きみへの餞(甲洋と一騎と総士) 予感は、あった。
それはクラス分け表で二つの名前が上下に並んでいるのを見たときからだ。
真壁一騎。
皆城総士。
実に五年ぶりだ。それまで二分の一の確率を引き続けていた二人が、同じクラスになる。
(十六分の一と三十二分の一の差はでかいもんな)
瞬時に別のクラスになり続ける確率を計算している自分に肩をすくめ体育館の外へと歩を進める。始業式の前に最低二人は断らなければ、今日中に全員に返事ができない。
歩きながらも一人目の子に告げる断りの文言を頭の中で確認していたせいで、心に浮かんだ予感めいたものの正体に、このときの甲洋は気づくことができなかった。
そして、それは唐突に目の前に突き付けられた。
「一騎。良いか?」
自分の声を遮った人物を振り返り、甲洋は思わず呆気に取られてしまった。
「用事って……総士とか?」
「ああ……」
どことなく気まずそうな顔で頷く一騎を見て何か言わなくてはと思った。
「へえ……四年と七ヶ月と十一日ぶりだな」
それで出てきたのがこんな言葉だなんて、我ながら呆れてしまう。案の定総士が不思議そうな顔をした。
「お前たちが、そうやって一緒に帰るところを見るのが、さ」
どうして二人が疎遠になったのか、甲洋には知る由もない。一騎には聞くタイミングがいくらでもあった。そうしなかったのは、それが一騎にとって触れられたくないことだと思ったからだ。
心の奥底に絡みついて離れない冷たい鎖。自分の中にも似たようなものがある。何かがあるたびに擦れて金属音を立てるそれは酷く不快で、解放されるにはこの島を出るしかないと思った。一騎もそうだと思っていた。今、この瞬間までは。
「子供の頃から、ずっと仲良かったもんな。そうだよな。そういうもんだよな」
最初から愛されていない自分とは根本から違ったのだ。全ては甲洋が『そう在ってほしい』と願っていただけに過ぎない。
「単に、用事が出来ただけだ。行こう」
淡々とした言葉で会話を切り上げ背中を向けた総士に、「素直じゃないな」と心の中で返して。
「何でも、きっかけが大事さ」
鎖から解き放たれようとしている一騎の背中を押した。
―――そうして、二人が並んで教室から出て行くのを見送ってから、ふと、思った。
明日から一騎と総士は一緒に登校するのだろうか。それなら、自分が居たら邪魔だな。せっかく四年と七ヶ月と十一日――明日だと十二日ぶりか? ともかく、久しぶりに話すのなら、水を差すわけにはいかないと思った。
となると、明日からは一人で登校することになるのか。一人で郵便ポストと勘違いされている下駄箱から手紙を取り出して、それに対する何とも言えない気持ちを誰とも分かち合うこともなく処理しなくてはいけないのか。
「………」
込み上げてくるものがある。それが何なのかを頭が理解する前にそっと心に蓋をした。
「―――そういうもんだよな」
かろうじて吐き出された、精一杯の寂しさは、誰に届くこともなく風に溶けて消えた。