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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    #飯P版深夜の真剣お絵描き字書き60分一本勝負
    お題【エプロン・料理】

    #飯P
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #腐女子向け

    【飯P】りんごと共に煮えるもの 「自炊しているんだな、感心じゃないか」
     コンロにかかった小鍋をかき混ぜる後ろ姿は、部屋を見回しながら呟いたピッコロに笑って答えた。
     「毎食買ってたら、お金がいくらあっても足りませんよ。大食らいですし」
    「……確かにな」
     一人住まいをはじめたばかりの悟飯の部屋に、まだ物は少なかった。二人掛けのテーブルとベッド、台所には冷蔵庫と一口のコンロだけが辛うじて並べてある。晩春の午後、真新しいカーテンのかかった窓の外は、穏やかな色合いに晴れていた。
     「それに、大きな鍋に作っておけば、毎日作らなくても、何日か食べられるから……ほら、そこにあるでしょ?」
     調理台を兼ねているようなささやかなカウンターに、十人分は煮込める容量のシチュー鍋が鎮座していた。
     「鍋を置きっ放しにできない真夏どうするかは、考え中ですけど」
     火をごく小さくして、悟飯は小鍋をかき混ぜていた木べらを傍らに置く。部屋中に、小鍋から立ち上る甘い匂いが漂っていた。りんごとレーズン、はちみつにレモン。
     「それは、何を作っている?」
    「職場でりんごを沢山もらったから……日持ちするように煮てるだけ」
    「煮ると日持ちがするのか」
    「大抵の物はね……」
     悟飯の肩越しに、ピッコロも小鍋を覗き込む。ぐずぐずと角のなくなったくし切りのりんごに、レーズンと、レモンの皮が絡んでいる。ジャムというには形を保っているし、コンポートにしてはやや崩れすぎていた。
     「味見します? 煮汁の部分だけ。口開けて」
     ステンレスの匙が鼻先に差し出され、ピッコロは仕方なく口を開けた。悟飯の手によって差し込まれた匙から、とろりと熱い煮汁が注がれる。舌が焼けるほどに甘く、りんごの香りの奥に、かすかにレモンの風味がある……なんとコメントすれば良いのか分からず、ピッコロはただ頷いた。
     「……僕が長いこと煮込んで煮込んで、煮すぎたものも、ピッコロさんは受け取ってくれるのかな」
    「今、受け取ったじゃないか」
    「りんごのことじゃ、ないですよ」
     声をたてて笑いながら、悟飯は匙をシンクに放り込む。ステンレスがステンレスへぶつかる高い音が響き、すぐに消えた。
     「ピッコロさんにはじめて会った時の気持……敬愛か、親愛か、憧憬か、どんな料理になるのか分からなかったけど、何年も煮込んでる内に、分かってきました」
     一歩身体を寄せてきた悟飯を警戒し、ピッコロは敢えて突き放すように答える。
     「……お前が分かっても、おれが受け取るかは、また別の問題だ」
    「そうですか? だけど、ほら」
     悟飯は引き出しから、無造作に匙を取り出す。今度は木製の匙だ。この家の食器には、統一感というものがない。
     煮込んだりんごの上澄みをすくって、悟飯は再びピッコロへ匙を突き付けた。反射的に開けたピッコロの口の中が、蕩けるような甘さと、りんごの香りに満ちる。
     「やっぱり。僕が差し出すと、ピッコロさんって必ず、受け取ってくれる。水以外のもの、いらないはずなのに。昔からずっとそう」
     なんとも不敵に笑って、悟飯は引き抜いた木匙を舐めた。少し甘いな、と誰にともなく呟く。
     「それに、すぐ受け取ってもらえなかったとしても、煮たものは日持ちがしますからね。気持だってそう。今さら長期戦を恐れる理由なんて、ありませんから」
     小鍋の火を消して、悟飯が蓋を閉じる。ふつふつと音をたてて煮えていたりんごが、名残惜しそうに静まった。悟飯の片手が伸びてきて、ピッコロの腰を引き寄せようとする。
     「それでピッコロさん、どうでした? 味は」
    「……おれには、甘すぎる」
    「慣れますよ、すぐに」
     悟飯が握っていた匙が、再びシンクに放り込まれる。今度は先程より、少しだけやわらかい音がした。
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    summeralley

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    ゆ 28b Summer alley

    新刊『廃墟の灯』
    A5サイズ10章68ページ成人向け。

    廃墟となった無人の街に暮らす飯Pのお話の試し読みです。
    03章を途中まで載せます。NAVIOの方には別の章を載せてますので、興味があって見れる方はそちらもどうぞ~
    【飯P】廃墟の灯/試し読み03.廃墟の街

     砂の散ったアスファルトに、錆びた鉄骨とひしゃげた鉄パイプが転がっている。
     山々のように聳える工場群は今やその役割を終え、徐々に朽ち果てつつあるのが、この距離から振り仰いでも明らかだった。
     ひび割れた舗道には雑草が繁り、道の両端に並ぶ建物の外壁にも蔦が這いまわっている。ガラスはどれも汚れており、庇はことごとく破れて垂れ下がっていた。看板やシャッターの文字はほとんど消え失せ、赤茶けた錆だけが無闇と存在を主張している。
     ピッコロが姿を眩ませたのは、両刃の剣を二人で見た直後だった。
     はじめ数日は、悟飯もデンデたちも、どこかで修業に打ち込んでいるのだろう、と考えた。しかし一週間経ち、十日経ち……それでも戻る様子がない。流石に、こんなに長い期間を留守にするのに一言も告げていないのはおかしい。気が全く感じられず、意図的に身を隠していることは明らかだった。
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