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    minato18_

    一時的な格納庫

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    マレマリ/現パロで裏界隈パロ
    家庭教師ペロ×中学生マリス
    ※かずこそを含みます

    ざっくりとしたキャラ設定はこちら(https://twitter.com/minato18_/status/1333681719161982976?s=20)から

    ##マレマリ

    はじめての顔 家族、恋人、友人。様々な関係性の人間たちが行き交うテーマパークの一角に、そのマスコットはいた。
    「ばいばい、りすさん!」
     手を振る少女をぴょんぴょんと飛び跳ねて見送っていたマスコットは、小さな背中が見えなくなるとその場に崩れ落ちた。通りすがりのカップルが何事かと視線を送ってくるが構っていられない。
    「……あ、つい……!」
     呻くように呟いて、マリスは黒目に空いた穴の向こうに微かに見える憎たらしいほど青い空を見上げた。



     事の始まりは昨日の帰り道。期末試験が終わり、来る冬休みについて思いを馳せていたときに親友が見せてきた一枚のチラシだった。
    「着ぐるみバイト?」
    「ああ。学生でも時給は千円、休憩と昼食付き。悪くない条件だろう?」
    「まあ…確かに」
     マリスたちの地元で千円越えの時給はすごいと思う。だが、それが一体どうしたというのだろうか。問い掛ける前に、目を輝かせた総士がぐっと身を乗り出してきた。
    「一緒にやらないか、マリス」
    「えっ?」
     勢いと内容の双方に驚き思わず一歩後ろに下がる。そんなマリスの様子など気にする素振りもなく、総士は言葉を続けた。
    「もうすぐクリスマスだろう? 一騎に何か贈り物がしたくて。そのための資金が欲しいんだ」
    「……一騎さんにお小遣いもらってるだろ?」
    「それじゃ意味がない!」
     確かに、贈る相手からもらったお金で買うのと自力で稼いだお金で買うのでは心持ちが違うだろう。
    「マリスだって尊さんに贈り物をするんだろう? どうせなら自分の手で稼いだお金で買いたいと思わないか?」
     想い人の名前を出されて言葉に詰まる。総士の言う通り、日頃のお礼と称してプレゼントを渡すつもりだし、そのために小遣いもこつこつと貯めてきた。
     だけど。もし、あなたのために働いて買ったものだと言って渡したら、尊はどんな反応をするだろう。偉いねと褒めてくれるだろうか。嬉しいと笑ってくれるだろうか。
    「…………」
     葛藤を始めたマリスを見て満足そうに笑った総士はチラシを差し出してくる。
    「決まりだな。明日、10時に迎えに行く」



    「こ、こんなにキツいなんて、聞いてないぞ……!」
     建物裏のベンチでぐったりしながらこれまでの経緯を思い出し、別のところでうさぎになってぴょんぴよん跳ねているであろう親友に恨み言を呟く。
     着ぐるみを着て動くのがこれ程大変だとは思わなかった。今まで何となく見てきた着ぐるみの中の人全てに尊敬の念を抱く。これからはすれ違うときにお辞儀をしてしまいそうだ。
     単純な動きの制限もそうだが、何と言っても子どもたちの相手をするのに多大なエネルギーを使う。駆け寄ってきた勢いそのままに飛び付いたり、こちらの手を引いて走り回ったり、とにかく子どもは自由でパワフルだ。おかげでシフトの半分しか経っていないのにくたくたである。
     しかし、音を上げている場合ではない。全ては尊に少しでも振り向いてもらうためだ。
    「……よし」
     気合いを入れ直してりすの頭を被り、持ち場へ戻る。すると、そこにはひとりの女の子がいた。年の頃はマリスより少し幼いくらいだろうか。綺麗な黒髪を靡かせながら、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。もしかしてと思い足早に近付くと、こちらに気付いた少女はぱぁっと顔を輝かせ、近くの木陰に声をかけた。
    「いた! いたよ、姫!」
     木陰から人影が現れる。ひとりは声をかけた少女と瓜二つの女の子だった。もうひとりは背の高い男性だ。帽子を目深に被っているので年齢までは分からない。父親か兄だろうか。
    「はしゃぎ過ぎよ、お姉ちゃん」
    「ごめんね。でも、嬉しくて」
     姫と呼ばれた少女はひとりめの少女──姉らしい──のところまでくると呆れたように呟いた。姉は笑みを崩さず応える。何故だろう、見た目よりも大人びた空気を感じる。これまで触れ合ってきた子どもたちより静かだからだろうか。
     それにしても見れば見るほど似ている姉妹だ。 思わずじっと観察していると少女たちとの間に男性が入ってきた。顔が見えないとは言え不躾なことをしたと反省し、謝罪を口にしようとした時だった。
    「写真を頼んでもいいかい?」
     よく知った涼やかな声が聞こえた。え、と思って見上げた先に帽子で隠れていた顔がある。それは、マリスの想い人である海神尊のものだった。
     あまりの衝撃に思わず声をあげそうになるのをぎりぎりのところで抑え込む。心臓が全力疾走した後かのようにばくばくと音を立てはじめた。
     なんでこんなところに。この少女たちとはどういう関係なのか。まさか隠し子とか…!?
    「えっと…大丈夫かな?」
     混乱のあまり有り得ないところに飛躍した思考は他ならぬ尊によって引き戻された。心配そうに覗き込んでくる端正な顔にそれまでとは違う意味で心臓が跳ねる。慌ててぶんぶんと首を縦に振ると優しい声で「よかった」と言われた。
    「さあお姫さまたち、並んで」
     尊の言葉を受けた少女たちが両隣に来る。ふたりの背中に手を添えたところで尊がカメラをこちらに向けてきた。あれは一眼レフだろうか。え、かっこいい。
    「1+1は?」
    「にー!」
     元気な声と共にシャッターが切られる。すぐさま姉が尊に駆け寄り撮った写真を確認する。じっと画面を見ていた少女は、しばらくしてから「よく撮れてる」と笑った。それを聞いた尊が嬉しそうに微笑む。その綺麗な笑みから目が離せなくなった。
     家庭教師として以外の彼の姿を見るのは初めてだが、やはり尊は何をしていてもかっこいい。纏う空気そのものがきらきらと光っているような気がする。眩しくて直視できないのに、いつまでも見ていたいと思う。
     ああ、このバイトをやってよかった。あとで総士にジュースでもおごってやろう。
    「せっかくだから尊も撮ってもらいなさい」
    「そうだね、お願いしようかな」
     それまで静かだった妹が不意に放った言葉に思考が止まった。マリスが彼女の言葉を理解し終わる前に尊が隣へやってきて、ぐいっと肩を抱き寄せられる。
    「笑って、可愛いりすさん?」
     そんな言葉が、聞こえた気がした。



    「―――で、そこからは記憶が曖昧だ、と」
     夕方。くたくたになった身体を引きずりながら、マリスと総士はオレンジ色に染まる道を歩いていた。いつものように互いのことを報告しあったところで総士が目を丸くする。
    「うん……」
    「何やってるんだよ」
     表情を驚きから呆れに変えた親友に返す言葉もない。我ながら動揺しすぎだと思う。
    「でもしょうがないだろ!? あんな、だ、抱きしめられる、なんて…っ」
    「さすがに初心すぎないか?」
    「うるさいな! 小さい頃から一騎さんに抱きしめてもらってるお前と一緒にするな!」
    「確かに僕は何度も抱きしめてもらっているが、代わりにその先に進むのがすっごく大変なんだぞ…!」
     ふたり同時に足が止まる。身体が軋む音が聞こえてくる気がした。ぜーぜーと肩で息をしながら顔を見合わせ、これまた同時に吹き出して笑う。
    「お疲れ、総士。誘ってくれてありがと」
    「僕の方こそ、付き合ってくれてありがとう。お疲れ、マリス」
     互いの苦労を称え合い、マリスと総士はそれぞれの家への道を歩き出した。



       ***



     重厚な扉が閉まる音を聞き、知らず詰めていた息を吐き出す。思ったより緊張していたようだ。今度は意識して大きく息を吐いてから帽子とコートを脱いだ。奥の部屋から誰かが歩いてくるが、顔を見ずとも気配で相手が分かったので気にせずブーツを脱ぎにかかる。
    「おかえり、マレスペロ」
    「ただいま、ニヒト」
    「姫たちは」
    「シャワーを浴びてくるってさ」
    「そうか」
     やっとブーツを脱ぎ終わり顔をあげると、予想通り組合ナンバー2の男が立っていた。
    「護衛してくれたこと、感謝する。せっかくの休日だったのにすまない」
    「いいよ。僕もいい事があったし」
    「いい事?」
    「うん」
     可愛らしいマスコットを思い返し、自然と笑みが浮かぶ。クロノス経由で情報をもらったときは半信半疑だったが、まさか本当にあの子が着ぐるみバイトをしているなんて。
     一体何に使うお金なのだろうか。興味がないわけではないが、ここから先は踏み込み過ぎになる。
     肩入れしてはいけない。あの子と自分では、生きる世界が違うのだから。



     ―――数日後。彼のバイトの理由が他でもない自分だったと知ったマレスペロはお返しに頭を悩ませることになるのだが、それはまた別の話。
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