとベッドから抜け出した。
     肩までしっかりと布団をかけてやり、前髪を掻き上げて形のいい額に静かに口付ける。

    「今度、俺様を他の野郎と間違えやがったら殺してやる」

     左馬刻が口にしたのは酷く物騒な脅 4404

    うめこ

    MOURNING【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話②
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    へまをするつもりはないが、失敗すれば相手の術中にはまる可能性だってある。家族を――二郎や三郎のことを忘れてしまうなんて絶対に嫌だ。けれど、自分がそうなってしまう以上に左馬刻が最愛の妹、合歓を忘れてしまうことが恐ろしいと思った。
     左馬刻は過去、中王区の策略によって合歓と離れ離れになってしまった。あの時は一郎もまたその策略に絡め取られて左馬刻と仲違いする結果になったが、一郎が弟達を失うことはなかった。
     それが誤解の上の擦れ違いだったとしても、あの時左馬刻にされた仕打ちはやはり許せない。けれど、あの時左馬刻が世界でただ一人の家族と離れ離れになってしまったのだと思うと、なぜだかこの身を引き裂かれるように辛くなった。
     一郎がこんなことを考えていると知れば、きっと左馬刻は憤慨するだろう。一郎のこの気持ちは同情などではないが、それ以外の何なのだと問われても答えは見つからない。
     左馬刻は他人から哀れみをかけられることを嫌うだろう。それも相手が一郎だと知れば屈辱すら感じるかもしれない。「偽善者だ」とまた罵られるかもしれない。
     それでも左馬刻が再び家族と引き裂かれる可能性を持つことがただ嫌だと思 10000

    うめこ

    MOURNING【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話①
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    「だから、俺が行くっつってんだろ!」
    「!? テメェになんざ任せられるか、俺様が行く」

     平日の真昼間。それなりに人通りのある道端で人目もはばからずに言い争いを続ける二人の男。
     片方はとびきりのルビーとエメラルドをはめ込んだような見事なオッドアイを、もう一方は透き通るような白い肌と美しい銀髪の持ち主だった。
     ともに長身ですらりとした体躯は整った顔立ちも相まって一見モデルや俳優のようにすら見える。
     そんな二人が並んで立っているだけでも人目を惹くというのに、あろうことか大声で諍いをしていれば道行く人が目をやるのも仕方のないことだった。
     況してやそれがかつての伝説のチームTDDのメンバーであり、イケブクロとヨコハマのチームリーダであるというのだから、遠巻きに様子を窺う人だかりを責める者など居はしない。
     もちろん、すっかり頭に血が上った渦中の片割れ――山田一郎にもそんな余裕はなかった。

    「分っかんねぇ奴だな! あんたのツラ明らかに一般人じゃねーんだって」
    「ンだと? テメーのクソ生意気なツラも似たようなもんだろうがよ!」

     いがみ合う理由などとうの昔になくなったというのに、 9931

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