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    higuyogu

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    POIPOI 76

    higuyogu

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    世界木。BL。若干の下ネタあり。自ギルドの長プリが若ショに耳かきをする。あとのもう1人はポニシノ
    これの続き。読まなくても困らない前回
    https://poipiku.com/1066758/9606311.html

    世界木3 自ギルド耳かき② ショ×プリ 海鳥の鳴き声が窓から風と共に入り込む。カーテンが大きく翻る。遠くに波の音がする。
     常夏の島は昼間は茹だるほどに蒸し暑いが、陽が落ちると潮風が涼を運んでくる。寝支度を済ませたあとのこの時間が好きである。
     この部屋の窓際に置かれたベッドは広い。猫のような少年もここの上に寝そべり、主人が寝るのを待っている。少年といえど、もう少しで青年になるくらいの年頃だ。
     今日の彼のTシャツには『世界愛』と印刷されていた。金髪と共に潮風にそよいでいる。下は涼しそうな短パンを穿いている。
     風に飛ばされて彼の金毛が跳ねているので、撫でて直してやろうと手を伸ばす。すると相手の手で止められた。彼はそのまま腕で体を少し起こすと、顎で部屋の扉の方を指し示した。
     示された方を見遣ると、そこには呉服を着た仏頂面の男がいた。扉の額に右肩をもたれさせ、腕を組んで立っていた。腰には脇差を1本差している。
     剣士はしばらくの間こちらを睨んでから、ベッドまで歩み寄ってきた。途中で一本結びの紺のまっすぐな髪を解く。そしてどかり、と真隣に座った。今度は至近距離で睨まれる。
     男は口を開く。

    「オウミ様ー、耳かきいい加減習得しましたよね?やりなさい。この俺に」
    「汗臭いぞ。寝る前に体を洗ってはどうだ」
    「んじゃあそれもよろしくお願いします」

     男はそうのたまいながら腰の帯を解き、刀も床に置いた。呉服をくつろげたところで勢いよく背中から倒れる。
     後ろの方からぐえ、と言う声がしたのは、先に横になっていた金髪の少年が下敷きになったのだろう。先程俺の手を制止させたにも関わらず、八つ当たりは避けられなかったようだ。

    「そのまま寝るつもりか」
    「オウミ様が俺の体を拭いてくれるらしいんですよ。早くすっきりして寝たいなー」
    「みつうろこさん、重いです。あと腕、つねんないでください」
    「やめてやらんか。タカラブネが痛がっている」
    「そうらしいですね」
    「お前というやつは。仕方ない。布を水で濡らしてくるから待ってろ」

     しかし紺髪の男はため息を大きく吐いた。下敷きのタカラブネという名の少年が痛い、痛い、と身をよじりだす。

    「何が気に食わない」
    「水拭きは嫌です」
    「じゃあオレがお湯でおしぼり作ってきますからっ、放してくたさい!皮に穴空きますって」

     少年は渾身の力で男の下から抜け出した。そして適当な布を漁り、部屋から飛び出していった。
     男は見向きもせず、未だ膝下を垂らしたまま寝そべっていた。ずっと天井を見ているので何かあるのかと見やってみたが、何もない。

    「機嫌が悪いな」
    「なんでだと思います?」
    「喧嘩に負けたのか?」
    「は?オウミ様があの小僧ばっかりに構うからですけど。しかも俺に耳かきしてくんないし」
    「やったことはあるだろう。そこで練習してからにしろ、と言ったのはお前だぞ」
    「練習終わったら俺に耳かきしにくるもんでしょ?」
    「何もしろとも言われなかった」
    「指示待ち無能人間ですかあ?」
    「そうだぞ」

     ここでなんとなしに会話が止む。互いにとりあえず放っておきたい言葉が無くなったからだ。
     寝台に座りながら少年を待つ。じきに足音が聞こえ、絞った布巾を持った彼が入ってきた。

    「なんすか、この空気」
    「ご苦労。おお、なかなか熱いな」
    「このくらいじゃないと汚れ落ちなさそうじゃないですか」
    「言ってやるな。さっぱりはするだろう」

     冗談に笑いながら応答していると、男も上半身を起き上がらせた。結っていない髪が無造作に垂れ、服も肩から袖が落ち、若干異様な姿になっている。
     少年もすくみ上がる。おしぼり一本じゃ足りなさそうなのでお湯も持ってきます、と言って再び部屋を出ていってしまった。
     怠そうなモノノケはこちらにも顔を向ける。そのまま迫ってくるので、思わずのけ反る。

    「オウミ様」
    「ただの会話だっただろう。狭量な奴だな」
    「早く拭いてください」

     男は不貞腐れたように寝台に身を投げた。さっきからずっとのぞいている彼の脚が目に入り、面倒臭さい気分が膨れる。

    「上半身だけでいいか」
    「どこでもいっすよ」

     言葉もどんどん投げやりになっている。横寝の姿勢も大変に面倒臭い。
     まずどこから手をつけるか。首からにしよう。寝台に身を乗り上げて、倒れている男の顔の前に座る。
     天井を向いているのは左肩だったのでそれを押し、仰向けの姿勢にさせる。
     無防備になった首に、両手に乗せた熱い布を押し当てる。熱い風呂の湯くらいだろう。
     両手の指で彼の耳の下を揉む。この辺りはよく汚れる場所だ。耳たぶ裏の入り込みを、人差し指と中指の2本で押し揉むように拭く。ついでに耳たぶも熱い布で包んで揉む。男は目を細めてこっちを見ていた。
     耳をおしぼりで包んだまま、親指を耳介の溝に這わせる。窪んだ溝に指を押し込み、しっかりと拭う。程よく皮膚を引っ張られるのは心地よいはずだ。裏も入り組みも念入りに拭っているうちに、男の薄目もさらに細くなっている。
     耳をしっかり拭いたならば、次は首が近い。耳から下り、首の付け根。首の左右も良い具合に撫でられると心地良かったはずだ。4本の指を首筋に這わせて、ゆっくりと往復する。
     そのまま指を伸ばして首の後ろも擦って揉む。それから前に戻り、顎の下、喉仏のあたりも苦しくない程度に拭いた。
     襟はとうに滑り落ちており、肩が剥き出しになっている。布巾を一度たたみ直し、晒されっぱなしの胸を拭く。布巾はそれなりにぬるくなっている。

    「体を起こせ。背中を拭く」
    「へい」

     力の抜けた声だ。男は上体を起こした。だるそうに曲げられた背中は改めて筋張っていると思う。ハリがあって健康的で大いにけっこうである。
     垂れている紺色の髪の毛を手で纏めて持ち上げる。首の裏からまずは右肩へ、稜線をたどりながらぐいと拭う。首から肩へ往復させると、男の体はこちらの腕の力に揺れる。左肩も同様に触った。
     ここで少年が帰ってきた。借りたバケツにはられた湯は熱い。布巾を洗って絞り、おしぼりは再び熱を取り戻した。
     湯気の立つ布巾を首輪の後ろに当てる。男から情けない声が漏れる。8本の指を使ってさらに押す。未だにあー、だの、うー、だのと声が止まないのでよほど心地よいらしい。
     布を広げて肩幅まで覆ってやる。そして両の手のひらを使って腰まで撫で下ろす。背中からますます力が抜けている。今度は布を腰から肩まで撫で上げると、背筋が若干伸びた。滑稽さにたまらず笑んでしまう。
     湯で布を絞り直し、首より少し下、肩甲骨の間に畳んで置く。左の肩甲骨の辺りから念入りに拭っていく。なにかこそばゆいようで、背中はくねる。固定のために肩を掴んでいるからだろうか。
     右手で男の左腕を持ち上げて、下の脇、脇腹も拭いてしまう。こちらは案外こそばゆくないようである。これはぐいぐいと力を入れて拭いているからだろう。布を洗い直して次は右脇。
     そこも終えて、背中の真ん中に熱い布を押し当てる。ゆっくりと筋をほぐすように撫でる。項垂れている男は動かない。座ったまま寝ているのかもしれない。背骨から左右の縦筋も、両手を使って持ち上げ、肩甲骨に着く前に止める。そこからまたゆっくりと下す。
     こんなこともしていれば大分綺麗になってきただろう。

    「あとは腹と脚だ。自分でやってくれ」
    「顔も」
    「そこも自分でやれ。耳掃除の準備をする」
    「棒を1本持ってくるだけでしょう」

     男の気だるい返事を無視して立ち、机に向かう。ここの引き出しに耳かきに使う棒をしまっておいた。
     ちり紙と綿も用意し、寝台へ向きかえる。
     でかい寝台に人が2人乗っている。男は緩慢な動きで腹を拭っていた。少年は湯を持ってきたあとは、ずっと窓の近くに寝転がって涼んでいた。今脛を掻いたので、まだ起きてはいるらしい。
     男の膝下は拭いてやってもいいかもしれない。あのまま寝られたら奴の足の泥がこちらにもつきそうだ。
     もう一枚布を取り出し、湯に浸す。湯も少し冷めてきた。新しいおしぼりとその他の道具を持って戻る。
     男の隣に座って足を拭いてやると言えば、胡座をかいていた脚は伸ばされた。草履はすでに脱げていた。片脚を自分の腿に乗せ、足首から入念に拭いていく。

    「俺ずっと考えてたんですよ。どっちにしよっかなー、て」

     不意に声をかけられる。足の裏を拭いていると指を動かされて煩わしい。

    「なんだ」
    「人生には自分で決めなくちゃいけないことがあるんです。それでどっちにするか…」
    「そうだな」
    「耳かきと情事は両方とも選べないもんですかね?」
    「一兎も得られないだろうな」

     指の隙間を少し強引に布を押し込んで拭き、指先も揉みほぐす。あとはざっくりと脛を拭いた。布を洗い、反対の脚も同様に拭く。
     体を粗方拭き清められたと思われる男を膝に呼ぶ。
     呉服は解けに解け、男はほとんど下着姿だった。しかしこいつは朝方にこの下着と草履だけで走りに行くこともあるので、本人にとっては恥ずかしい格好ではないのだろう。
     膝に男の頭が乗っかる。上に向けられたのは左耳である。後頭部が腹につけられ、顔面はよく見えなくなった。近すぎて穴を覗きづらいので少し離す。
     髪を梳きながら耳たぶを引っ張り、中の様子を見る。そこそこ汚い。
     とりあえず耳介の方から手をつける。耳の上側の縁の溝に、耳かき棒の匙状になっている部分を差し入れる。痛みを感じないであろう程度の力加減に気を配りながら、この入り込みをヘラでこそいでいく。
     顔面側の突き当たりは入り組みが深いので、匙の角度を変えながら丁寧に掻き取る。垢がもろもろと剥がれる。布で拭ったときは角度が悪く、拭いきれなかったのだろう。
     数回撫でつつ垢を掻き、匙で掬い取ってちり紙に拭う。また溝に戻り、取り残しのカスを集めつつ入り込みの続きを掻いていく。この辺りからも垢は剥がれてくる。
     だが何度掻いても出てくるからといって、強く引っ掻いたり、長く掻いたりしてはいけない。いい塩梅で刺激するのが一番の目的だ。
     垢を大体取り除いたら、おしぼりを人差し指に纏わせて再度溝を拭う。ついでにその流れで穴につづく窪まりまで指を這わせ、拭きつつ軽く肌をっぱってやる。
     耳かき棒を持ち直し、匙の背で耳たぶや耳の裏もちょこちょこと擦る。小さく円を書きながら、軟骨に当たらないところを押していく。

    「オウミ様」

     男から発せられた声は随分と怠そうに掠れていた。

    「何だ」
    「遊女かなにかですか」
    「どういう意味だ」
    「やけに甲斐甲斐しいので」
    「お前がそうしろと言ったのだぞ」
    「それにしたって」

     耳かき棒の匙の背で穴の付近も押し撫でる。その流れで、匙を穴にゆっくりと滑り込ませる。
     浅いところから棒のヘリで掻いていくと、この辺りに溜まっていた垢がとれてくる。頑固にこびりついているところは往復させてみたりして浮かせてみる。
     垢を掬い取ってちり紙に拭うと、すでにそれなりの量が取れている。思わず感嘆の声が出てしまった。
     不意にベッドが軋む。少年が起き上がったらしい。手洗いにでもいくのかと思ったが、ベッドから降りずにこちらにやってきた。肩越しに腕の中を覗き込まれる。しかも彼は男の背中側から身を乗り出しているのだから、なかなか肝が据わっている。
     男が覚醒してしまうかもしれないので作業を進める。また少し深めの所を掻く。匙を上まで引っ張り上げたらまた潜らせ、棒をあまり耳から離さないように連続で掻くようにする。
     しかし4回くらい掻けば匙に垢が溜まる。引き上げるとまた感嘆の声が上がる。これは俺のものではなく少年からのものだ。
     匙を拭ったら、拾いきれなかった垢も手早くまとめて取り除く。それから穴の中を掻く。
     穴の入り口からすぐそばの窪まりをくい、とひと掻きする。ただこれだけで匙にカスの塊が乗っていた。これには流石に悪寒が走る。依存性があって危険だ。
     少年も魅了されたように見入っている。起きている時は接触を嫌がるくせに、今はこちらに体を押し付けて取れた垢を見ている。

    「タカラブネよ、少し作業しづらい」
    「あ、すんません」

     少年は少し身を引いた。だが依然と男の左耳を注視している。
     垢を拭い、再び窪まりを掻く。くにくに、と棒に押されて皮膚が動いている。また垢がこそげていく。棒のヘリを使って広い範囲を掻いたこともあり、今度も結構な採れようだった。
     他の所も垢は浮いているので、そちらの方も掻く。手応えはないのに垢は取れる。しかしゴミの掻き出しに夢中になるのも良くないので、動きの速さと力具合には気をつける。棒をなるべく皮膚に沿わせ、程よい刺激を与える。
     垢はだんだん採れなくなってくる。またはやわらかい肌に薄くこびりついている。残っているものは後でどうにかすることにする。少年も垢が取れなくなった耳に興味をなくし、再び俺の後ろに寝転がった。
     匙を穴の壁に伝わらせながら、さらに奥へ進める。奥に行くにつれて暗く繊細になるので、あまり触りたい所ではない。だが確かにこのあたりは不思議な心地良さがある。
     優しい力加減を意識しながら皮膚を撫でる。同じところを長く掻くと痛くなるので、少しずつ位置を変える。
     さっきからずっと男の反応はない。止められることはないので痛くはないのだろうとは思う。

    「掻いてほしいところはあるか」

     一拍、二拍、と間を置いてから、ようやく男は声を出す。

    「おく、奥やってください」
    「奥か」

     めんどくさい。だがこちらが尋ねて返ってきたことなのでやらねばならぬ。
     さらに慎重に棒を奥へ進める。暗く何も見えない所を感触を頼りに撫でる。動きもゆっくりと小さくする。そろ、そろ、と闇の中で匙が動いている。

    「おい、これでいいのか」
    「もうちょい奥」
    「鼓膜を破くかもしれんぞ」
    「だいじょうぶですよ」

     さらに奥だと言われてしまったので、適当に掻いて切りあげようと思った。
     耳の首側の方の皮膚を匙の側面で撫でる。この辺りは練習の時に少年からねだられることが多かった。男にも有効なのではないかと思う。
     ゆっくり、ゆっくりと、指をわずかに動かして匙を操る。空気が布団のようにのしかかるようで、こちらまで眠たくなってくる。
     少し位置を変えて頭頂部側を撫でる。この辺りも若干痒くなる。それから後頭部の方面も痒くなったりそうでもなかったりする。そういう場所を撫でる。
     ただひたすらに穏やかで、何もない。眠い。自分もさっさと横になってしまいたい。

    「もう良いなよな」

     男に声をかける。しかし待てども返事は返ってこない。棒を耳から抜いて、此奴の目の上に手のひらを当てる。瞬かれ、まつ毛で手のひらを数回撫でられた。
     耳の入り口にこびりついている薄い垢をおしぼりで拭いとる。指で強めに擦ると、垢は見当たらなくなった。
     終わりの合図に、鋭く吐息を耳へ吹き込む。眠気覚ましにもなるはずだ。それから肩を叩き、声をかける

    「反対だ」
    「オウミ様、そのハレンチな技々はどこで覚えたんですか」

     男は怠そうに体を少し起こして、体の向きを変えた。今度は腹に顔を向けられた。
     抱きつかれて腹の臭いを嗅がれる。臭くないのだろうか。

    「本があった」
    「そうすか」

     いまだ抱きついている男の髪を梳かす。腰に絡みつく指に力が籠る。耳を指で押し広げて覗き込むと、こちらも垢が浮いていた。
     額を押して少し退くようにと伝えるが、男はなかなか固くくっついている。仕方がないのでこのまま耳を掻くことにしよう。そのうち息苦しくなって、離れてくれるだろう。
     左耳と同じように、まずは耳介の入り込みが浅いとこから掻く。屈み込んで作業をしなくてはならないので、薄暗くてやりづらい。
     比較的手前側の耳の淵の溝を擦ってみたり、耳たぶを匙の背で軽めに押してみたりする。耳たぶを裏返して、皮膚の柔らかいところを優しく擦ったりもする。
     肌に沿わせ押し潰さないように作業をしていれば、男の閉じられたまなじりが心なしか下がっている。
     ここいらで手を完全に止める。両手を体より後ろに置いて体を伸ばす。縮こまって作業をしていたので肩が凝っていた。男をどうやって剥がそうか。
     男自ら動くことを期待したが、やはり一向に動く気配はなかった。

    「おい、離れんなら、タカラブネにやらせるぞ」

     男にそう言ってやると、そいつは顔を下の方に埋めて深呼吸なぞをし、それからようやく腹から少し離れた。悲しそうな顔の演技をしているのが癇に障る。
     後ろにいる少年を突いて、彼にこれからやることを目線と手元で伝える。少年はまた近くに寄ってきた。
     耳かきの棒を持ち直し、左手を男の耳に添える。耳介を少し広げ、顔面側の深い溝を掻く。1回、2回、3回。こちらは匙の半分に垢が乗る程度だった。それでも少年は目を見開くように見入っている。
     溝の続きを掻くと、またそれなりの量の垢が取れた。かき集めて取り除く。
     次に濡布巾で丁寧に溝の奥まで拭き、耳珠のすその窪みも擦る。さっきの右耳では、この辺りの皮が中途半端に浮いているくせになかなか取れなかった。拭き終えると多少綺麗になった気がする。
     匙で穴の方を掻いていく。穴の淵をゆっくりとこそぐ。すり、すり、と動かすと垢が少し浮く。耳珠の裏もこそりこそりと掻く。こちらは何も取れない。
     隣の少年がつまらなさそうにしてきているので、もう少し奥に進める。穴の暗闇に浮いている白い欠片を匙で取りさらう。この欠片もやや質量があるようで、集めて掬うだけで匙に山ができる。紙に拭う。
     それから手前側のあまり入り込んでないところから掻き始める。匙の先でなぞると、軽い抵抗感が伝わってくる。ざくざくとしたザラつきだ。一掻き目で白い垢が浮く。こいこい、と掻くほどに浮いてくる。拭い、同じところから耳たぶのある方に移動する。
     この辺りが窪みがあるところだ。暗がりに匙を潜らせて優しくこそぐ。くるりとひと掻きすると、またも匙いっぱいにもろりと垢がとれた。横から息を呑む音がする。先にやった耳と同じである。こいつの耳のこの窪みは一体どうなっているのだろうか。
     さらに数回、指先の感覚を頼りに掻く。心なしかパリパリ、という音が聞こえる気がする。浮いたと思われる垢を取り去るように、匙の側面を使って広く押し撫でる。2回ほど撫でてから引き上げると、今度も匙に塊ができていた。
     紙に拭って隣の少年に見せてやる。彼はちり紙を受け取り、今までの垢を食い入るように眺めている。爪先で垢を崩して観察までしている。指先が汚れるのでやめた方がいいと思う。
     男が薄目で少年を見ていたので、作業を再開する。先程と同じ深さのところを掻く。くいくいと匙を動かすと、また少し垢が乗る。ちり紙は不在なので、男の耳を押さえている左手になすりつける。匙でまたゆっくりと大きめに掻く。その速さのまま、水平移動を繰り返し、満遍なく撫でていく。柔らかい肌を優しく押して撫でる。例の溝のところももう一度撫でた。
     棒を引き上げると、またそれなりに溜まっている。左手に拭う。ここから少しずつ奥の方も掻いていく。
     匙を穴に沿わせながら下す。ここから先は大して採れるものはない。匙のヘリで上に引き上げるように肌を撫でる。穴からは出さず、またゆっくりと下す。肌からはあまり離さない。当てる時に勢いがつかないようにする。ゆっくりと。匙は常に肌に当てるくらいが良いだろうか。さら、さら、と匙を動かす。男は目を閉じていた。
     右肩を突かれる。少年がちり紙を返してきた。ここで匙を引き上げ、紙で拭う。左手のカスも拭き取る。少年はまた寝るらしい。
     男の耳のさらに深いところを探る。同じようにゆっくり下ろして、ゆっくり撫でる。
     外の海鳥の声や風の音がよく聞こえる。まどろみ沈み込んだ空気を風が流す。熱が取りさられて心地良い。時たま、ごうと強く吹き込むが、それもまた安らかな夜の景色だ。
     さらに奥。少しでも突けば痛くなるような場所だ。慎重に肌をなぞっていく。まるで空気を捏ねているかのような感覚だ。耳の穴の暗闇の奥を、指先の触覚のみで撫でる。
     男がたまに顔を歪めるので、その度に力を緩める。覗き込み、ぼんやり見える匙の動きに注視する。それでも掴みどころが分からない。慎重に匙を伸ばし、小さく動かす。わずかな肌の抵抗を頼りに指を動かす。
     匙をそろそろと引き上げる。しっかり拭ってから体脇に置き、代わりに別の細い棒を手に取る。棒は爪楊枝より若干太い程度だ。それに用意していた綿をしっかり巻きつける。綿が固定されたことを確認してから男の耳に向かう。
     肌を撫でながら綿つきの棒を進める。くるり、くるり、と円を描きながら降りていく。そして先程と同じ深さまで到達した。
     ゆっくりと撫でるが、木製の匙よりかは痛くないはずだ。男も顔をしかめていない。指で回転をかけながら、すり、するり、と撫でていく。
     耳たぶがあるほうから手前、ちょこちょこと擦る。耳介のあるほうへさらりと撫でて、するすると回転を入れてみる。移動し、この辺りは気持ち強めに押し撫でる。そしてまた耳たぶ側に戻ってきた。終わりにと、棒を回転させながら優しく撫でる。男の口は半開きだった。
     棒を引き上げつつ、穴出口付近の入り込みも擦っていく。角度をつけてするすると拭う。それから穴の縁を2周りして、棒を引き上げる。こちらの耳にも息を吹き込む。これで本当にお終いだ。

    「おい」

     相手の肩を軽く叩きながら声をかける。男は同じ姿勢のまま薄く目を開け、また閉じた。
     しばらくしてから体の筋を伸ばし、それからうつ伏せに寝転がってくる。腹に男の頭がつく。

    「おい、どけ」
    「耳の中がジンジンする〜」
    「悪かったな」
    「オウミ様のハレンチッチ」

     こちらの腿に顔を押し付けている男をどうやって退かすか考えていると、相手は自ら起き上がった。
     やっと男が退いたので片付けをしようと腰を浮かせる。すると横から何者かが衝突してきた。ベッドへ押しつぶされ抱きつかれる。重く暑苦しい。
     男はこちらにまとわり付かせた腕で腹や胸板を撫でてくる。さらには首筋に口をつけてくる。髪の毛を巻き込んでいるので非常にうざったい。

    「やめんか」
    「オウミ様」
    「暑苦しい」
    「好きなくせに」

     好きだろうなどと言われると、あまりいい気分ではない。相手の頭を拳で小突き、しかしもがいてまで脱出する気にもなれなかった。
     拳を作った右手をベッドに投げ出すと、頬にキスをされる。汗をかいてきた。もっと快適に眠りたい。
     こちらが反応しないでいると、今度は仰向けに寝転がされた。腰掛けていたために床に下ろしていた脚をベッドに持ち上げられ、そのついでに靴を脱がされる。俺の股の向こうに楽しそうな男がいる。
     胴に迫ってきた男に、首と顔に張り付いた髪の毛を丁寧に払われる。風が吹き込んで涼しい。シャツのボタンが外されていき、服の中に風が入り込む。帆のように旗めいている。

    「やるなら手短にしろ」
    「一兎も得られないって言ったのはあなたですよ。ほらシャツなんて開けた方が涼しいんですから」

     そう言って男は、開いた胸元に頬擦りをする。せっかくの涼が台無しだ。
     しかしこの鬱陶しい体温は落ち着く。まだ片付けは終えておらず、枕も足元にあるから寝るわけにはいかないのだが。顔の左側には少年の足もある。
     男が顔を上げて、また目が合う。頭を撫でられる。髪の毛を掬い取るように、優しく指で梳かされている。あまりに心地良くて瞼が重たくなる。無骨で器用な固い手だ。男は眩しそうに微笑んだ。
     あとは全部片付けときますんで、と言われつつ撫でられ続けていると、いよいよ目が開かなくなる。瞼越しの照明がチラつく視界の中、唇に柔らかい触感があてられた。それすらも心地よいと思っている。
     左手側の何かが動いてベッドが歪む。体の上からも重さと熱が退いていき、代わりにシーツをかけられた。少年の声とそれに応える男の声を聞く。内容はどこかに流れていく。
     窓から吹き込んだ風が涼しい。シーツに残った温かさは愛おしかった。比較的穏やかな夜である。
     

    終わり!
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