よくある三択、実質一択「敦君、ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
残業でへとへとに疲れて帰ってきた敦。それを出迎えた太宰は、どこから調達したのかフリフリの白いエプロンを身に着けていた。
さすがに裸エプロンではなかったが、敦はとりあえず太宰を抱きしめる。そして思い切り深呼吸してから、台所へ向かう。
「……うわ」
台所は想像以上に荒れていた。まな板は真っ二つになっているし、鍋は焦げ付いている。その上小麦粉があたり一面に散らばっている。粉塵爆発の実験でもしたんだろうか。
「何を作ろうとしたんですか」
「えーとね、コロッケ?」
小首を傾げてそう云うものだから、敦はめまいがしてきた。
太宰は敦の手を引いた。
「でもお風呂はちゃんと沸いてるよ?」
云われて敦は浴室へと向かう。そこには冷たい水の張られた浴槽があった。
「……あ、スイッチ押し忘れてた」
その一言に敦はどっと疲れが出て、居間へ行くと畳の上に転がった。もう一刻も早く休みたいところである。
「――で、太宰さんはなんでそんな格好なんですか」
「敦君が喜ぶかと思って」
顎の下に拳を持ってきてかわいこぶる太宰は、ポケットから携帯を取り出した。画面をこちらに向けると、はっとして敦は飛び起きた。そこに映るのは癖っ毛のショートヘアで裸エプロンの女性が前かがみになっていた。たわわな胸の谷間が見えている。
「これ、私にそっくりだよね」
「なんっ……なんで」
それは敦が自分の携帯で見ていた動画に間違いなかった。
なんでバレてるんだ。敦が金魚のごとく口をぱくぱくさせていると、太宰は携帯をいじり始める。
「いや~、前に携帯どっか忘れちゃったから、敦君の借りて国木田君に連絡取ったときあったでしょ? あのときついでに見ちゃったんだよね。タイトルで検索したらすぐ出てきた」
事もなげに云いながら太宰は敦に向かって微笑む。
「――ってわけで、私にする?」
その問いに、敦は土下座して「お願いします」と云う他なかった。