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    三月です

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    三月です

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    がとうるの高校生時代のクリスマスのお話。

    ##がとうる

    浮かれた街とファミレスと「どこもかしこもクリスマス一色だね」
     呆れたように伊月は呟いた。
     どこを見てもけばけばしいほどに飾り立てられている。
     今日はクリスマス当日で、朝起きたときからずっとその話題で持ちきりだった。浮かれた空気にあてられた奴らが街にはあふれていて、俺はもううんざりしていた。
    「そうだな」
     俺は興味なく相槌を打った。
    「ガッちゃんは帰ったらケーキを食べたりするのか?」
    「するわけねーだろ。クリスマスだからって何にも変わらねえよ」
     クリスマスだから、等といってやるべきことを先延ばしにする奴らは愚かだ。アイツらはいつもやるべきことから目を背けたいのだ。だから事あるごとに遊びほうけようとする。
     そんなバカ共と俺は違う。どんな日であろうとやらなきゃなんねえことをやる。
     そう心の中で自分を律しつつ、冗談のつもりで伊月に聞き返した。
    「伊月、お前こそクリスマスだからって遊ぶ気か?」
    「……いや、そんなことはないんだけれど」
    「けど?」
     思いのほか歯切れの悪い返事が返ってきて、首をかしげる。
    「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
     こっちを見ないまま伊月はそう言った。

     そこで会話は途切れた。俺も伊月も黙ったまま歩みを進める。

     もうすぐ最寄り駅に着く。そこで伊月は家に帰るために電車に乗る。今日はそこでお別れだ。
     べつにこれが一生の別れになる、という訳じゃない。普段と何も変わらない。
     ちらりと伊月の顔を見た。どことなくいつもよりも寂しそうに見えた。
    「なあ、伊月」
     俺は歩くのを止めて伊月を呼んだ。「なんだい」と伊月は少し驚いた様子で振り返りこっちを見つめている。
    「この後って家で勉強すんだろ」
    「え?ああ。そのつもりだけど」
    「それって家でやる必要はねえよな?」
    「いや、そんなことはないよ」
     急にどうしたと不思議そうな表情でこちらを見つめてくる。
    「俺はさ、これから視察をしようと思ってるんだ」
    「視察?」
    「ああ、敵情視察だ。この時期は飲食業にとって稼ぎ時だ。どんな商品で勝負してるのか見ておいて損はねえ」
     いつも二人で行っているファミレスを指して俺は続ける。
    「お前も来いよ。まだ家に帰る必要はねえだろ?」
     一瞬、何を言われたか分からなかったようで伊月はきょとんした顔をした。けれど、すぐに笑ってこう言った。
    「ちょうど限定デザートが気になってたんだ」
     おう、と俺も笑って返事をした。
     そしたら混んでいるから急いだほういい、と伊月は俺の手を握って促す。
     先ほどまでの寂しそうな顔とは打って変わって嬉しそうな顔に見えた。

     街は相変わらず喧噪の中にあって、人々は浮かれ切っている。俺はそれをくだらねえと思う。
     けれどまあ、伊月と一緒になら、たまにはそれに乗っかるのも悪くねえかな。
     一瞬そんなことを考えた自分に驚きながら、俺たちは二人でファミレスに向かって駆け出した。
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