『あ』か『う』か、なんだかよくわからないけどそんな声をたまに漏らす犬飼が面白くて、多分ここかなってところを狙って追い詰めてたら、もうゆるしてください、なんて言うもんだから、何をゆるせばいいの?って聞いてみたら、ごめんなさい、なんて言う。
萎えるからやめてほしいなあ。俺、そういうの好きじゃないんだけど。急に動きを止めたら犬飼ってば何故止めたのかって感じで不思議そうな顔してるからもうね、シバケン風に言うなら草。
「あの……」
「なに」
「私と……するのは、つまらないです?」
「は?」
呆れるっていうかちょっと引いちゃったよね。なんなんだろうこいつ。俺、犬飼のこと一度でも無理矢理に犯したことなんてあった?多少強引だったことは……うーん、大体はちょっと強引気味だったかもしれないけど、でも本気で拒絶されたことは無かったし、なんだかんだで気持ちよさそうにしてるしで完全に合意の上で楽しんでるんだと思ってたのに、俺だけがそう思ってたってことなの?最悪じゃん。
「犬飼はさあ、俺とどうなりたいわけ?」
「どう……とは?」
「じゃあさ、なんで俺とやってんの」
「なんで……って……」
「あー例えば付き合いたいとかセフレになりたいとか?ただやりたいだけとかでもいいけど、目的は何?」
「目的なんて……」
歯切れが悪いのはいつものことだけど、自分の尻に一〇歳も年下の囚人のチンコ入ってるこの状態でそれってどうなの。ムードとかそう言うの犬飼にはもう求めてないけど、楽しいことして気持ちよくなりたい俺にとっては気分最悪なわけ。わかってんのか。
「私は……甲斐田くんがしたいなら、と言うか、したい事、には、なるべく応えてあげたいと思って……」
「で?」
「で、ですから、甲斐田くんがつまらないと思っているなら、私の努力が足りないからではと思って」
「はぁ」
「なので、駄目なところがあれば指摘してほしくて……」
「あのさあ」
駄目なとこなら挙げきれないほどあるよ、そう言いかけてやめたのは、不安そうに俺を見上げる犬飼の目に怯えが滲んでいたからだ。だめだ、本気で萎えそう。つまんない。
「今日はもういいよ」
そう言って抜こうとしたら気持ちいいとこ掠めたみたいで、犬飼の口からまた『あ』だか『う』だかわかんない声が小さく漏れたから、気持ちいいならもっと素直にそれを表に出せばいいのにって思った。なんで隠そうとするんだろう。でもそれを口に出す代わりにそこめがけて思いっきり突いてやったら今まで聞いたことない声あげながら喉を晒して仰け反ったからびっくりした。なんだ出来るじゃん。
なのに犬飼ときたらまた、ごめんなさい、だって。だからさあ、いい加減にしてくんない?
苛々して何も言わずにそこばっかりがんがん突いたら一生懸命口押さえて半泣きになってんの。こういうときシバケンなんて言うんだっけ草も生えない、だっけ?わかんないけど。
ねえまた聞かせてよ、俺その声聞きたいよ。
「かい……だく……わ、わたし、」
「なに」
「私は……か、看守なので……囚人の皆さんのために……出来ることを……したくて」
「うん、お仕事だもんね、これもさ」
「はい……そうなんです、そうなんですけど……なのに……今、少し……仕事を忘れそうになってます……」
潤んだ目で、上ずった声で、途切れ途切れに、でも俺の目をしっかり見ながらそんな事言う犬飼の事、可愛いと思っちゃったしずるいとも思った。天然なのかな、演技だったら大したもんだけど。
「気持ちいい?」
「はい……すみません……ごめんなさい……」
「謝るのやめろ」
「ですが……私は、こんなのは……良くない事ですし……」
「犬飼にとっての良くない事は俺にとっては良いことなんだけど」
「えっと……」
「俺のためにしてくれてるって言うなら俺のとこまで堕ちてきて、早く」
廊下の切れかかった蛍光灯がチカチカするのと犬飼の瞬きのタイミングがシンクロしてなんだか可笑しかった。もうひと押しかな、どうだろう。犬飼相手の駆け引きは正直面倒だけど、俺もあんまり余裕なくなっちゃった。あーあ、かっこわる。
「どうする?」
「私は……ゆるされるでしょうか」
「俺がゆるすよ、誰にも言わないし、俺と犬飼だけの秘密」
「ほ、本当に?」
「ほんとだよ、ね?だから今だけ、俺だけに見せて、聞かせて。俺犬飼と一緒に気持ちよくなりたいよ」
「それが……甲斐田くんの、望み、ですか」
「うん、囚人の俺じゃなくて、俺個人の望み。だから、」
「私は、看守の私ではなく、私個人として……?いいんでしょうか……」
「いいか悪いかは後で考えればいいよ」
でも……ってこの期に及んで煮え切らない返事をする犬飼いを無視して、犬飼の気持ちいいとこ狙いながら俺も自分が気持ちよくなるために腰を振った。ただ夢中で。犬飼ももう余計なことは言わなかったし、やっぱり遠慮がちではあったけどひっきりなしに声を上げてるしついでにぎゅうぎゅう締め付けてくるしで、ほんとはここからもっと楽しみたかったけど限界だった。
やばいと思って寸前で抜いて犬飼の腹の上に出して、そのあと犬飼の上で呼吸を整えてたら、あの……って戸惑ったような声が下から届いた。
「んー」
急に激しく動いてつかれたのと射精後のだるさとで適当な返事をした俺に犬飼は言う。
「もう……終わりです?」
「なあに?物足りなかった?」
揶揄うつもりだった。違います!なんていいながら恥ずかしそうにする可愛い顔見れたら楽しいな、なんてそんな気持ちで。そしたら犬飼言うんだよ、はい、って。
はい、だって!まじで物足りなかったらしいよ!そう言うのはもっと早く言えよ、そしたら俺、もっとゆっくり、ちゃんと気持ちよくしてあげられたのに。
っとにさあ、まじで覚悟しろよ、いや覚悟しなきゃいけないのは俺の方なのかも。
っていうかさ犬飼、あんた前振り長いんだよ。