生き残った者がみなもらう ひとりの背が高く体躯の良い目つきの鋭い男が、中央と東の国の境の町をふらりと歩いていた。大きな荷物を背負い、きょろきょろと辺りを見回している仕草を見るに、どうやら旅人らしかった。
この町の中心には、齢四百年を超える大樹が、今もなお、豊かに緑の葉を茂らせている。旅人は、その木を見止めて懐かしいものを見るように目を細めた。 空は橙色の光が割合を占め、カラスが一羽、二羽、カアカアと飛び去って行く。 町の教会の鐘が六つ鳴った。東の国に近く、王都よりはやや雨量の多くじめっとした空気の町では、鐘の音はやや鈍くぼやりと広がるように男は感じた。 彼が腰を据えて過ごした南の国の乾燥した山の上では、音は澄んだままどこまでも突き抜けていったものだった。
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