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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    呪専七灰。
    付き合って間もないふたりが任務後にもだもだしている小話。
    七海がキザなようなヘタレのような感じです。

    七灰ワンドロワンライ44.『イルミネーション』.





    夕方から急遽入った任務で訪れた郊外の新興住宅地。
    駅前から住宅街へ続く道を歩いていると、道沿いに植わっている木々が一斉にキラキラと輝き始めた。
    「わー!すごい!」
    「こんなところもライトアップするんだな」
    今はまさにクリスマスシーズン。街中ではいろいろなところでイルミネーションの明かりが灯っているが、こんな郊外の道沿いでも見られるとは思っていなかった。
    「きれいだねぇ」
    「ほんとだな」
    これから任務だというのに、付き合い立ての恋人とロマンチックな明かりの下を二人で歩いていたとしたら、少々浮かれてしまうものだろう。隣を見ると、柔らかな暖色の明かり照らされた七海の横顔も、任務前にしてはいつもより緩んでいるように思えた。
    けれど、まずは呪術師としてやるべきことを済まさなければならない。
    「任務頑張って、ゆっくり見て帰ろうね!」
    「ああ、そうだな」
    お互い顔も気も引き締めて、今日の現場である建設途中の住宅へと向かうため、イルミネーションの下を進んでいった。





    事前調査通り呪霊の等級は大したことはなかったが、出現にいくつか条件が必要だったこともあって、帳の外へ出た時には辺りはすっかり暗くなっていた。
    補助監督へ任務完了の電話をしている七海の隣で、緩やかな坂の上から駅の方向を眺める。帳の中へ入る前は光の道だった通りは辺りの暗がりと同じ色をしていて、街灯の明かりが間隔的にポツリポツリと灯っているだけだった。
    「もう消えちゃったんだぁ」
    「住宅街だからな。消灯も早いんだろう」
    パタンと携帯を閉じた七海が、独り言のつもりだったつぶやきに返事をした。七海の携帯のサブディスプレイに表示された時刻は午後九時ちょっと過ぎ。確かに、若い家族向けの新興住宅地では、この時間はもう寝かしつけの時間なのかもしれない。
    「じゃあ、仕方ないね。でも、この時間なら全然終電余裕だね」
    帰ろっか、と続けて駅への道を進んでいく。
    道沿いの木々をちらりと見上げると、明かりの消えた電飾がたくさん巻き付いているのが分かる。夕方のまだ少し明るい時間帯でもあんなに綺麗だったのだから、陽が落ちてからだともっと幻想的な空間になっていたに違いない。
    せっかくなら、七海と見たかったな。
    そう内心しょんぼりしていると、不意に右手が握られた。
    パッと隣へ顔を向けると、想像していたよりも七海の顔が近くにあった。ちょうど街灯のない場所だったが、七海がやけに神妙な面持ちをしていることは、暗闇に慣れた目のおかげではっきりと分かった。
    「七海?」
    どうしたの?
    しかし、言葉を続ける前に視界が七海でいっぱいになった。
    それから、瞬きをする間もなく訪れたのは、唇への柔らかな感触。それはすぐに離れていってしまったが、一体何が起こったのかは流石に理解できた。
    七海は少し俯き加減で制服の大きな襟の内側へ顔を半分埋めている。それでも、七海の頬が赤く染まっていることは、夜目には一目瞭然だった。
    「……暗い方がいいこともあるなと思って」
    「〜〜っ、そうだけどぉ!」
    おそらくは、イルミネーションが消えていたことで少し落ち込んでしまっていたから、七海なりに元気づけようと思ってくれたのだろう。
    それでも、いきなり外でキスするなんてズルい。まだ付き合って間もなくて、キスも片手の指で数えられる程度くらいしか経験していないというのに。完全に不意打ちで、受け入れる準備も、感触を味わうことも、余韻に浸ることも何もできなかった。
    「え?うッ!?」
    握られていた手をバッと離し、ポカンと顔を上げた七海へとタックルするように抱き着いた。
    「灰原、ちょっと、っ」
    「いまののお返しだよっ!」
    ぎゅうぎゅうと回した腕に力を込めていると七海が苦しそうに背中を叩いてきたが、すぐに離すことはできそうにない。
    しばらくしてからようやく、少し腕を緩めてみた。まだ気恥ずかしさはあったけれど、最低限の心の準備はできたような気がする。
    「ねえ……もう一回、ちゃんとしよ?」
    息を整えていた七海が言葉の意味を理解して瞳を大きくした。背中に回っていた手のひらがおずおずと下へずれていき、それに合わせるように少し背伸びをする。元々近かった顔の距離が、ゼロに等しくなっていく。
    真っ暗な道端なんてロマンチックではないかもしれない。
    それでも、七海の言う通り暗い方がいいこともあるのだと、そんなことを思いながら、ゆっくりと重なってくるやわらかな幸せに身を委ねることにした。




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