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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    1月の新刊予定。
    記憶喪失になった灰原くんに恋人だと嘘をついてしまう七海の七灰です。
    ①ではまだ嘘ついてないです。いろいろ迷走したのでまるっと書き直すかもしれません。

    1月七灰原稿①春が過ぎ、長かった夏も終わり、やっと本格的に秋が訪れた頃になれば、初めての経験が減って少し気が緩んでくるものだろう。
    入学当初は呪術師という世界の特異さやそこで生きる人間のおかしさにいちいち驚いていたし、悍ましい呪霊を前にする度に今まで自分が目にしてきた呪いが随分と甘っちょろいもので、この世界は果てしなく闇深いのだと落胆した。とはいえ、人間は慣れる生き物だ。腐りきった大人たちを目にすることも、能力的にも人間的にも規格外の先輩たちから絡まれることも、胸糞悪い呪霊と対峙することも、いつの間にか日常になっていた。
    それに、高専入学後数ヶ月の間で七海にとって完全に予想外の出来事が起こった。
    たった一人の同級生に、恋をしたのだ。
    同じ非術師の家系出身。真っ直ぐな黒髪、溌剌とした眉、まん丸な黒い瞳、快活そうな大きな口。社交的で人懐っこくて、どこまでも真っ直ぐで何事にも一生懸命で。呪いという存在を知っているとは思えないほどの明るさを持っている。
    あまりにも自分と違いすぎて、出会った当初は彼のことがかなり苦手だった。
    人には見えないものが見える。その恐怖も辛さも悲しみも同じように経験しているというのに、なぜあんなにも笑えるのか不思議でならなかった。前向きに呪術師として生きようとしていることが全く理解できなかった。
    いくら二人きりで過ごす時間が多いからといって、彼と相容れることはない。
    そう思っていた、はずなのに。
    彼の隣にいると不思議と落ち着くことに気がついた。彼に名前を呼ばれると何故か表情が和らぐことに気がついた。彼の笑顔を目にすると無性に胸がいっぱいになることに気がついた。
    自分は他人と違うのだと悟ってから、誰とも一定の距離を保って接してきた。そのせいか、自分の中に生まれた気持ちが一体何なのか最初はわからなかった。日に日に大きくなっていく気持ちにやっと名前を付けることができた時、そんなことあり得ないと七海は自分の心を否定した。
    しかし、一度意識した気持ちをなかったことにするなど、記憶をリセットでもしない限り無理な話だった。
    いつの間にか、彼の姿を目で追っている。無意識のうちに、彼のそばへ寄ってしまう。ふとした瞬間、彼のことが頭に浮かぶ。
    一体何があり得ないというのだろう。こんなにも、気持ちが溢れてくるというのに。
    自分は灰原雄に恋をしている。
    そう素直に認めてから日常は少し変わった。
    愚痴をこぼしながらも授業と任務を淡々とこなし、初めての恋というものに内心一喜一憂する日々。いつ何が起こるから分からない呪術師という世界ではあるが、いわゆる青春なんて呼べる時間がしばらくの間続くのだろうと、そんな何の根拠もないことを柄にもなく思っていた。
    しかし、予想外の出来事というものは文字通り突然訪れるものだ。
    いつものように担任から言い渡された、廃ビルに巣食う呪霊祓除の任務。
    元々曰く付きの場所だったが、今まで目立った被害はなく要観察で済まされていた。それが、面白半分で入り込んだ若者数人が病院送りになる実害が発生し、やっと祓除の依頼が降りてきたのだ。
    幸いなことに被害者の怪我はたいしたことなく、呪霊の等級は高く見積もって二級程度。被害者の一人に多少前後の記憶健忘が見られたらしいが、恐怖によるものだろうと判断された。
    この程度の案件は高専へ入学してから数ヶ月の間に何度も経験したもの。一年とはいえ、二人でなら大きな問題なく処理できる程度の任務だと誰もが思っていた。
    だが、報告にあった呪霊を予定通り祓ったあと、思わぬ事態が発生した。
    本体の呪霊がいた、廃ビルの中でも奥まった一室。そこで何者かから襲撃を受けたのだ。
    「っ、なんだ!?」
    襲撃といっても直接ではない。ちょうど呪霊が巣食っていた場所に仕込まれていたなんらかの術式が発動し、より近くにいた灰原がそれに襲われた。
    「七海来ちゃだめだ!!ぅ、ぁ、ッ、」
    術式が発動した瞬間に不気味な光が広がったかと思うと、それに包まれた灰原は頭を抱えて苦し気な声を漏らし始めた。
    「クソッ!!」
    自分の術式は他人の術式自体をかき消せる物ではない。だが、術式を発動させた物理的な何かを破壊することはできる。光の対角線上に感じる誰かの残穢。七海が崩れた壁の影に貼られていた呪符を真っ二つにすると、灰原を包んでいた光は次第に薄れていった。
    「灰原!!大丈夫か!?」
    光が完全に消えたと同時に、蹲っていた灰原はその場へ倒れ込んだ。
    「気分は?どこか痛むところは?」
    「……あたま、痛い」
    見たところ外傷はないが、灰原は冷や汗を滲ませたままきつく目を閉じている。
    「わかった。とりあえず先にこの場を離れるぞ。帳を出て、助けを呼ぼう」
    呪符という人工的な物があったということは、呪霊の仕業ではなく人間、つまりは呪詛師の仕業ということになる。この呪符が自動的に発動したものなのか、遠隔的に発動されたものなのか、それとも自分たちを視認できる場所から発動されたものなのか今は何も断定できない。情報が少ないこの状況では、こちらが圧倒的に不利だ。
    「ごめ……なさい」
    ぐったりとしている灰原を抱き上げて出口まで走り始めると、灰原はぽつりと謝罪の言葉をこぼした。
    「別に謝る必要なんてない。私も少し油断していた」
    今回もいつものような任務だったと、呪霊を祓った時点でどこか気が抜けてしまった自覚はある。それに不測の事態は今までもあったが、ここまで灰原が憔悴したことはなく腹の底がじわじわと冷たくなっていく。
    「きみを、助けに……きたのに……ごめん、なさい」
    「なに言ってるんだ?私たちは一緒に来たじゃないか」
    灰原は浅い呼吸の合間で何かうわ言のように言葉を続けている。
    様子がおかしい。意識が朦朧としているのだろうか。
    「ぼく……もっと、がんばるんだ、って、…………」
    「灰原?どうした?……おい灰原!灰原っ!」
    だんだんと声は小さくなっていき、灰原はいくら呼びかけても何も応えなくなった。



    帳を出てから高専へ連絡をすると、近くの現場から帰るところだった補助監督が急いで駆けつけてくれた。状況を聞いた補助監督は、高専の息がかかった病院の方がいいだろうと車を飛ばした。
    病院へ到着した後、灰原は用意されていた担架に乗せられていった。七海は擦り傷の手当てを受けながら、今回の任務内容、灰原が術式を受けた時の状況、仕込まれていた呪符についても医者へ説明した。
    「詳しいことはしっかり検査してみないと分からないな。幸いバイタルは安定しているから、今すぐに何かが、ということはないだろう」
    本当にそんな悠長なことを言っていてもいいのだろうか。もし術式をかけた奴が遠隔で何か仕掛けてきたとしたら。
    不安と焦り、そして自分自身への憤りで心臓が苦しくなる。
    せめて灰原のそばにいたい。そう思ったが、きみも任務で疲れているだろうから帰れと言われ、七海は力無く頷くことしかできなかった。
    今日の任務は昼過ぎから始まったというのに、寮へ着いた時にはもう日付が変わる直前だった。
    静かな寮の廊下を一人で歩く。傷の手当てはしてもらったが全身打撲だらけで、軽く捻っていたのか足首も傷む。制服はボロボロで、口の中もまだじんわり血の味がする。任務の後は大抵こんなものだが、今日はいつも以上に身体が重い。その理由は分かりきっていた。
    隣に灰原がいない。高専へ来てからの半年間、任務の後はいつも、灰原と一緒に寮の廊下を歩いていた。
    ──今日も疲れたねー!
    ──本当に。報告になかった呪霊が三体も現れた時は頭の血管がキレるかと思った。
    ──七海ひっどい顔してたもんね!でもそのあとの連携バッチリだったしよかったじゃん!
    ──あれは結果オーライだっただろ。
    ──まあ、これまでの成果が発揮できたってことで!そうだ!帰り道にあったパン屋さん結構有名なんでしょ?今度は開いてる時に行ってみようよ!
    ──そうだな。近くに大盛りがウリの定食屋もあるらしいし。
    ──えー!七海調べてくれたの!?ありがとー!!絶対行こっ!!
    その日の反省をしたり、愚痴をこぼしたり(灰原はそんなこと口にしたことはないが)、出掛ける予定を相談したり。なんでもない会話を交わし合う。
    半年前まではなかった、一人ではない日常。自分は他人とは違うのだと悟ってからの十年あまり感じ続けていた寂しさや空しさは、この半年の間どこかへ消えてしまっていた。そのことに改めて気付かされた。
    帰る前に病室をちらりと覗いた時、灰原は真っ白なベッドの上に寝かされていた。廃ビルから出る時とは違って呼吸は落ち着いていて、表情もただ眠っているように穏やかだった。
    明日また病院へ行ってみよう。もしかしたら、病院の味気ない食事をすっかり平らげていて「あ!七海っ!」といつものように笑いかけてくれるかもしれない。
    そんな淡い期待を抱きながら、開くことのない隣部屋の扉の前を通り過ぎた。





    翌日、どうせ授業は自習だからと七海は朝から病院へ向かった。しかし、灰原は昨夜と同じように静かにベッドへ横たわっているだけだった。
    モニターの規則的な電子音が鳴るだけの病室で、ぼんやりと灰原の寝顔を眺める。こんなに静かな灰原は目にするのは初めてでどうにも落ち着かない。出会ったばかりの頃は、早朝から大きな声で「おはよう七海っ!」と言われることに煩わしさも感じていたというのに。気が付いた時には、明るくてよく通る声を耳にしないと目覚めた気分にならなくなっていた。
    「灰原」
    眠る灰原のすぐそばで、名前を呼んでみた。
    だが、いつも自分を真っ直ぐに捉えてくれる黒い瞳は瞼の下に隠れたままで、大きく動く口も今は微かな吐息を漏らすだけ。白い布団の端から覗く手のひらをそっと握っても、何の反応も返ってこない。
    灰原はなにかと名前を呼んでくる。教室では大抵二人きりで話しかける相手はお互いしかいないのにいつも「ねぇ、七海!」と口にする。それに、こちらが「なあ、」と声をかけても「なに、七海?」と返してくるのだ。
    正直なところ、片想い中の相手に名前を呼ばれることは嬉しかった。そして、自分が好きな人の名前を声にすることを恥ずかしがっている自覚も持っていた。
    いつもなら、名前を呼ばなくても呼び返してくれるのに。
    「はいばら」
    もう一度、一文字ずつゆっくりと、灰原の名前を声にする。しかし、何も返ってはこず、自分にできることは何もないのだと突きつけられるだけだった。
    どのくらい灰原の寝顔を眺めていたのかわからない。突然、病室のドアが開き、よく見知った人物が入ってきた。
    「七海」
    「家入さん」
    「お前まだいたのか」
    そう言われて時計を確認すると、高専へ戻らなければならない時間を随分と過ぎていた。
    「携帯切ってたのか?先生が探してたぞ」
    「病院なので、一応」
    「変なこと真面目だよね、お前」
    小さく笑った家入は慣れた手つきでタバコの箱とライターを取り出したが、咎めると平謝りしてポケットへ仕舞った。
    「どう、調子は?」
    「昨日から特に変わっていません」
    外傷自体は反転術式を施すほどでないと昨日医者が言っていた。CTや脳波も特に異常は見られなかったと、病室へ入る前に看護師が教えてくれた。
    「ただ眠っている、と」
    「そう」
    「あの、灰原はどんな状態なんでしょうか?」
    「焦るなって。ちゃんと診るから」
    ベッドの側に腰掛けた家入は灰原をじっと凝視した。
    医学的に異常が見当たらないとすれば、やはり昨日の呪符の影響だろう。術式によるダメージの回復が追いついていないだけなら、反転術式でなんとかなるかもしれない。しかし、そうでないのなら、解呪をしないと灰原はおそらく目覚めない。そもそも、解呪が可能かどうかも分からない。静かに眠る灰原と感情の読みにくい家入の横顔を交互に見ていると、不安ばかりがじわじわと込み上げてくる。
    「なるほど」
    「どうでしたか?」
    ゆっくりと顔を上げた家入は表情をふっと綻ばせた。
    「相手の術式は灰原の身体には残ってない」
    椅子から立ち上がった家入は小さく伸びをしてから、ポケットの中身を取り出した。
    「呪力の消費量が多かったみたいだから眠りは深いけど、ほとんど回復してるよ」
    「つまり、」
    「遠くないうちに目は覚めるってこと」
    「そうですか」
    家入の言葉に強張っていた身体から力が抜けていく。一つしかない椅子を空けてもらっていて、内心安堵した。
    「まあ、ちょっと相手の残穢が残ってるから、呪力の流れが乱されて時間がかかってるのかもしれないね」
    「残穢が」
    痕跡があるのなら上手くいけば呪詛師を見つけることができるかもしれない。灰原をこんな目に合わせた人間を、自分の手で捕まえられるかもしれない。そう思うと、腹の底が沸々と煮えたぎってくる。だが、家入に思いきり額を弾かれ、七海は小さく呻いた。
    「わかってると思うけど、これはもうお前らの手に余る案件になってる」
    「……はい」
    「とりあえず、さっさと帰って先生にこのこと伝えといて。私がここへ来た理由が灰原の調子を見るだけじゃないってこと、お前ならわかってただろ?」
    正直、呪詛師の痕跡を見つけるなんてことまで頭は回っていなかった。目の前の灰原のことでいっぱいいっぱいで、何もできない自分に憤ってばかりだった。
    黙ったまま頷くと、家入はもう一度指先で額を弾いてきた。
    「七海もそんな顔するんだな」
    悪戯っぽく笑った家入は「もう限界」とタバコを咥えて病室をあとにした。
    一体自分はどんな顔をしていたのだろう。しかし、再び灰原と二人きりになった部屋で、それを確かめるすべはもうない。
    ひとまず、高専へ帰って家入が診たことを伝えることが先決だとわかっているが、灰原のそばから離れることがもどかしい。自分には何もできないというのに。
    灰原の寝顔を見つめながら、七海はぼんやりと思考を巡らせた。
    灰原の容体を知れた途端ホッと気が抜けて、呪詛師の痕跡があると分かったら急に怒りが込み上げて。いつもなら自分の感情をもっと上手く制御できていたと思う。だが、灰原のことになるとそうもいかなかった。この半年の間で灰原の存在が自分にとってどれほど大きいものになっていたのかも、改めて実感させられた。
    任務の面で反省しなければならないことも直さなければならないことも多い。個人的な面でも変わりたい部分がたくさんある。
    これから先も、灰原と二人でやっていくために。灰原の力になれるように。そして、叶うなら灰原の特別な存在になれるように。
    「はいばら」
    灰原の手のひらを両手で包み込み、祈るように名前を呼んだ。
    すると、その時。指先がぴくりと動いたように感じた。
    「灰原?」
    「……ん、」
    手のひらをぎゅうっと握り返すと、灰原の口元から小さな声が漏れた。
    「灰原っ」
    伏せられていたまつ毛が微かに震え、瞼の下から黒い瞳が現れる。黒い瞳はぼんやりと空中を眺めていたが、声に気がついたのかゆっくりと顔をこちらへ向けた。
    「よかった、起きたんだな。本当によかった」
    灰原の意識がなかったのは一日にも満たない。しかし、目の前で正体不明の術式を食らい、自分の腕の中で意識を失うなんてことが起きたのだから、不安はこれまでにないほど大きかったのだ。
    ぼうっとしていた灰原の表情が少しずつはっきりしてくる。ぱちぱちと瞬きを繰り返し、辺りを窺っているようだ。
    「気分はどうだ?頭痛くないか?」
    一通り検査は受けているが、後から何か症状が表れるかもしれない。少し寝癖の付いた頭へそっと手のひらを沿えると、灰原は顔を小さく横へ振った。
    「わかった。でも、もし少しでもおかしいと思ったらちゃんと言ってくれ」
    そういえばこんなふうに灰原に触れるのは初めてだったと、思っていたよりも柔らかい黒髪の感触に内心落ち着かなくなる。悟られないように手を引くと、灰原は黙ったまま頷いた。
    「お腹空いてるだろ?何か食べる物……いや、とりあえず先生たちへ連絡した方がいいな。食べたい物があれば買っておくよ。何がいい?外のコンビニならいつものおにぎりも置いてると思うが」
    どうやら思っているよりも自分は動転しているらしい。いつもならこんなペラペラと話さないというのに、頭に浮かんだことがそのまま口に出てしまう。
    そのせいか、灰原の様子にきちんと気を配ることが出来ていなかった。
    「あの、」
    何かが、引っかかる。
    おずおずと口を開いた灰原の姿に、七海はやっと違和感を覚えた。
    「ここ病院ですか?」
    「そうだよ。いつも世話になってるところだろう」
    「いつも……」
    この病院にお世話になったのは一度や二度ではない。記憶が混乱しているにしても、まるで初めて来た場所のように灰原は室内を見渡している。
    それに、出会ってから今まで、灰原に敬語を使われたことはない。灰原は案外礼節はしっかりしてるが、同級生の自分に対してだけは常に砕けて接してくれていた。
    得体のしれない不安が、じわじわと腹の底からせり上がってくる。それは続いた灰原の言葉でより一層強まった。
    「僕、なんでここにいるのかよく覚えてなくて」
    「昨日の任務で倒れたんだよ。何かの術式を受けて」
    「任務?」
    まさか、そんなことがあるのか。しかし、不安はある一つの可能性に繋がっていく。
    「灰原。私のこと、わかるか?」
    きょとんと瞳を丸くした灰原は、気まずそうに笑って口を開いた。
    「えっと、ごめんなさい。僕、人の顔覚えるの得意なはずなんだけど……どこでお会いしましたっけ?」
    「ちょっと待ってくれっ」
    思わずそう詰め寄ってしまったが、一瞬驚いた灰原はまた困ったような笑みを浮かべるだけだ。
    足元がぐらつく感覚に襲われる。本当にこんなことが起こるなんて。だが、灰原がタチの悪い冗談を言うような人間でないことは自分が一番分かっている。
    友達でも同級生でも仲間でもない、見ず知らずの人間へ向ける笑顔に、胸が痛いくらいに締め付けられる。しかし、灰原が浮かべる微笑みの中に戸惑いと不安が滲んでいることに気がついた七海は、できる限り平静を装って言葉を返した。
    「……すまない。私は七海建人。きみと同じ、呪いが祓える人間なんだ」
    「えっ!僕と、同じ……!」
    灰原の表情がパァッと明るくなる。
    それがいつも向けられていた笑顔と近く見えて、ほんの少しだけ胸の痛みが和らいだように感じた。


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