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    tohli

    フェムレオ沼の住人。
    隣のスティレオ沼もよく掘削してます。

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    tohli

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    第五回twitter不具合祭りリクエスト
    ベーグル屋の店員さんの少年とブンさんのスティレオ

    #腐界戦線
    #スティレオ
    stereo

    ベーグル屋の店員さん すこし前かな。うん、君がライブラに入るよりちょっと前だね。
     僕がいつも使ってたサブウェイがトラックに突っ込まれて改装工事になっちゃってさ。仕事中の休憩がてら、あの店まで買いに行くのが恒例になってたから困っちゃったんだよね。
     仕方ないからその辺のトラットリアでも入るかと思った帰り道、路地の目立たないとこに今まで気が付かなかったベーグル屋があることをみつけたんだ。
     路地に面した細いビルの間口のままに、こじんまりとした店でね。店の前に出された手書きの黒板の新規オープンの文字が無ければ見逃したな。目に入ったことだし、今日はもうここでいいかって足を向けたんだ。
     元紐育のこの街じゃベーグル屋なんていくらでもあるだろう? 珍しくもない。期待せずにはいったんだ。

    「いらっしゃいませ!」

     すごく明るい、弾けるような声で迎えられて、少し寝不足でぼんやりしてた目が思わず覚めちゃったよ。
     間口のままに狭い店の中には奥にベーグルの並んだ棚、サンドイッチ用の具材の冷蔵ケース兼のカウンター、あと申し訳程度の店内飲食用の椅子なしのテーブルがあるきりでね。
     そのカウンターの奥から、もさもさの髪を帽子の中に押し込めた男の子が一人、満面の笑顔を浮かべてたんだ。背景に「おきゃくさん! おきゃくさんがきた! うれしい!」って書いてありそうなくらいの笑顔でさ。子供がごっこ遊びしてる時みたいな感じでなんだかほほえま……痛い痛い、ちょっと待って、つねらないで。話は最後まで。
     ベーグルを選びながら話を聞いたら、そこはビヨンドの店主がベーグルの魅力に取りつかれて修行して新規オープンしたばかりの店なんだと。店主はベーグルさえ作れればそれでいいって感じで店の方はバイトのその少年に任せっきりで、少年もどうしたらいいのかって頭抱えてたんだそうだ。
     オープン初日、朝は客が入らなくて、慌てて黒板を買ってきて目立つように店の前に置いて。そして最初の客が僕だったんだって。
     商売っ気のない職人気質のオーナー店主、ってとこかな。少年も苦労するよね。
     すこしたどたどしい手付きで用意してくれたベーグルサンド。具材が溢れそうなくらいになってたのは、多分最初の客へのサービスかな。
     君も頑張ってね、なんておざなりなねぎらいの言葉をかけてさ。それにふにゃふにゃの嬉しそうな笑顔を返されるもんだから、僕もなんだかほんわりしちゃったよ。
     事務所に持って帰って、期待せずに食べたベーグルサンドは絶品だった。紐育時代からいままであわせてもあれだけ美味しいベーグルサンドは食べたことがないくらいだ。

     僕は次の日もそのベーグル屋に行った。昨日とは違って何人かの客が出入りしていて、どうやら近隣の住民もその店の美味しさを知ったらしい。
     客がいなくなったタイミングをみはからってカウンターの少年に声をかけると、彼は顔を明るくして「昨日のお客さん!」ってね。顔を覚えられてたのがなんだか嬉しかった。
     その日はBLTを頼んで、少年がカウンターの奥でベーコンを焼いている間に少し話をした。
     少年は外からHLに働きに来たばかりなんだそうだ。未成年かと思ったら一応ギリギリ成人してた。高校生のバイトかと。痛い痛い。つねらないで。
     お腹をすかせてたらここの店主に試作のベーグルをもらって、あまりに美味しくて絶賛したらそのまま売り子として雇ってもらったんだとか。この美味しさならわかる。
     ベーグルと一緒に差し出された紙コップ。温かな湯気を昇らせるそれに首を傾げると、「サービスです」って微笑まれた。
     昨日は気が付かなかったがカウンターの済にはコーヒーメーカー(コンビニエンスストアなどによくある、一杯ずつオートで淹れてくれるアレだ)も据えてあった。
     礼を言って受け取り、帰りながらそのコーヒーを一口。砂糖もミルクもなしのブラック。事務所でギルベルトさんが淹れてくれるのとは天と地の差の、そんなに高くない普通の豆の、機械でいれた味も素っ気もないコーヒーだ。でも、その時の僕にはとても美味しく感じた。
     それからよくベーグル屋に通ったよ。昼だけじゃなくて、朝やたまにはおやつの買い出しのときなんかにも。泥のような極悪ブラックコーヒーに合うベーグルはある? って二徹目のへろへろの顔でいったときには悲鳴を上げて心配しながらも激甘チョコベーグルをオススメしてくれた。
     ベーグルの食べ過ぎであんたなんか顔まで丸くなってない? なんてK・Kに言われたりしたけどさ。一応食べた分は必死に走り込みしたりして消費したから。ほら、腹に肉もついてないだろ?

     一つ……いや二つ残念なことがある。
     少年の名前を聞けなかったんだ。あの店には他の店員がいなかったせいもあるのかな。少年は名札をつけてなくてさ。僕もなんとなく、名前を聞きそびれた。
     少年、って呼んだら「少年って年でもねーんですけど」ってぷりぷりしながらも笑顔を返してくれるのがかわい、いたいいたい。だから脇をつねらないで。そろそろアザになりそうなんだけど
     それからもう一つ残念だったこと。ベーグル屋がオープンしてから一ヶ月もたたないうちに、あの店は区画くじでどこかにいってしまった。
     店のホームページも何もないから、どこに行ったのか探すこともできなくて。僕はあのベーグルにも、少年にも会えなくなってしまった。
     もっと早く、連絡先とか聞いておけばよかったって公開したよ。店のじゃなくて。店のもだけど。

     ああ、うん。それでなんでいきなりこんな話をしたかって?
     あのベーグル屋さ、異界側の割と深い方に飛ばされてたらしいんだけど。うん、閉店時間で店員もお客もいないときでよかったよね。
     今回の区画くじでめでたく表通りの一等地に帰ってきたんだってさ。君、まだ気がついてなかったろ?
     ほら、お世話になった店長さんに挨拶がてら朝食のベーグルサンド買いに行こうよ。僕は野菜で。

    「肉がいーです」
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