どうやら高杉くんは銀時に手作りケーキを作りたいそうです。じゃあ行ってくるね、と銀時が久々に帰ってきた天人の娘、神楽と道場の師範役を務める新八の元に遊びに行ったのは1時間ほど前だったか、退屈で付けたテレビをぼんやりと膝に乗った銀色の猫、猫銀を撫でながら眺めていると流れてきたニュースに気になるものを見つけた。
『今日はバレンタインデーです、甘い匂いと共に町は賑わっていますね〜!どうですか?あなたも恋人や、気になるあの人に甘いチョコレートに気持ちを乗せてあなたも思いを伝えてみませんか?』
「ばれん、たいん…?」
よくわからないけれど何やら甘いチョコレートを好きな相手にプレゼントする行事らしい、そういえば昔また子も騒いでいたような気がする。
ぼんやりと甘いチョコレートの特集を眺めていると猫銀がにゃんっと一声鳴いてこちらを見あげてきた。
「…あいつ、こういう甘いもの…好きだったよな」
ちょっと高いやつを買いに行こうか、と考えていると紫色の猫、猫杉が近づいてきて猫銀の毛繕いをはじめた。
何となく見ていると思い出したのは『お前ってあんまり好きって言ってくれないね』なんていう銀時の言葉、そんなつもりはないしきちんと行動で伝えているつもりだがどうやらあまり伝わっていないようで言われた時は落ち込んだものだ。
『え、すごいこれ手作りなんですか!?』
『えぇ、手作りの方が気持ちが篭ってる感じがして!』
ぴくりとテレビから流れてきたその言葉に顔をあげると本当に手作りなのか疑いたくなるほど綺麗なチョコレートが映っていた、ふむと顎に手を当てて考える。
「手作り…か…」
あの銀色は手作りの甘味を喜んでくれるだろうか、なんて考えながらスマホを手に取りまた子にメッセージを送った。
そういえば自分は銀時から台所立ち入り禁止令を出されていたのだった、けれど買ってきたものは味気のないお菓子作り用の硬いチョコレートとその他材料だけでこれだけ渡しても銀時の眉が顰められるだけだ。
仕方ない、今回は禁止令を破ろうかとさっそくまた子から送られてきたレシピ通り湯煎しはじめる。
「これ、本当に合っているのか?溶けねぇじゃねぇか…」
眉を顰めながら見つめるそれは、随分ゆっくり溶けているが当の本人からすれば溶けていないらしい、あろうことか鍋に火をかけた。
「にゃー!」
猫銀が飛び出してきてにゃっにゃっと騒ぎ始める、やめろよせバカと言わんばかりに高杉の足に猫パンチをするが高杉は不思議そうにそれを見下ろすだけ。
「なんだ、飯ならもう食ったろ?」
「にゃー!!!!」
バカ!火を止めろ!と騒ぐが高杉は沸騰しねぇなと火力をあげる。
「にゃーん!!!!」
何やってんだよ!火を止めろって言ってんの!と銀猫は鍋をひっくり返して止めようと台所に飛び乗るが高杉に抱き上げられそれを阻止される。
「あ、こら、てめぇ銀時に怒られるぞ」
ひょいと銀猫を床に下ろして小さな頭を撫でる、チョコレートは分離をはじめた。
「…なんか違ぇな…?」
すっかり脂肪分とカカオが分離してしまったそれを不思議そうに見つめる高杉に銀猫は呆れた目で見つめる、ちゃんとまた子のメッセージに直接火にかけないと書いてあるだろと机にあるメッセージを見つめた。
「…まあ、そんなこともあらァ、使ってるチョコが違うんだろ」
「に…」
いやチョコの種類関係ねぇよ、と銀猫はジト目で次の高杉の動向を見守る。
有塩バターを溶かしたチョコに混ぜはじめた。
ちょっとまて、なんで有塩バターなんだと銀猫はツッコミたかったがまあ別にそこはいいかと銀猫はため息をつきながらメッセージに書かれていた材料に無塩バターと書かれているのを見た。
「卵黄を入れるんだったか?」
卵黄ってこれだよな、と卵を割るとパーンっと言う音と共にぐちゃぐちゃに砕けぼたぼたと可哀想な卵が地面に落ちていく。
「…?なんでだ?」
銀時がやると綺麗に割れるのに、と呟く高杉
「…」
おめぇの力加減の問題だわとため息の止まらない銀猫となんだなんだどうしたと音を聞いて近寄ってくる猫杉。
「にー」
「食うなよ猫杉、片付けるからあっちいってろ」
「にー」
猫杉はあっちいってろと言われて不服そうに銀猫の所へきて何やってんだ?とすりんっと頭を擦り付けて来る。
「にー」
「んにゅ?」
高杉を見守ってんだ、というとあいつを?って不思議そうに高杉を見て興味なさそうに去っていった。
床掃除が終わりさっそくお菓子作りを再開する高杉、すっかり冷めてしまったチョコに卵黄を一気に入れる、お前数回にわけて入れると書いてるだろとスマホを叩くと高杉はちらりとこちらを見るだけで反応はしない。
「うん、なんか…違うがまあいい」
「に…」
よくねぇわ、分離してるじゃねぇか、混ざってねぇぞと言いたいが生憎、銀猫は所詮猫なので喋れない。
さてここで別のボウルに卵白を入れてハンドミキサーを取り出した高杉はメレンゲを作り始めた、だがこいつ、グラニュー糖を入れ忘れている。
それに気づかずにあまり泡立っていないそれを一気にチョコに入れた。
「にゃ!にゃ!」
おいまてそれメレンゲになってねぇグラニュー糖入ってねぇしあと一気にぶち込むのをやめろ!と猫銀は騒ぐが猫の言葉など理解できない高杉はどうした?とうるさそうにこちらを見てくるだけ。
ああ〜もう、こいつ本当に…と頭を抱える猫銀を他所にそれをかき混ぜて粉類をふるいにかけずにぶち込んでいく。
「あとは…あ、オーブンつけてない」
「にゃ…」
そういえばこいつあっためてないじゃないか、と見守っているとオーブンを弄りはじめた高杉、大丈夫か?こいつ大丈夫か?とおろおろ見守っていると猫杉がこちらにきて首根っこを咥えてこっちにこいと引きずっていく。
ぼんっと何かが爆発する音がした。
なんでオーブン弄るだけでそんな音が鳴るの、と猫銀は猫杉に毛繕いされてペショペショになりながらため息をついた。
「まあ、オーブンは壊れたが何とかできた」
ちょっと焦げたガトーショコラ、今絶対爆発した音がしたのにどうやって作ったんだよ、と煙を出す明らかに壊れたオーブンを見ていると玄関から「ただいまー」と銀時の声がした。
「あれ、なんか煙い…」
「おかえり、銀時」
「ただいま〜、なんか煙くねこの家…」
寒い外から帰ってきた銀時の赤くなった頬を両手で挟んであっためて、ちゅっとキスしてきた高杉にキスを返して抱きつく、高杉に抱っこされていた猫銀は2人にサンドされてむにっとなった。
「に〜」
おかえり〜と近寄ってきた猫杉を銀時は抱っこしてただいま、とキスをすると高杉はこっちにこいと台所に連れていく。
「なに?どうしたの?」
「これ」
「チョコケーキ?あ、これもしかしてガトーショコラ?」
「ん」
わ〜とキラキラした目で不格好なそれを見て銀時は嬉しそうな顔をする。
「高杉が作ったの?初めてだろ?上手だな〜!嬉しい!ありがとう!」
と嬉しそうに笑う銀時、その顔を見て満足そうに、ほっとしたように顔を綻ばせた高杉に銀猫は良かったなとにゃーと鳴いた。
見た目は不格好ながらも甘いガトーショコラで満足した銀時はその夜そわそわとした様子で高杉の元に近寄り、布団の上で高杉を上目遣いで見つめた。
「あ、あのね…あんな嬉しいもの貰った後だから渡しづらいんだけど…」
受け取ってくれる?と懐からプレゼントを差し出した。
中身はチョコのマフィンだった。