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    udukihp

    進捗とか 進捗とか 進捗とかです
    時折完結したお話も載せます
    HL、もしくは夢の進捗を晒すことが多いです

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    鍾蛍 ぼんじんいちねんめの鍾離先生に蛍ちゃんが恋を教える話 プロローグ

    ##gnsn進捗

    「すまない、蛍」
     そっと、吐き出された言葉が、耳朶を打つ。その瞬間、更に続けて口にしようとしていた言葉や感情、あれそれが、喉の奥に詰まってしまうような心地がした。
     言わなければ良かった、と思う。言わなければ関係性を崩すことはなかった。言わなければ、謝らせることなんて、なかった。自分の感情と言葉が、大切な人を曇らせるものになるだなんて、思い知らされることだって、無かっただろう。
     何か言わなければ。冗談だとか、そういう風に言えば良い。それだけでこの場の雰囲気は払拭される。あわよくば、何も言わなかった時のように戻れるかもしれない。そう思う。――思うのに、言葉が出てこない。喉の奥がぎゅうっと縮こまって、言葉が形にならない。
     蛍はじっと鍾離を見つめる。金色の、琥珀のような瞳が、微かに伏せられているのが見えた。長い睫毛も、すっと通った鼻筋も、何もかも綺麗だな、と思う。月の光を凝縮して形にしたなら、こうなっただろうか。体を彩る全ての線が銀を帯びているように、見える。
     鍾離を眩しく思い始めたのは、いつのことだろうか。あまりきちんと覚えて居ない。ただ、綺麗な人だと思った。見た目もさながら、その生き方と、精神性を、美しく思った。まるで硬質な宝石のような表情が、蛍と会うと綻ぶように笑う所を見るのが、好きだと思った。名前を呼ぶ声が好きで、手を引くように差し伸べられる指先を愛おしく思った。
     だから、そう、伝えてしまった。蛍だけに優しくて、蛍だけを特別と思って欲しいと思ってしまった。
    「い――いや、だ、大丈夫だよ」
     必死になって喉を引き絞り、それだけ口にする。「鍾離先生が謝ることじゃないよ。ごめんね。変なことを言って」
     さっきまで、必死に願っても一切出てこなかった言葉が、怒濤のようにこぼれ落ちてくる。ああ、違う。変なことじゃない。私の本当の、本気の、気持ちだった。何を言っているんだろう。言いながら泣きそうになってくる。喉の奥が熱い。呻くような音が零れる前に、この場から去るべきだろう。困惑させたいわけでも、困らせたいわけでも、無いのだから。
    「あの、忘れ――」
    「ふむ。すまない、一つ誤解をさせているようだな」
    「え――」
    「俺は凡人一年目……つまりは赤子と言っても過言ではないだろう?」
     赤子。鍾離の口から放たれた言葉に、喉の奥の熱がすっと冷めていくような心地がする。赤子。赤子? 誰が。
     冗談だろうか。そっと視線を合わせるが、鍾離は本気も本気の顔をしていた。
    「神としての責務も、生き方も知っている。感情の置き方も。だが、恋――特に凡人の恋というものを、俺はよく知り得ない。わからない、と言った方が良いだろうか。赤子だからな」
    「え。うん。……え?」
    「もちろん、姿を変え、一般人として世界に潜り込んだこともあるが、それも神としての役割のため、という方が近かった。つまり、俺は凡人としては素人も素人だ」
    「そ、そう。そっか」
    「蛍からの好意を嬉しく思う反面、俺はそれに対してどのように応えて行けば良いのかがわからないんだ」
     滔々と紡がれる言葉だった。言葉を返す暇もなく、鍾離は腕を組んで微かに眉根を寄せる。誰が見てもそうとわかるくらいに、困った顔――だった。
    「蛍。お前が俺に教えてくれないか?」
    「え?」
    「凡人はどのようにして恋に落ち、どのようにして互いの心を育むのかを」
    「――え」
    「今、俺が何を返し、応えてもそれは嘘にしかならないだろう。お前が俺に教えてくれてこそ、俺は本当の意味で言葉を返すことが出来るだろうから」
    「え、えっと、その、うん……、うん?」
    「旅の同行の契約を行っている以上、契約者であるお前は俺を正しく導く必要性がある。そうだろう?」
    「そうな……そ、そうなのかな?」
    「そうだ」
     鍾離はゆっくりと頷いた。まるで当然のような物言いで、恐らく本気でそのように思っているであろうことだけは、視線からも表情からも感じ取れた。
     ――そ、そういうもの、なのだろうか。なんとなく違うような気もするが、立て続けに紡がれた言葉の意味、それらを一つ一つ精査するには、時間も足りないし余裕も足りない。
     鍾離先生は赤ちゃん。だから、旅の同行を頼んだ私が、契約者である以上、凡人一年生の鍾離先生を正しく導く必要性がある――あるのか? 本当に?
    「蛍」
    「う、うん。何?」
    「宜しく頼めるだろうか」
    「え、ええっと」
     じっと見つめられる。う、と小さく顎を引いて、蛍は視線を逸らした。
    「ま、……任せて……、……?」
     頼まれると断れない性質がまさかことここに至って発揮されることになろうとは思わなかった。おかしい。そもそも蛍だって、初めて――初めて、空以外の相手をここまで大事に思ったのだ。いわば初心者、凡人一年目の鍾離と変わりないほどの経験しかしていない。どんぐりが背比べしてるようなものである。
    「――ああ、ありがとう、蛍」
     細やかな声が耳朶を打つ。優しい声だった。ちょっとだけずるいと思う。そんな声で名前を呼ばれてしまったら、言い返す言葉も、やっぱり無理です、と翻す言葉も、何も出てこなくなってしまう。
     どうすればいいのだろう。何をもって教えれば良いのだ。夢かもしれないと一瞬逃避しかけたが、それにしてはあまりにも現実味がありすぎる。違う意味で泣きそうだ。
     好意を伝えて、こんなことになるなんて、誰が思うだろう。蛍は思わなかった。憎々しさを視線に滲ませて、蛍は鍾離をじっと見る。鍾離は蛍と視線が合うと、花が綻ぶように表情を崩した。
     本当にずるい人だった。
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    udukihp

    DONEリクエストありがとうございました~!もの凄く楽しく書けました!少しでも楽しんでいただけたならこれ以上に嬉しいことはありません。ネイチャやおじたんのお話もいつか機会があれば是非書かせてください……!!!!重ね重ね、ありがとうございました!
    ラギ監 今日は朝からついていなかった。
     どうしてか携帯のアラームが鳴らなくて、折角の休日なのに寝坊をしてしまった。今日は賢者の島に広がる市街地へ遊びに行くつもりで、前々から色々と予定を立てていたのに、である。
     朝から時間をロスしてしまったので、いくつかの予定は諦めて、それでも折角だし買い物くらいは、と少しだけおしゃれをして外へ出たのが運の尽きだろう。
     本屋へ行って、好きな作者の新刊を買おうとするものの、売り切れていたり。美味しそうなケーキ屋さんがあったので入ってみたら、目の前で目当てにしていたガトーが売り切れてしまったり。靴擦れが起きて慌てて絆創膏を購入する羽目になったり、散々だった。
     それだけでは飽き足らず、帰り道、前日の雨もあり、ぬかるんだ地面は、簡単に足を取った。あっと思った時には水たまりへ自らダイブしてしまい、衣類が汚れた。バイトして手に入れた一張羅が見るも無惨な姿になってしまって、それだけでもう心がハンマーで殴られたかのようにベコベコになってしまった。
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