I'm yours.「そういえばさ、旦那の誕生日何するか決まった?」
麻里と夕食を摂り、食器を片して部屋に戻ったら祟り屋の射手君がベッドに座っていた。そういえばと話題を変える様に話し始めていたが彼には今日は今初めて会った。いつから居たんだろうか。招いた覚えもなく、玄関を通った気配なども感じなかった。麻里が居る為色々思う所はあれど施錠はキチンとしているのに。ヘラヘラと笑う彼が"こう"なのは今に始まった事ではないからもう何も言わないし聞かれた質問も置いておくとして、とりあえずいらっしゃいとだけ答えた。
会いたくてさあ、来ちゃった。と言う。帰宅すると扉の前で両手にポッ⚪︎ーとプ⚪︎ッツがギチギチに入ったコンビニ袋をぶら下げ、満面の笑みで射手君が待っていた日から1週間も経っていない、が神出鬼没でいつも予想の斜め上の言動をするのは射手君の常なので、それについても何も言わなかった。悪意がないから余計タチが悪いんだとKKが言っていたな。ちょっとわかる気がする。
何か飲む?と聞くとお構いなくと飲みかけの和歌コーラの缶を掲げた。どうぞと渡された新しい一本をお礼を言い有り難く受け取る。食後、しかも後は寝るだけの夕食後に甘いものは飲み物であっても罪悪感があるがその分満足度も高い。よく冷えていて美味しくて、射手君が勝手に部屋に入ってる事も水に流せてしまう。
頭の中のKKが、食い物に釣られるなと眉を吊り上げているが、友達がお土産片手に訪ねて来ただけど思えば、別におかしな事じゃないしと現金なことを考えた。
「そんでプレゼントだよプレゼント。旦那に渡すんでしょ?」
隣をぽんぽんと示されその通りにベッドへ腰掛けると、身を乗り出す様にして聞いてくる。近い。
「記念日の贈り物でしょ?裸にリボンで"プレゼントはボク"がいいと思うなぁ。俺なら飛び上がっちゃうくらい嬉しいね」
想像しているのか、ニコニコと笑ってとんでもなく恥ずかしい事を言ってきて思わずさっと体を腕で庇った。
「予行演習しよ♡はいバンザーイ♡」
「ぅわ!?何するの!」
突然服の裾にひんやりとした手を突っ込まれ飛び上がる。腰を掴まれあばらを撫でられ、ぞわぞわ鳥肌を立てながら胴辺りに当てていた手をそのまま押し付けそれ以上手が登ってこないように必死だ。しかしそれだけドタバタと体を動かし大きな声を出してもすぐ隣の部屋にいる麻里からは何の反応もない。
素肌を撫で回す手をガードしつつそれ以上やるなら帰って貰うよと強く言うとようやく手を離してくれた。
「やっぱ流されてくんないかー。残念」
「やめてよね…」
いいなあ、俺も誕生日に暁人欲しいなー。射手君が親に強請る子供みたいに、足をぶらぶらさせながらそう言う。そんな物みたいに、と突っ込もうとした所でコンコンとノックする音がして、そちらに顔を向けた。
「お兄ちゃんKKさんの誕生日だけど」
言いながらガチャリと麻里が扉を開ける。
「ま、麻里、これはその」
麻里は僕とKKがそう言う関係なのを知っている。知っているからベッドで射手君と2人並んで座っている事を知られるのはなんだか気まずい。
後ろめたい事などなく、KK以外に靡いたりしないと断言できるが、激しく動いてはだけた服と少し汗ばんだ体、怪しく見えてもしょうがないと手を待ったと言わんばかりに突き出し弁解をしそうになる。
「…首どうしたの?」
「えっ?」
しかし疑いや軽蔑の目を向けられる事なく首を傾げられる。示された首に手をやるとさらりとした感触。何かが結ばれている事に気づき端を摘んで引っ張ると簡単に解け、それがショッキングピンクの、サテン生地のリボンであるとわかった。
ついでにさっきまで自室のように寛いでいた射手君がいなくなってる事にも気づく。窓も開けず、ドアをくぐる事もなく。
やっぱり少し苦手かもしれない、でもあの不思議な強引さを何故か拒みきれずまた迎え入れてしまうんだろうな、と麻里と誰もいなくなった自分の隣を交互に見る。
「ふふーんそれでKKさんの事誘惑しようとしてるんだ?」
手を口に当て麻里がニヤニヤと笑う。カッと頬が熱くなり違うと言おうとして言わなかった。KKが好む料理と少し値の張るお酒を用意するのは決定事項だし用意もできていたけれど、贈り物としての決定打を決めかねていたからだ。何が欲しいと言っても特にないと帰ってきたため、望むものも分からない。大それたものを用意する時間もない。何せ誕生日はもうすぐそこなのだ。
あーうーと言葉にならないうめきを上げ、少ししてから
「…喜んで貰えると思う?」
と消えそうな声で言った。妹に聞く事じゃないよな。麻里、ごめん…。
かくして成り行きで決まったプレゼントは僕作戦は大成功だったと言えるだろう。
「ん、んん、けぇけ、くすぐったい…」
ちゅ、ちゅっと部屋にキスをする音と僕のはぁはぁと息の上がる声がずっとしている。
KKの好みのお酒に合う料理をテーブルに並べ、飲みすぎないでという釘も今日は刺さず、お酌までした。機嫌よく飲食し深く酔う前にと一旦入浴に向かうKKに、背中を流そうかと言おうとしたしKKもそうしてほしかったのかチラリとこちらを窺っていたけれど、そうすればお風呂で始まってしまうのは明白だったため、着替えを出しておくとだけ言っておいた。
KKの風呂は男の自分からしても早い。すぐに交代し体の準備をする。すれ違い様に寒くなったからよくあったまれよとKKは言っていたが、その目は僕が欲しくてたまらないと訴えていて。
体を洗いながら自分でも体の昂りを感じていた。きっと同じ目で僕もKKを見ていただろうから。
着替えてから脱衣所に隠していたリボンを手にKKの元へ行き、居間でテレビを見ているKKの隣に座る。
「お待たせ、KK」
こっちを向いたKKの視線がリボンに移動するのを感じながらショッキングピンクを首に巻いていく。何度か練習のため結んだからか、少し皺のできてしまったそれは綺麗に結べるようになった筈なのに。KKに見られているとドキドキしてしまって指がうまく動かず歪に結ばれてしまった。
そして。
「プレゼントは僕」
なーんて、と冗談めかそうとする前にKKが首筋に噛み付いた。
「あ、けぇ、」
「俺の欲しいもの、よく分かったな」
一生大事にする。やっぱなしとか言うなよ?ふぅふぅと荒い息が、硬い髭が首を刺激する。僕が欲しくて我慢できないんだ、話し終えるのも待てないくらい。ぞくぞくとした感覚が背骨から上がってくる。可愛らしいバードキスを繰り返してはちゅうちゅう吸われ、歯を立て、リボンと首の境を舐め上げられ舌を差し込まれてから、派手な色の端っこを咥えたKKがニィと笑う。
「包装は解いていいんだよな?」
こくりと頷く。全部あげる。今までもこれからも、全部KKのだよ。
するりとリボンが首から解かれ、裾に差し込まれる愛しい手を目を閉じて受け入れた。おめでとうを言うのは、もう少し後になりそうだ。
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