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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太800字。酒は飲んでも飲まれるな。

    ##文スト
    #BSD
    #敦太
    dunta

    呼ばう声「あ〜あ、飲みすぎちゃった〜」
     真夜中のネオンが輝く歓楽街を、ふらふら歩きながら太宰は笑っている。
     酒精の上った頬に当たる夜風はひやりと冷たく、いつの間にか秋が来たのだと告げている。
     今日は敦とくだらないことで口喧嘩になり、むしゃくしゃしたのでとことん飲んでやろうと思って一人でここまで来ていた。
    「もう一軒行くかな」
     一人でつぶやいて、雑然とした人混みの中を歩いていく。
    「……?」
     ふいに自分の名を呼ぶ声があった気がして、太宰は路地裏の方へ目をやる。
     ――太宰……太宰。
     どこか聞き覚えのある低い声に、太宰は朦朧とした頭の中で答えを導き出す。
    「織田作……?」
     相変わらずその声は太宰の名を呼んでいて、太宰はそちらへと歩を進めてしまっていた。
     その昔に織田作は死んだ。この腕の中で息を引き取る瞬間を見届けたのだから、間違いない。だのに、太宰は声のする方へと進む歩みを止めることはできなかった。いつの間にか自分が歓楽街を外れて海辺の方へと来ているのにも気づかず。
    「織田作、おださ、」
     ざぶん。太宰の声が途切れたのは、足を踏み外して水の中に落ちたからだ。織田作、と呼ぶ声は水の泡となって消えていく。肺腑の中に空気の代わりに冷たい水が入り込んでくる。
     ――嗚呼、私もここまでかぁ。
     そう思って太宰は静かに目を閉じる。
     思い残すことがないと言ったら嘘になるけれど、悪くない人生だったな。
     しかし、突然なにかに腕を掴まれると、体を抱えられる。なんだろうと思っている間に水の浅い方へと連れて行かれた。
     ざばっ、と水から出て聞こえてきたのは、「太宰さん!」と云う声だった。
    「太宰さん! 大丈夫ですか!?」
     敦だった。太宰は地面に手をつくと、その名を呼ぼうとして盛大にむせた。肺の中の水を吐き出してから息を整える間、ずっと敦がその背をさすってくれている。
    「あつ、し……くん?」
     すっかり酔いも醒めた太宰は、口の端に笑みを浮かべる。そして天を仰いで大笑いした。その様子を、不安げに敦が見守っている。
     ――酒に飲まれるなんて、私もまだまだだなぁ。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLETLに花見するチェズモクが流れてきて羨ましくなったので書きました。■夜桜で一杯


     新しく拠点を移した国では今が桜の花盛りだそうだ。それを朝のニュースで知ったモクマは「花見をしよう」と期待たっぷりに朝食を作るチェズレイに笑いかけた。
     日が沈んでからモクマはチェズレイを外へ連れ出した。桜が満開の公園へ行くと、ライトアップされた夜桜を楽しむカップルや友人連れの姿がちらほら見える。一箇所、満開の桜の下が空いていたので、そこにビニールシートを広げて二人で座る。持ってきたどぶろくの一升瓶からぐい呑みに注ぐとモクマはチェズレイに渡す。続けて自分の分もぐい呑みに注ぐと、二人で乾杯した。
    「や~、マイカから離れてまた桜が見られるとは思ってなかったよ」
    「それはそれは。タイミングがよかったですね」
     モクマがいつにも増して上機嫌なので、チェズレイも嬉しくなってしまう。
    「おじさん運がなくてさ。二十年あちこち放浪してたけど、その間に桜の花なんて一回も見られなかったんだよね」
     でもそれもこれも全部、なんもかも自分が悪いって思ってた――そう小さな声で呟いてぐっと杯を干す。
     このひとはどれだけの苦しみを抱えて二十年も生きてきたんだろう。事あるごとに何度も繰り返した問い 1240

    高間晴

    DONEチェズモクワンライ「温泉/騙し騙され」。■とある温泉旅館にて


    「いや~、いい湯だったねえ」
     浴衣のモクマが同じく浴衣姿のチェズレイの隣で笑う。
     ここはとある国の温泉旅館。最近チェズレイが根を詰めすぎなのを見かねたモクマが、半ば無理矢理に休みを取らせて連れてきたのだ。
     それでもチェズレイは少しうつむいて、晴れない顔をしている。
    「すみません、私のせいで足湯しか入れなくて」
    「いいのいいの。この旅行はお前さんのためなんだから」
     ひらひら手を振りながらモクマが笑う。
     チェズレイの潔癖症は一朝一夕で治るものではないとわかっている。足湯に入れるようになっただけでも大進歩だ。
    「なんならおじさんは、お前さんが寝た後にでも大浴場に行けばいいし」
     ここの温泉はアルカリ性単純泉で、肩こりなどに効果があるほか、美肌にもよいとされている。部屋にも源泉かけ流しの家族風呂がついているところを選んだので、チェズレイは後でそこに入ればいいだろうとモクマは考えた。
     そこでチェズレイがモクマの浴衣の袂を掴んで引っ張る。顔を上げれば、度々モクマにだけ見せる、『お願い事』をするときの顔をしている。
    「モクマさァん……ここまで連れてきておいて私を 2758