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    mamedaihuku228

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    mamedaihuku228

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    ビリグレ小説②
    遠距離恋愛みたいなことしてるビリグレ。

    #ビリグレ
    bigotry
    #エリオス
    elios

     まだ肌寒さが残る早朝。珍しく薄い霧がエリオスタワーを包み込み、ロビーにいたビリーは少しでも寒さがマシになるよう、黒の手袋越しに両手を摩っては温めるように息を吐いた。ヒーローである事を示す黒を基調とした制服は、もうそろそろ上着を脱いでもいいぐらいの季節だが、今朝の気温で半袖は身体を冷やしてしまうし、かといって昼になれば長袖ではうっすらと汗を掻いてしまう。なんとも複雑な季節である。
    誰もが憧れるヒーローの居住地でもあるのだから、タワーの中ぐらい常に適切な温度を保ってくれればいいのだが、エコだとかなんとか環境とやらで、ある一定の時間はロビーなどの一部の室内機は切られているようだ。前にジャックとジャクリーンが言っていた。
     そんな事をぼんやりと考えながら、受付もいない無機質な空間のロビーで、ビリーは静寂に包まれながらジッと待っていた。
     前に届いたのは二日前。その前は四日前。そのもっと前はいつだったか。指折り数えるのも嫌になってしまった。
    受付の椅子に適当に座って、スマホのアプリ画面をタッチして、ログインボーナスを受け取る。そして日課のミッションをこなし、イベント限定のガチャを引く。もうそれは慣れたもので、ビリーがそれをやり忘れる事なんて無い。今はここにいない、グレイ・リヴァースから受けた依頼だ。
    『ビリーくん、どうしよう…。疲れて寝ちゃうだなんて。せっかくのイベントボーナスが…』
     そう言って、肩を落としたような彼のしゅんとした声を思い出し、ビリーはくすくすと笑う。
     グレイは少し前からグリーイースト所か、ニューミリオンにもいない。彼は現在進行形で出張中となっている。それは彼が出張に行く前、ブラッドに呼び止められた事で始まった。

     サブスタンスによる恩恵と災厄を与えられる事となったニューミリオンは、誰もが憧れる街という名と同時に、後ろ暗い者達の標的ともなっていた。イクリプスは勿論の事、それ以外にも密輸団やギャングなど、サブスタンスを狙う者は多い。そんな中、あるサブスタンスが密輸されたのだ。本来ならニューミリオン内で事前に防げたらよかったのだが、相手がかなり上手くやったらしい。気付いた時にはミリオン州から出て、海外まで渡った後だった。
     そのため、数人のヒーローがそのサブスタンスと密輸団捕獲のために海外出張となり、キースを主軸とした簡易的な班が結成された。その選ばれたうちの一人がグレイであった。
     新人ヒーローで研修中となっているが、LOMも終えたばかりであり、今は大きなイベントも予定されていない。それにその場での洞察力に優れており、協力する海外の警察とも不仲にはならず、グレイならば国外で問題を起こす事もないだろう。何よりも、出張場所は日本。グレイは片言ではあるが日本語が話せる。言語が通じるのは強みだ。それに滅多にないニューミリオン以外でのヒーローとしての活動は、貴重な経験となるだろう。
    メンターリーダーであるブラッド直属の指名に、部屋に戻ってきたグレイは信じられないと言っていた。少し前のグレイであったら、考えられない事だ。
    「グレイ、行っちゃうの?」
     この時、ビリーは声が震えていなかったか、思い出すことが出来なかった。ただ彼が数日間だけでもいなくなってしまうという現実に、酷く狼狽していた事しか覚えていない。
     グレイは最初、その緩やかな瞳を申し訳なさそうに伏せて、だけど最後には真っ直ぐにビリーを見た。「行くよ」と、彼が告げる声はとても強い意志で、グレイが実は頑固者だという事を思い出す。ここでビリーが泣いて喚いて甘えても、彼はきっと日本へ行ってしまうだろう。だからビリーは努めて明るく振舞った。
    「さっすがグレイ!メンターリーダー直々の御指名なんて中々ないよ!努力が認められたって事だネ♪」
    そう言って引き出しの中にあった、瓶詰の飴玉をグレイの胸に押し付けた。
    「これが無くなる前に帰ってこないと、ボクちん泣いちゃうからネ」
     まだ封も開けられていない色鮮やかな飴玉は、一体幾つ入っているのかわからない。だけどグレイはそれを受け取って、頷いてくれたのだ。

    「ビリーちゃま~♪」
     ジャクリーンの可愛らしい声がロビーに響き、ビリーはスマホを仕舞った。彼女の明るい笑顔と声により、無機質だったロビーが一気に華やぐ。彼女の後ろにはジャックがいて、その手には幾つかの便箋が握られている。近くまで来たジャクリーンがぴょいと飛んで抱き着くのを、ビリーは軽く受け止めた。AIだとか、高性能ロボットだとか言われている彼女は想像しているよりもずっと軽い。これだけ感情豊かなのも驚きだが、この軽さで作ってしまえるノヴァ博士は本当に凄い人なのだろう。
    「ビリーちゃま、お手紙持ってきたノ~」
    「HEY、いつもサンキュー♪」
     そう言って彼女を子供をあやす様に高く掲げて見せるが、ジャクリーンの両手には勿論手紙なんてものはない。
    「ジャクリーン、肝心の手紙を忘れてイマスヨ」
     やれやれと言うように、ジャクリーンの後を追っていたジャックがビリーに便箋を渡す。これもいつものやり取りであった。主に家事炊事などの雑用を担ってくれるジャックは、エリオス宛に送られてきた物を配布する役目もこなしてくれる。それらは全てスキャンされ、諸々の検査などをクリアしてからようやく手元にやって来る。
    ヒーローは慕われもするが、恨まれもする。万が一にも危険物が入っている可能性もあるので、申し訳ないが、ファンからヒーロー個人への贈り物は禁止されており、もしも送られてきたらジャックが送り返す様になっていた。
     ビリーは受け取った便箋を眺めると、想像していた通りの送り主に思わず笑みが綻んだ。ジャックはそれを見ると、つられる様に笑った顔を見せてくれる。
    「フフ、早く帰ってきてくれるといいデスネ」
    「そうだよネ~、グレイってば遅すぎ!このままじゃ、ボクちん寂しすぎて夜も眠れないヨ~」
     そう言ってしくしくと泣き真似をすると、ジャクリーンが心配そうに頭を撫でてくれた。
    「ビリーちゃま、大丈夫ナノ。眠れない時はジャクリーンがお歌を歌ってあげるノ♪」
     そう言って何処かの国の歌を歌ってくれる。うる覚えなのかもしれないそれは、時折鼻歌になったりもしたが、ジャクリーンなりの思いやりを感じた。
    「ジャクリーン、そろそろ行きマショウ。出社時間までまだありますので、ゆっくりしてクダサイネ」
    「サンキュー、ジャック。ジャクリーンも」
    「またねナノ~♪」
     奥の通路へと行くジャック達を見送ると、ビリーは素早く丁寧に便箋を開けた。
     送り主はグレイ・リヴァースだ。スマホが普及する時代に、こんなアナログな方法で連絡を取るには訳がある。日本へと出張となったグレイは、その後無事に密輸団を捕まえる事には成功したが、その仲間となっている運び屋がサブスタンスの核を持ったまま逃亡してしまったのだ。元々時差のせいで連絡も取り辛かったが、その捜索が難航しているせいで互いに連絡を取り合う時間が合わないのだ。ビリーも情報屋で時間が不規則な事もあり、グレイが出張となってから声を聞けたのは数える程度だ。話したい事も聞きたい事も、山ほどあると言うのに。距離があるというのが、こんなにも辛いだなんて思いもしなかった。
     その内、忙しさのせいでお気に入りのアプリゲームにログイン出来ないと嘆くグレイに変わり、代役を引き受ける事となったのだ。彼はそれを喜んで、だけど最後にビリーの声が聴けないのが一番悲しいと、ぽつりと言っていた。その後、「弱音を吐いて、ごめん」と、慌てて謝っていたが。
     ビリーだって悲しい。だけどどれだけビリーの力を行使しても、グレイの傍へと飛んでいく事も出来ない。ビリーは彼が少しでも明るい気持ちになれるようにと、「頑張ってネ!」と心を込めて応援したのが最後の電話だった。
    それから数日して、ビリーの元へ手紙が届いたのだ。シンプルな白の便箋だったり、日本の城が描かれた葉書だったり。形は様々だが、数日おきに届くようになったそれは、グレイなりに考えた手段なのだろう。だけどそれは確実で、ビリーの心を慰めてくれるものだった。だから毎朝早くに起きて、手紙を配るジャック達から一番に受け取れるようにと、このロビーで待つようになっていた。手紙が無い日は落ち込んだし、届いた日は天にも昇る様な気持ちだった。唯一残念に思うのは、ビリーからグレイに手紙を渡せない事だ。グレイは捜査のために頻繁に移動しているので、住所が定まっていない。なので届くのはグレイからビリー宛の、一方通行な手紙である。
    「さてさて、今回はなんて書いてるかな~♪」
     部屋に戻る距離すら我慢が出来ず、ビリーは中に目を通した。彼の性格を表すような、小さな字だが丁寧に書かれた文字の羅列。いつもと変わりない挨拶から始まり、日本という国の事や、簡単な近状報告。折り目正しく丁寧に書かれた手紙は、友人や恋人に宛てるなら少々堅苦しいだろう。だけどそれが彼らしいとすら思える。そうして最後の文章まで読み終え、ビリーは懐の飴玉を取り出し、その包みを開けた。
     じっくりと読んでいたせいか、エリオスタワーを包んでいた霧はいつの間にか晴れていて、タワーのガラス張りの向こう側からは朝日が昇っていた。青と赤が混じった朝焼けは美しく、飴玉で透かしたそれは、グレイの瞳の色と重なった。そうだ、彼はこんな朝焼けのような瞳をしていて、ビリーを見つめてくれる。
     グレイはその飴玉を口に放り込むと、また手紙を読んだ。鉛筆を取り出し、違和感のあった最後の空白部分を塗りつぶす。浮いて出てきたのは、消してしまったのだろうたったひとつの言葉だった。
    いつも必ず最後に書かれる、だけど消されてしまう言葉。「君に会いたい」という、グレイの気持ち。ビリーはそれを貪るように、何度も何度も繰り返し読むのだ。

     もしもビリーが一羽の鳥ならば、すぐにでも朝焼けの向こう側へと飛んでいくのに。













     
     
     まだ肌寒さが残る、夜とも言える様な早朝。ニューミリオンと日本では季節はあまり大差がないようで、だけどこちらの方が湿気が多く、故郷とはまた違う寒さや暑さがある。グレイはひとつ、緊張をとく様に細い息を吐いた。協力関係である警察数名と、身を顰めるように寂れたアパートの前で待機をするが、ピリピリとした空気のせいもあって、指先は緊張でいつまでも冷えたままだ。すると先陣を切っていたキースが、その目的の部屋へと突入した。
     グレイは最初、キースと共に日本で密輸団とサブスタンスを捕獲する任務を受けていた。しかし密輸団を捕まえたまでは良かったが、肝心のサブスタンは未だ運び屋と共に逃走中である。せっかくブラッドがグレイを指名してくれたというのに、こんな結果になってしまうとは情けない。しかし落ち込んでばかりはいられないと、目撃情報や逃走ルートを割り出し、この寂れたアパートに潜伏しているとわかったのだ。
     しばらくすると、キースが突入した部屋から出てくると、頭上でバツの形を両腕で作る。どうやら空振りのようだ。
    グレイはまたかと、大きくてじめじめするような溜息を吐いた。グレイと共に待機していた警察も、同じような反応である。寂れたアパートの階段を降りてきたキースが、気持ち悪そうにふらつきながらグレイの元へとやってくる。
    「うっぷ、昨日の酒が効いてやがる…。やっぱり逃げた後だったみたいだ。もぬけの殻だ」
    「そうですか…」
     キースの言葉に、グレイは肩を落とした。近くにいた中年の警察に片言ながらもそれを伝えると、彼は頷いて他の者たちの指示へと回る。
    グレイはそんな彼らの姿に申し訳なさを感じながら、また溜息を吐いた。運び屋の後を追い続けてはいるが、イタチごっこのように追っては逃げられを繰り返している状態だ。せっかくブラッドが直々に指名してくれて、ビリーも応援して見送ってくれたのに。それにグリーンイーストでグレイがいないという事は、その一人分の仕事が他の人へと渡ると言う事だ。自らのチームに負担を掛けているかもしれないと思うと、元々強靭な方ではないグレイの胃がキリキリと痛む。掴んだと思えばするりと逃げてしまう相手に、任務一つも満足にこなせないなんて、とネガティブな方向へと陥るグレイ。するとキースが隣で煙草を咥えると、それに火を点ける。
    「グレイ」
    「は、はい…ゲホッ、ッ!?」
     返事をすると同時に煙草の煙を吹き付けられて、グレイは思わず咳込んだ。突然の事に驚いていると、今度は暗い空に向けて煙を吐き出している。
    「今、余計な事考えただろ」
    「す、すいません…」
     彼とも日本で数日間共に過ごしたせいか、只でさえネガティブであるグレイが、ずぶずぶとそちらの方へと落ちていく状態がわかるようになったらしい。時折気付けのように、煙草を吹きかける。
    「どーせ、せっかく指名されたのに~だとか、向こうに負担を掛けてるかも~だとか、面倒くさい事ばっか考えてんだろ」
    「す、すいません…。僕、任務ひとつ、全然うまく出来ないから…どうしても…」
    「言語も環境も違う場所で、突然ポンと放り込まれたんようなもんだ。何もかも全部上手くいく筈がねえ。それに運び屋を逃がしちまったのも、お前だけじゃなくて俺たち全員のミスだ。…お前はよくやってるよ」
     最後にぽつりと呟いた言葉は、キースの本心だろう。彼はらしくないと思ったのか、こちらを見ずに暗い空ばかりを見上げている。
    「…ありがとうございます」
     キースの言葉に、グレイは一度だけ瞼を閉じると、同じように空を見上げた。きっとまた運び屋を捕まえるために、忙しい時間を過ごす事となるだろう。束の間の休息と言う様に、ゆっくりと暗闇から顔を出す夜明けを見つめる。
     ニューミリオンから離れて数日が経った。しばらくの間、ビリーの声を聞けていない。時差の事や、目まぐるしい忙しさのせいで連絡を取り合うのが難しいのだ。
     ビリーに任務の事を報告した時、「グレイ、行っちゃうの?」とゴーグルの向こう側が揺らいだ気がした。だけど一瞬でそれが無かったかのように明るく振舞い、グレイに瓶詰の飴玉を渡したのだ。これが無くなる前に帰ってきて欲しいと。その飴も、懐に入っているので最後となってしまった。約束が守れそうにない事に、心の中で「ごめんね、ビリーくん」と何度も謝る。
     一方的に送り付けている手紙に、沢山の謝罪を書こう。そして全部が終わったら、彼の好きそうなお菓子をお土産にして帰るのだ。日本のお菓子は美味しいと聞くから、彼もきっと気に入るだろう。
     仕事が上手くいかない事、彼に会えない事、全部が思い通りにならなくて、だけどその寂しさや悲しさを彼に伝える訳にはいかなかった。大見得切ってとまでは言わないが、それでも任された仕事ひとつ満足にこなせず、彼に泣き付く事なんて出来ない。だから手紙は努めて暗くならないようにしているのだが、いつも最後はどうしても本音が漏れてしまう。なので見れない様に慌てて消してはいるが、自分の感情すらもままならないのかと情けなくなってしまう。
     グレイはそれを誤魔化す様に、懐の飴を取り出した。梱包が解かれていないそれを、空へと透かすようにして翳す。夜と朝が混じる朝焼けは、まるでビリーの瞳の様だった。彼の瞳は朝焼けのような、晴れた日の青空のような、そんな瞳をしている。
     この朝焼けの向こう側で、彼は今何をして、何を思っているのだろうか。身体を悪くはしていないか、情報屋の仕事で無理をしていないか、彼の事だからほとんどの事をうまくこなせてしまうだろうが、それでも心配である事には変わりない。家族やバディにもそうだが、一番に思うのは彼だった。ビリーに会いたい。
    「ああ、そういえば…もうちょい時間が掛かりそうって言ったら、ブラッドが助っ人送るってよ」
     それはつまり、追加でヒーローが送られてくるという事だろう。キースが「最初からそうしてくれりゃあ楽だったのに」と、ブツブツと文句を言っているのをグレイは苦笑いをする。新たに来るヒーローとは、一体誰の事だろう。
    「まあ、もうちょいすりゃあ来るだろ」
     これでちょっとは肩の荷が下りると、リーダーとしてそれなりに張りつめていたのだろう、キースが煙草をふかす。グレイは「そうですね」と頷こうとすると、途端に視界が暗闇に覆われ、「うわわっ!?」と悲鳴を上げる。
    「だーれだ?」
     グレイの脳裏で、彼の姿が浮かぶ。もしかして、追加で送られてくるヒーローとは彼の事だったのだろうか。しかしグレイの希望は打ち砕かれてしまう。
    「ヒントは、ラブアンドピース!」
    「…あ、はは…ディノ先輩、ですよね」
     そう言ってグレイの視界を覆っていた手を解く。ラブアンドピースと口癖のように言っているのは彼しかいない。頼りになる先輩が来てくれたのだから、勝手に落ち込んでいないで喜ばないと。そう思ってグレイが振り返ると、途端に信じられないというように目を丸くした。
    「えっ…ビリー、くん…?」
    「ヤッホー、グレイ!」
     グレイの背後には、ビリー・ワイズ張本人がいた。どこからどう見ても彼で、さらにその後ろにはグレイが先程言い当てたディノがいて、悪戯っ子のようにして笑う。
    「ニヒヒ、引っ掛かった、引っ掛かった♪」
     どうやらグレイの視界を覆っていたのがビリーで、声を掛けたのがディノであったようだ。これで当てろと言う方が難しいだろう。だけどグレイにとってそんな事よりも、ここにビリーがいる事の方が驚きであった。
    「ど、どうしてここに…?」
    「どうしてって、そっちのお仕事が大変みたいだから、オイラとディノパイセンが応援に駆け付けたんだヨ!」
     ビリーが「ネッ?」とディノに言うと、「俺たちが来たからには百人力~」と、明るく手を上げた。それを見ていたキースは、やれやれと言いながらも、頼もしい仲間が来てくれた事を喜んでいるようだ。
    「ビ、ビリーくん…本当に、本物のビリーくん…?」
    「HAHAHA~、正真正銘のビリー・ワイズだよ!なんなら手紙の内容や、グレイが日本に行く前に約束した事も言えちゃうヨ」
     そう言って、グレイが握っていた飴を取ると、梱包を解いて口の中に放り込まれる。飴特有の甘ったるさと、舌で跳ねるようなシュワシュワとした感覚はソーダの味だ。
    「グレイ、ギリギリセーフだったネ」
     グレイはまるで何年かぶりの再会のような感覚と、目の前に彼がいるという事だけで胸が一杯だった。何もかも上手くいかなくて、だけど彼がいるならまた頑張れるという気持ちで、こくりと頷く。
     ディノがキースの元へと向かい、気合を入れるようにその背中を叩いた。
    「さあ、それじゃあ捜査を始めよう。こっちにはニューミリオンきっての情報屋がいるんだからね!」
    「お~、頼りにしてるぞ」
    「ハーイ、情報ならオイラにお任せ~♪」
     ニューミリオンと日本では勝手が違うかもしれないが、それでもビリーならすぐに慣れるだろう。
    「ビ、ビリーくんやディノ先輩が来てくれて、すごく心強いよ」
     グレイがそう言うとビリーは満足げに笑い、ディノは「ラブアンドピース!」と高らかに空へと向けた。
     


     日はもう既に昇り、あの美しさは一瞬で終わってしまう。先を行くディノたちの後を追う中、グレイはビリーの腕を引いた。
    「ビ、ビリーくん…」
    「どうしたの、グレイ」
     言いにくそうに視線を彷徨わせながらも、だけどグレイは最後には真っ直ぐにビリーを見た。
    「ずっと…君に、会いたかった」
     ようやく出た言葉は手紙で何度も消してしまった言葉で、けどようやく言えたそれはグレイのずっと隠していた本心だった。ビリーはゴーグルを外して嬉しそうに笑い、グレイに飛びつく。
    「知ってた♥」
    耳元でそう囁かれて、何もかもお見通しだったのだと、グレイは気が抜けたようにへにゃりと笑った。もうとっくに日の出の時間も過ぎているというのに、まるで朝焼けが迎えに来てくれたような、そんな気持ちでグレイも抱きしめ返した。
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    mamedaihuku228

    DONEビリー×バンドマングレイ。だけど腐要素少ない…。もっとイチャイチャさせたいのに、なぜ…!!
    ボヘミアンを観て、バンドマングレイがビリーに向けて舞台の上からキス贈ってくれるの見て~~~ってなりました。照れながらやってくれ~~~観た作品に影響されまくります。フェイスはそういうの手慣れてそう。ジュニアはやらない。
    グレイはステージに立つとジェットみたいになるので、プライベートではファンに気付かれません。
     薄暗いステージの上で、目も眩むような眩しいスポットライトを浴びている。全身はジリジリとサウナのように熱いのに、身体の内側を巡る血液だけはひんやりと冷たい気がする。この妙な冷たさはいつまで経っても慣れないし、小鹿の様に震える足は治まる気配すらなくて情けない気持ちでいっぱいだ。それなのに、何度もこのステージの上に来てしまうのはなぜなのだろう。

     エンターテインメントに溢れる街として若者に親しまれるイエローウエストアイランド。賑やかなカジノや遊園地などがある中心部から少し逸れた所に小さなライブ会場があり、グレイはそのステージの上でギターを抱え、マイクの前でスポットライトを浴びていた。
    観客入場数は五十人程が限界だとスタッフから聞いていたが、明らかにキャパオーバーであろう人達がギュウギュウとすし詰め状態にされている。まるで満員電車の中のよう、苦しくて不快な筈なのに、グレイに期待の眼差しを向けている。はやく、はやく、と訴える目は輝いていて、ボールを前にする愛犬のバデイとそっくりだ。
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    mamedaihuku228

    DOODLEマフィアパロ…?9割ジェイのビリグレ、だけどかなり薄いめ。
    全然活かしきれてないけど、自分がマフィアだといえばそうなる!!
    冷酷で冷静にマフィアの仕事をこなすグレイの事を、堅気に戻ってほしいとこっそり願って見守るジェイ。久々過ぎて文章が難産過ぎたけど、書きたい所だけ書いた感じです(笑)
    本編だけなく、あらゆる世界の可能性を見出してくれる…ありがとうエリオス!!!
    マフィアパロ? 僕は、今日からドンの影です。

     そう言ったヘーゼルの瞳の青年は、いつしか言葉通りドンの影となった。

     陽射しも穏やかで、微睡むような昼下がり。ジェイは最近見つけたお気に入りの海辺のカフェで、ゆっくりと珈琲とドーナツを楽しんでいた。一見すると何処にでもいそうな男性市民であるが、裏の顔はニューミリオンで名を馳せるマフィアのドンだ。そんな物騒な名前を背負っているので、本来なら護衛を付けて外出するのが正解なのだが、ドーナツ一つを買うのに黒塗りのベンツを用意して、厳しい顔をした護衛をカフェにまで連れ回すのは気が引けるし、このゆっくりと時間が流れるような穏やかな店に如何にも堅気ではない男たちでテーブルを埋めるのは気の毒だ。何よりも、ジェイ自身が一人で出掛けたい気分であったのだ。たまにはマフィアのドンという姿を脱ぎ捨てて、ニューミリオンとドーナツをこよなく愛するジェイというただの男に戻りたい時もある。いつものパリッとしたスーツもコートも脱いで、シャツとボトムスとサンダルを穿けばあっという間だ。
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    mamedaihuku228

    DONE初夜的な感じのビリグレ。フェイスくんも出てきます。詳しく言うとただ準備をするだけで、エッチではありません。エッチな事はしてません。大切な事なので二回言いました。 寮に入った時に二人で選んだソファに並んで座り、それぞれのカレンダー帳に赤い丸の印をつける。グレイのカレンダー帳には新作のゲームやフィギュアの発売日など、自身の趣味に関する事や、仕事の事などがぽつりぽつりとメモされているぐらいだ。きっとビリーのものは自分とは違って、情報屋の事や友人との予定などで埋め尽くされているのだろうとグレイは思っていたのだが、一瞬中が見えてしまったそれはグレイと似たようなものだった。それに気が付いたビリーは「グレイのエッチ♥」だなんて、カレンダー帳を胸に当てて隠すので、偶然であるとはいえ人のプライバシーを許可なく覗き込んでしまったと、「ごめんなさい!わざとじゃなくて…!」と、慌てて両手で目を隠して謝った。
    「ウソウソ♪グレイなら見てもいいヨ。情報屋の方は別にあるから、こっちは完璧ぼくチン用」
     そう言ってビリーが中を開いて見せるのを、とりあえず情報屋での秘密保持などは問題が無い事にほっとしつつ、そろりと指の隙間から覗いてみるが、細かく綺麗な字で書かれたそれはやはりグレイのものと大差ないものであった。パトロールの予定日、休日、マジックでの買い出し日、そしてグレイと同 7666

    mamedaihuku228

    DONEビリグレ小説②
    遠距離恋愛みたいなことしてるビリグレ。
     まだ肌寒さが残る早朝。珍しく薄い霧がエリオスタワーを包み込み、ロビーにいたビリーは少しでも寒さがマシになるよう、黒の手袋越しに両手を摩っては温めるように息を吐いた。ヒーローである事を示す黒を基調とした制服は、もうそろそろ上着を脱いでもいいぐらいの季節だが、今朝の気温で半袖は身体を冷やしてしまうし、かといって昼になれば長袖ではうっすらと汗を掻いてしまう。なんとも複雑な季節である。
    誰もが憧れるヒーローの居住地でもあるのだから、タワーの中ぐらい常に適切な温度を保ってくれればいいのだが、エコだとかなんとか環境とやらで、ある一定の時間はロビーなどの一部の室内機は切られているようだ。前にジャックとジャクリーンが言っていた。
     そんな事をぼんやりと考えながら、受付もいない無機質な空間のロビーで、ビリーは静寂に包まれながらジッと待っていた。
     前に届いたのは二日前。その前は四日前。そのもっと前はいつだったか。指折り数えるのも嫌になってしまった。
    受付の椅子に適当に座って、スマホのアプリ画面をタッチして、ログインボーナスを受け取る。そして日課のミッションをこなし、イベント限定のガチャを引く。もうそれ 8219

    mamedaihuku228

    SPOILERエリオス8章ネタバレ。ビリグレで捏造ありです。 冷たい手足の指先を、父がささくれた大きな手で温めてくれる。ビリーはたった一枚の毛布とベッドを、父と一緒に身を寄せ合う様にして包まって、互いに寒さをしのいでいた。
    あらゆる地域を回ってマジックを披露する父の収入は不安定で、狭い部屋にベッドを無理やり置いたような、何の設備も無い相部屋の格安のホテルに泊まる事なんてザラである。しかしビリーにとって、ベッドの狭さや寒さよりも気になるのが埃っぽい部屋の事だった。別のベッドで眠る男も、身なりやこういった格安のホテルに泊まる事からして、ビリー達と同じく金銭に余裕がないのだろう。だから彼から汗や男独特の濃い匂いがしても仕方がない事なのだ。それでも少々潔癖の気があるビリーにしてみれば、それも眉を顰めてしまう。それに何よりも、こういったセキュリティやプライバシーなんて存在しない場所では、窃盗が起こりやすい。ビリーももっと幼い頃に、ここと似たようなホテルで昼寝をしていたら、ポケットに入れて置いたお菓子と小銭が盗られそうになったのだ。幸いトイレから帰ってきた父がそれを取り返してくれたが、あれ以来誰かといる時は警戒するようにしている。
    汚い部屋に、相部屋の男。 4302

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    DOODLE寝ている彼とアイマスク (ビリグレ)

    昨日の特別配信2部のネタバレ?あり。
    付き合ってるビリグレです。
    ちょっと可愛らしいお話にしてみました。
    短いです。
    ゲーム内のボスを倒し、グレイは「ふぅ」と一息ついた。
    しばらく同じ体勢だった体は凝り固まっていたので、それを解すように体を伸ばし、関節の骨をぽきぽき鳴らす。
    時計を見ると、日を跨ぎ時刻は1時を指していた。

    「明日は…朝からパトロールか、寝なきゃ…」

    以前、寝不足で体調を崩してからは睡眠時間の確保に気を使うようになった。
    とはいえ、今日は少し遅くなってしまったなとグレイは心の中で小さな反省をした。
    このままネガティブな気持ちになってしまうのも良くない、とルームメイトであり恋人でもあるオレンジ髪の彼によく言われているため、気持ちを切り替えて、その彼に一言声をかけてから寝よう、と隣の整理整頓された部屋をちらっと見てみる。
    すると、彼は既にベッドに横たわっていた。
    いつもはこの時間でも起きていて、いそいそと情報集めをしているのだが。

    (今日は疲れちゃったのかな…)

    実を言うと、グレイはあまり彼、もといビリーの寝顔を見たことがなかった。
    もしかしてこれ、チャンスなのでは?とグレイの心の中に興味心がうずうずと湧いてしまった。
    そうとなれば、意外にも行動は早かった。
    そっと、ビリーを起こさな 1368

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     一歩違えば落下死に直面するというのに、グレイは自分の全権を、全幅の信頼を、当然と言うかの如く寄せてくる。
     それが、むずがゆくて、あたたかくて、うれしくて、何とも表現しづらいのだが、グレイと出会って初めて覚えたこれが、おそらく『あいしている』という気持ちなのだろう。

    ↑ってビリー・ワイズが言ってました
    山場とか落ちとかは消えた……どこ……
    極東の夜鳥




     消灯時間が過ぎ、日付も越え、辺りがしんと静まる、そんな深い夜。

     ふと、就寝中のグレイは眩しさを感じ、閉じていた目蓋をゆっくりと押し上げる。

    「…………っ」

     開けたばかりの目を、思わず力を入れてもう一度閉じ、眉間にしわが寄った。
     まぶしい、周囲は真っ暗だというのに、

     何故か、まぶしい。

     オプシンを生成して明順応をすればいいのか、ロドプシンを生成して暗順応をすべきなのか。
     まるで両目の機能が混乱しているかのようだ。
     しかしそのまぶしさの中に、ひときわ強く輝くなにかが見えた気がして、グレイは目が光に痛むのを堪えて今一度、目蓋を上げた。




     ────月だ。




     向かい側に位置する太陽の光を反射した、その丸い天体が、地球へと光を注いでいる。

     満月によるものか、過ぎた月明かりは周囲に存在しているはずのいくつもの星々を掻き消し、貴様らの出る幕はないとばかりに夜空を明るく照らしていた。
     建物の陰影がくっきりと伸びる様は昼間の光と混同してしまいそうになる。
     グレイは上体を起こし、布団から出て窓の方へと歩を進め、そっとカーテンの隙間を閉じ… 5660