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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    3月インテの七灰原稿進捗です。
    生存if30代後半の七灰が古民家で暮らすお話。
    暮らし始めたところまで書けたので、とりあえず暮らすぞーってなった部分までをあげました。
    生きるってどういうことかな、ということを多少真面目に考えて書いたつもりですが上手くまとめられているかは分かりません。七灰はいちゃいちゃしてます。
    推敲まだなのでいろいろとご了承ください。
    続き頑張ります。

    3月七灰原稿進捗②.




    呪術師という職業は一応国家公務員に分類されている。高専生時代から給料が支払われるのはその為で、呪術師のみが加入できる特別共済組合という制度もあり、規定年数納税すれば年金も支給されるし、高専所属であれば所属年数に応じた金額の退職金も支払われる。
    「うーん。まあ、別にお金に困ってるわけじゃないし、退職金のこととかそんな気にしなくてもいいよねぇ」
    デスクトップディスプレイに表示された細かな文字列を追っていた灰原は、椅子の背にもたれて小さく言葉を漏らした。
    真っ黒にも程があるブラックな呪術師という職業も、書類上だけ見ると就業規則や福利厚生など案外きっちりと定まっている。給料も一般的な国家公務員とは比較にならないくらいだ。(もちろん、呪術師の仕事内容を考えると当然のことだと思う)
    ちなみに、高専所属の呪術師に定年という制度はない。いつでも人手不足な業界であり、高齢であっても呪術師としての実力が衰えるとは限らないからだ。ただ、実情としては、一般的に定年と言われる歳まで生きている術師の割合の方が低いらしい。その理由は言わずもがなだろう。
    善は急げということで、とりあえず就業規則でも確認してみようと任務後直帰せずに高専の事務室へ足を運んだはいいが、特別何か新しいことが分かったわけでも、良い案が浮かんでくるわけでもない。自分が出勤する時もぐっすり眠っていた七海には『溜まった書類片付けて帰るから、ご飯先に食べてて!』とメッセージを送っておいた。本当は非番の七海が手間暇かけて作る夕食を一緒に食べたかったが仕方がない。
    「ん~、どうすればいいのかなぁ」
    金銭面では困っていないから、七海が言うように隠居して田舎でのんびり暮らしたとしても生活費という点では何も心配もない。仮に呪術師以外の仕事に就くことも、自分たちならおそらく可能だろう。
    ただ、それでは何か違うと思うのだ。
    七海は優しい。目の前で困っている人を放っておくことはできない。手の届く範囲で誰かが傷付くと分かったら動かずにはいられない。自分の役割をそう易々と背中から下ろすことなんて出来ない。
    もし仮に高専を辞めたとしても、呪いを見つけたらきっと七海は祓うだろう。仕事でもないのに、給料も発生しないのに。七海は一生懸命、自分の力を奮うだろう。
    それが、七海建人というひと。一番長く、一番近くで七海を見ているから分かるのだ。
    呪術師という仕事が文字通り命も心も削ることを、自分たちは身をもって知っている。それでも、自分たちは呪術師という仕事に誇りを持っている。誰かの為に力を尽くすことへのやりがいも、誰かから貰う「ありがとう」の言葉の優しさも知っている。だから、隠居なんて本当のところではできないだろう。
    それに現実問題、一級術師の七海をそう簡単に辞めさせることはないと思う。自分たちが高専へ入学した二十数年前より術師全体の数は増えたとはいえ、一級術師の比率まだまだ少ない。準一級の自分から見ても七海の任務スケジュールはなかなか過酷で、複数の現場を数日から一週間ほどかけて回る短期の出張のようなものも毎月のようにある。
    現実的にできそうなのは、閑散期に数か月まとめて有休を取ってのバカンスくらいか。いっそのこと、冥冥のようにフリーランスになるのも一つの手かもしれない。家入の反転術式が全額自費になるのは少々痛いが。
    「う~ん……」
    「どうしたんですか?」
    腕を組んで唸り声を上げていると、不意に声をかけれた。振り返ると、そこにはいつものように疲れきった顔で何冊かのファイルを抱える伊地知が佇んでいた。
    「あ~、伊地知お疲れぇ」
    「お疲れ様です。珍しいですね、灰原さんがここにいるなんて。それに、今日は直帰できるスケジュールのはずだったと思うんですが……」
    流石伊地知だ。担当でない術師のスケジュールまで把握しているなんて、時期補助監督のトップと言われているのは伊達じゃない。
    「ちょっと調べ物があってさぁ」
    「調べ物、ですか?」
    不思議そうな顔をした伊地知がディスプレイへ目をやった。
    「これは高専の就業規則ですね。こっちは呪術師全体の」
    はっ、と何かを悟った伊地知の顔がじわじわと不安な色に染まっていく。
    「まさか……お辞めになる、とか」
    「あー、えっとね、まあ、いろいろ考え中って言うか」
    「困りますっ!最近落ち着いてきたとはいえ、一級と準一級に揃って辞められたらまたスケジュール調整が大変なことに」
    誰も七海も一緒になんて言っていないのに、この察しの良さも流石と言うべきだろう。まだ決定していない未来を思い浮かべたのか、伊地知は胃の辺りを抑えている。
    「大丈夫だよ!呪術師を辞めるってのはたぶんないから!」
    それを聞いた伊地知が、力が抜けたように隣の椅子へ腰を下ろす。驚かせてごめんねと声をかけると伊地知は力なく微笑んだ。
    「でも、何故こんなものを?」
    「ん〜……今よりもっと楽しく生きるにはどうすればいいのかなぁ、って思って」
    「はあ……?」
    伊地知はよく分からないといった様子で首を傾げている。確かに、急にこんなことを言われても困るだろう。自分でも、どうすることがふたりに取って一番良いのかまだ上手くイメージはできていない。
    これ以上ここにいても新しい考えは浮かんでこないだろう。一人で突っ走るつもりはないし、帰って七海と相談してみよう。そう思い、灰原は細かな文字が並ぶウィンドウを閉じた。
    「伊地知はまだ仕事?」
    「はい」
    「大変だね」
    「いえ、今日は雑務を片付ける程度なので」
    「僕からしたらそれが大変なんだって」
    伊地知の事務処理能力は補助監督内どころか呪術師界随一だ。日々のスケジュール調整の他にも、術師が閲覧する任務詳細が記載されている依頼書も大半が伊地知が作成しているし、半期に一度提出している上層部への報告書などの重要書類も数年前から伊地知の担当になったらしい。きっと、知らないだけでもっとたくさんの仕事を抱えているのだろう。
    余計な心配をかけたお詫びに外の自販機でホットコーヒーを買って戻ると、伊地知は手にしていたファイルを開いてパソコンへ向かっていた。
    「はい。甘いのにしといた」
    「ありがとうございます」
    自分の分のコーラを飲みながら、なんの気無しに開きっぱなしのファイルへ目をやる。挟まっていた書類はよく見る報告書ではなく、何人もの術師の名前が載った名簿のようなものだった。
    「なにこれ?」
    「ああ、地方への長期出向の候補者リストです」
    「へー、そんなのあるんだ」
    「ええ」
    「下のも見てもいい?」
    「はい。でも、最近決定した案件でして。見た内容は一応オフレコでお願いします」
    「オッケー」
    伊地知からファイルを受け取って書類をパラパラとめくる。任務内容としては、高専と関わりのある地方の寺社と連携してその地域、特にアクセスの悪い山間部を中心に呪霊が発生しそうな場所を事前に発見し、経過を観察、必要とあらば祓う、というものだ。
    呪霊の発見や経過観察は主に窓が担う業務ではあるが、人口の少ない地方となると必然的に窓の数も少なく、一般人の被害が出るまで呪霊が発見されないケースも多い。地方となると移動にも時間を要するし、術師が現場へ到着する間に呪霊が多くの人間を殺して等級が事前調査よりも上がっていた、ということも案外珍しくない。
    「なるほどねぇ。強くなる前に祓っちゃえば、結果的にこっちの被害も最小限で済むってことか」
    「はい。ここ数年で術師全体の人数は確実に増えていますし、こういった方法も可能かと」
    「確かに。数の多い準一級術師までで祓えたら、数の少ない一級の稼働率も抑えられるもんね」
    これは呪術師全体にとっても良い案かもしれない。もちろん、地方へ出向というデメリットはあるわけで、それを受け入れる術師がどの程度いるのかは分からないが。
    その時、ふとある考えが灰原の頭に浮かんだ。
    パラパラと書類をめくっていくと出向先のリストも載っていた。全く知らない地名もあれば、見覚えのある地名もある。
    少しの間考え込んだ灰原は、キーボードを叩く伊地知へ声をかけた。
    「あのさ、このリストって二級ばっかりだけど、それって単独での活動が許されてるから載せてるってことだよね?」
    「はい、そうですよ」
    「じゃあさ、準一級の僕が出向するのも別に問題ないってことだよね?」
    え?とこちらを向いた伊地知が目を丸くした。
    「……問題自体はないと思いますが、そもそも任務内容としては三級でも事足りるもので」
    「じゃあ担当地域広げてくれてもいいし」
    「いや、その、」
    また伊地知の胃が荒れてしまうかもしれない。そんなことが頭の片隅に浮かんだが、どうしてもここで引くことはできないと思った。
    これはきっと、またとないチャンスだ。七海と二人で楽しく生きるための新しい一歩になる。そう、不思議な確信を持ったからだ。
    「オフレコの案件ならさ、最初に準一級の僕が前例を作ってからの方が後々他の人にも繋ぎやすくなると思うんだよね。多分、実際にやってみないと見えてこない問題もありそうだし、僕くらいの年代の人間を使った方が臨機応変に対処できるんじゃないかなって」
    全て本気で思っていることだが、自分の願望を叶えるための下心もそれなりに混じっている。きっと伊地知も薄々気がついているだろう。
    「確かにそれはそうだとは思いますが……その、七海さんは」
    「うん、わかってる。一級を地方に送るのはいろいろデメリットもあるもんね。そこも含めて、僕も七海といろいろ相談しなきゃって思ってるよ」
    「……分かりました。一度他の者と相談してみます」
    「ありがとう伊地知!」
    「まあ、正直なところ、地方への長期出向なんてきっと誰もやりたがらないだろうし、前例ができればもしかして多少受け入れもよくなるかなと、私もほんのちょっとだけ期待したところもあるので」
    困ったように眉を下げていた伊地知がほんの少し口元を綻ばせる。無理を言った自覚がある手前、ちょっとと言わず思い切り使ってもらっても全く構わない。
    「全然いいよ!僕のこといっぱい使っちゃってよ!」
    「ただ、可能かどうかは分からないですよ」
    「うん!でも伊地知なら大丈夫って思ってるから!」
    あまりプレッシャーをかけないでください、と力なく笑った伊地知の隣に座り直して、パソコンの電源を付けた。
    知っている地名はあっても、実際にどんな所かは分からない。せっかくなら出向地リストに載っている場所を調べて帰ろう。その方がきっと、七海にも真剣さが伝わる。そう思い、プリントアウトしたいくつかの資料を手に帰路に着いた。



    「ただいまー!」
    玄関を開けてバタバタと洗面所へ向かい、手洗いうがいを済ませる。そのままキッチンへ続く引き戸を開けると、エプロンをつけた七海がコンロで鍋を温めていた。
    「おかえり。遅かったな」
    「ただいま!いろいろやってたら時間経ってた!」
    鍋から漂ういい匂いに釣られるようにして七海の方へ近づいていく。すると、軽く腰を引き寄せられて、ちゅっ、と触れるだけのキスが唇に訪れた。
    「上着脱いでおいで。すぐ準備できるから」
    帰宅した時のこんなやり取りはもう習慣のようなものだが、七海の甘ったるい眼差しには今も少しくすぐったくなってしまう。
    どうせなら今日はちょっと驚かせてみよう。鞄に入っている『とびきり』の前振りだ。そんなことを思い、ぎゅっとくっ付いてから、いつもはしないお返しのキスをお見舞いしてみた。驚いた顔をしていた七海が心底嬉しそうに頬を綻ばせていく。作戦は成功だ。
    「うん!早く脱いでくる!」
    パタパタと寝室へ向かい、上着を掛けて鞄から資料の挟まったファイルを取り出した。
    自分の行動で七海を喜ばせることができて嬉しい。この話をしたら、七海はどんな顔をするだろう。さっきみたいな顔してくれるかな。してくれたら、いいな。
    「あのさ、ちょっとこれ見てくれない?」
    七海特製のクリームシチューをしっかり堪能したあと。
    ソファに移動して、七海が容れてくれた食後のお茶を飲み始めた時、持って帰ってきた資料を七海に手渡した。
    「これは……?」
    黙ったまま待っていると、パラパラと資料をめくった七海が、なるほど、と小さくこぼす。
    「理に適っているな。上級呪霊の発生が東京などの人口密集に偏っているせいで、地方の、特に過疎地域はどうしても後回しになりがちだ。その結果、呪霊が育つ時間を与えることになり、被害が大きくなってしまった事例も少なくない」
    淡々と資料を読み取っていた七海の瞳に、微かに悲しみの色が混じる。七海は灰原の左頬をそっと手のひらで包み込んで、小さく眉を下げて微笑んだ。
    「良い案だな。伊地知くん達が考えたのか?」
    「そうみたい。すごいよね」
    「ああ。でも、どうして雄がこれを?」
    まだ正式に発表されていないだろう、と七海が怪訝そうに言う。
    「あのね、僕これやってみたいな、って思って」
    言葉の意味を理解した七海の瞳が丸くなる。
    「これは二級術師が対象だろ?」
    「うん。でも前例がないし、まずは準一級でそれなりに年齢いってる僕が最初にやってみて、後輩の子に繋げられたらどうかなって。僕、人見知りしないし、多分それなりに上手くコミュニケーション取れると思うんだ」
    この言葉に嘘はない。それは七海にも伝わっているはずだ。
    「まあ、とりあえずは関東近郊がいいかなとは思ってるんだけど、もし許可が降りたら、建人、一緒に来てくれない?」
    しかし、平静に話していたつもりだったが、名前を口にした時、少し声が震えてしまった。正直、断られるとは思っていない。それでも、人生の岐路になるかもしれない提案をしているのだ。緊張しないわけない。そんな心の内も全部、七海に伝わっているだろう。
    何かを悟った七海がもう一度資料へ視線を落とした。パラパラと資料をめくり、一番最後に挟んでいた書類に目を通す。それは、出向先の中で気になった地域の一つ。高原地帯の小さな村の移住者向けパンフレットだ。
    「……その、自惚れだったらすまない。雄のことを馬鹿にするとか、侮ってるとかでもないんだが……もしかして、昨日私が言ったことを、」
    顔を上げた七海が辿々しく言葉を紡ぐ。申し訳なさそうな、けれど嬉しさが滲み出ているような、複雑な顔をしている。それを見て、伝わってよかったと、内心安堵した。
    七海は必要以上に背負い込み過ぎる。もし仮に「建人がそうしたいと言ったから」なんてストレートに告げたとしたら、七海は心の片隅でずっと後ろめたさを持ち続けるのではないかと思った。だから、あくまでも自分が考えて、選んで、提案しているのだと伝えたかった。
    書類を持つ七海の手のひらの上に、そっと自分の手のひらを重ねる。たったそれだけで、七海がホッとしたように目元を緩めたことが無性に嬉しかった。
    「あのね、僕、建人と一緒にいられるだけで楽しくて、すごく幸せで……だから、どんなふうに生きていこうとか深く考えことなかったんだ」
    七海とふたりで生きている。そんな些細な事実を、あの夏の日からずっと、奇跡のように感じていた。
    「でも、それってちょっと無責任だったなぁ、って思ったんだ」
    今まで七海と過ごしてきた日々で、決断しなければならなかったことはたくさんある。もちろん、その全てを七海に任せてきたつもりはない。けれど、浅いところで満足していた可能性はなかったとは言い切れない。もし、もっと貪欲に踏み込んで考えることができていたとしたら。生きていく上での選択肢が今よりももっと広がっていたかもしれないと、そんなことを思ったのだ。
    「僕って直感とか思いつきとかで動いちゃうタイプじゃん。でも、建人は僕とは逆に、考えて考えて考え抜くでしょ?もしかしたら、僕が建人の隣でのんびりしてる時も建人はいろいろ考えてたのかなぁ、って思ったらなんか申し訳なくなっちゃって。まあ、急にびっくりするくらい恥ずかしいこと言う時もあるからバランス取れてるのかもだけど」
    昨日みたいさ。そう指摘すると、七海は少し考えてから苦笑いを浮かべた。
    「だって、あんまり言葉にすると重いだろ」
    「いまさらじゃん」
    「それはそうかもしれないが」
    「それに、僕だっておんなじこと思ってるし」
    立ち上がって、困ったように眉を下げる七海の頭をぎゅっと胸に抱き込む。ゆっくりと腰に回った腕に引き寄せられて、そのまま七海の膝の上へ座った。
    「雄は私に甘すぎじゃないか」
    「それ、そのまま返すからね」
    ふわふわとした金色の髪に指を通していると、ぐりぐりと首筋に顔を埋めてられて少しくすぐったくなる。けれど、いつまで経っても下手くそな甘え方に、たまらなく愛おしさが込み上げた。
    「僕ね、ずっと建人と一緒にいたいんだ」
    「私も、ずっと雄と一緒にいたいよ」
    腕を緩めて、鼻先が触れ合う距離で見つめ合いながら、ぽそぽそと言葉を交わす。
    「でね、建人とふたりでいろんなこと相談して、いろんなことチャレンジして、建人とふたりでもっと楽しく生きていきたいなぁ、って思ったんだ。まあ、まだ全然具体的に考えれてないんだけど」
    「そんなことない。私は頭で考えてばかりだけど、雄はこうしてすぐ行動に移しただろ」
    七海はふたりの間でくしゃりと歪んでしまった村のパンフレットを取り出した。
    「……へぇ、この辺りは随分標高が高いんだな。夏もカラッとしていて過ごしやすいのは魅力的だ。冬が寒いのは、うん、なんとかなるか。他には……なるほど、やっぱり近隣地域と同じでキャベツが有名らしいな、あと蕎麦も栽培しているみたいだ。趣味程度で蕎麦打ちってできるんだろうか」
    「やってみたら案外できちゃうかもよ」
    この村を選んだのも直感だったがどうやら七海は気に入ったらしい。新しい絵本を読む子どもみたいにパンフレットを読む七海の姿に、胸がじわりとあたたかくなっていく。
    「建人」
    「なんだ?」
    「さっきの返事、くれる?」
    はっ、とした七海が気恥ずかしそうに口元を引き締めた。けれど、喜びが隠しきれていなくて、少し笑ってしまった。
    「もちろん、一緒に行くよ。ふたりで楽しくやっていこう」
    「うん!」
    大きく頷き返すと、頬を包み込まれて、甘いあまいキスが唇に訪れた。

    それから、ベットに入ったあと。
    誘ったのはこっちだったけれど、繋がる前からよくわからなくなるまでトロトロにさせられて、次に気がついた時には幸せそうに眠る七海の腕の中だった。



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    生きるってどういうことかな、ということを多少真面目に考えて書いたつもりですが上手くまとめられているかは分かりません。七灰はいちゃいちゃしてます。
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    呪術師という職業は一応国家公務員に分類されている。高専生時代から給料が支払われるのはその為で、呪術師のみが加入できる特別共済組合という制度もあり、規定年数納税すれば年金も支給されるし、高専所属であれば所属年数に応じた金額の退職金も支払われる。
    「うーん。まあ、別にお金に困ってるわけじゃないし、退職金のこととかそんな気にしなくてもいいよねぇ」
    デスクトップディスプレイに表示された細かな文字列を追っていた灰原は、椅子の背にもたれて小さく言葉を漏らした。
    真っ黒にも程があるブラックな呪術師という職業も、書類上だけ見ると就業規則や福利厚生など案外きっちりと定まっている。給料も一般的な国家公務員とは比較にならないくらいだ。(もちろん、呪術師の仕事内容を考えると当然のことだと思う)
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