🍬🧁誰か、僕の頬を引っ叩いてくれないか。まだ夢でもみているのかもしれない。言っても信じてくれかもしれないが僕の目の前には見慣れたゴーグルを掛けた可愛らしく元気なビリーくんではなく、やけに色っぽい雰囲気を纏った……まるで……まるで、大人になったビリーくんのようなその人がゴーグルを取り去った瑠璃色の瞳で小さく縮こまる僕を捕らえる。
「…び、ビリーくん………?」
「………ピンポーーン♡」
楽しそうに僕を見下ろすビリーくんは見慣れた面影なんかちっとも残ってなくて……。
「10年前のグレイってこんなに可愛いかったんだネ?」
ねとりと低い声で耳元に息が吹き込まれるともう腰が震えて立ってられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。しかし、逃がさない、と追い詰めるように顎を持ち上げられ視線を強制的に戻される。鼻と鼻がくっつきそうなほど近い。ビリーくんとだってこんなに近い距離になったことがない。バクバクとうるさく鳴る心臓が、ふわりと鼻腔を通るこの匂いが、全身が、目の前にいる人がビリーくんだと言っている。
「……うぅ…ビリーくんはどこいっちゃったの……?」
こんなの、知らない。ビリーくんはもっと可愛らしくて、優しくて……こんなにエロくて目のやり場に困るようなかっこいい人、ビリーくんなわけがない。
「……俺とグレイの関係って……ただの友達?」
「…ちがう、ただの友達じゃなくて…僕とビリーくんは…………そんな言葉で表せられないような、もっともっと……………大切で、大事な…………………お友達…です」
「ふぅん、そっかそっか。じゃああともう少しだネ」
「……?なにが、ですか」
「……そのうち分かるよ、……ふふ、今のグレイは真っ白だね、味見したら…流石に怒られそうだからやめておこうかな?」
「…??え、そんなに顔色しろい?ですか、」
違うよ、そう言うと僕の鼻をかぷりと口に含んだ。
悪戯っ子みたいに薄く笑うビリーくん。呆然とする僕の手を包み込むと「one、two、…three☆」と指を鳴らす。
「わ、……きれい、」
すると僕の手の中にはいつの間にか花が一輪握られてて、視線を手元から前に移すともうビリーくんの姿はどこにもなかったんだ。
「……夢?」
夢にしては、なんだかとってもリアルな……。
淡い紅紫の花を手のひらに広げると、頭上から「グレイ!!!」と聞き慣れた声が降ってくる。
「ビリーくん!!…どこ行ってたの?」
「あ…それはちょっと…それより、変なやつがここにこなかった???」
「変な人?は来てないよ」
「そっか、そ……あぁ〜〜〜とりあえず、グレイが無事でよかったぁ〜〜〜」
「??、うん?よくわからないけど、おかえりなさい……ビリーくん」
ぎゅーーーっと強く抱きしめられる。
安心する嗅ぎ慣れたその匂い。嗚呼、ビリーくんだぁ…そう思うとなんだか安心してビリーくんの首筋にぽすりと鼻を埋めた。
「…ただいまグレイ……ってそのお花どうしたの?」
「ああ…これ、ビリーくん?に貰ったの」
「….もしかして、オイラそっくりの人?」
「あ、うん!そっくりだった…ビリーくんじゃないのにビリーくんみたいで、なんだかドキドキしちゃった」
「そ、……かぁ〜……」
か細い声で言葉を漏らすビリーくんは、なんだか全身真っ赤になっていた。
「あ、あのネ、実は………」
ビリーくんの紡いだ言葉に、僕は開いた口がしばらく塞がらなかった。
【10年後の自分と入れ替わるサブスタンス】にかかってしまい、ビリーくんは10年後の世界にいってしまったんだと。そういうことだった。
「…10年後の世界は…どうなってた?」
おそるおそる、口を開いた僕の問いに、ビリーくんはゆっくりとこちらを見る。
「…言ってもいいの?」
「……あ…、やっぱり…いい、や」
「ほんとに?オイラは別に言ってもいいけど」
「10年後の楽しみにしてる。その時はビリーくんは29歳……僕は35歳で…あわわ…………僕、お、おっさんだ…」
「大丈夫、10年後のグレイも美人でとっても可愛いかったから……あ。」
「…!!、10年後も僕たち一緒にいるの?」
「そ、そうだヨ!!友達だもん!」
「えへへ…友達…えへへ…よかったぁ」
☆☆☆☆
「さっき10年前のビリーくんが来てたよ」
「ん、知ってる」
台所に立つグレイの腰を後ろから抱きしめるとグレイはくすぐったそうに髪を揺らした。
「10年前のビリーくんはあんなに可愛かったのになぁ」
「ふぅん、今の俺は可愛くない?」
「隙あれば触ってくる大人ビリーくんは可愛くなんてありませーん」
べーーっと舌をだしてくるグレイは、とんでもなく可愛い。思わずニヤけてしまう程に。逆にこんなにエロいグレイが目の前にいて触らない人がいたら見てみたい。まぁ触ったら誰であろうとブッ殺すんだけど。
「どっちのグレイも可愛いけど、10年前の自分に嫉妬しちゃう今のグレイのほうが俺好みで好きだなぁ?」
耳元で囁くと耳まで真っ赤になったグレイがくるりと身体ごと振り向く。
「ビリーくんなんて……もうっ、し、…しらない!」
図星だったのだろう、恥ずかしさでグレイの琥珀色の瞳がじわりと潤んでいく。目元に浮かぶ涙を舐めとると、そのまま導かれるかのように鼻にキスを落とす。
コトコトと柔らかくなるまで煮込まれたカレーライス。美味しい夕飯を食べた後のデザートは、もちろん……。
アズマギクノの花言葉。
【尊い愛】【また会う日まで】【しばしの別れ】