淫魔 宿屋の部屋の扉を開けたら、先客がいた。
ベッドに座っていたそいつは、オレが部屋の扉を開けると驚いたようにこちらを振り向き、そして勢いよく立ち上がる。
「あ、やっと帰ってきた! 遅いぜ、ハッサン」
そいつはそう言うと、にっこりとこちらに笑いかけてきた。
青い髪の男だ。オレより歳は若そうに見える。屈託のない、人のよさそうな笑顔にうっかりつられて笑いそうになる、が。
いやちょっと待て、その、そもそも、この。
「だっ、誰だよ!? っていうか魔物だよな!?」
男の、頭から伸びた二本の角と、おそらくケツから生えている黒い悪魔のような尻尾が、目の前の男が人間ではないことを示している。
そもそも、目の前の魔物がもし人間だったとしても普通におかしい。オレは旅の武闘家だが、一人旅で連れはいないし、知り合いにもこんな奴はいない。
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